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そして、アドレーヌは眠る。  作者: 緋島礼桜
第四篇  蘇芳に染まらない情熱の空
314/360

64項

     







 一方その頃、ソラ、カムフ、レイラたちは旅館内で祭の準備に追われていた。

 今は薄藍色の羽織を何とか縫い終えてカムフの料理の仕込みを手伝っていた。


「ホントはまだまだ他の準備もあるのにさ、何でレイラはカムフの手伝いがしたいの?」


 と、ソラはレイラを睨み付ける。

 二人は明日使用するための野菜を川で水洗いして、それをキッチンに運んでいた。運ばれた野菜たちはカムフによって切り刻まれ、明日に備えて貯蔵室に保管される。


「そりゃあ…カムフの作業大変そうだし…?」


 顔を背けながらそんな言い訳をするレイラ。ソラは「ふーん」と言って白い目を向ける。


「てっきり()()()()に手料理を食べさせたいから手伝ってるのかと思った」


 意地悪く、というよりは意地を張って語気を強めたソラは洗った野菜を籠に乗せていく。

 何処か苛立ちすら見えるソラの言葉にレイラは顔を顰めた。


「そ、そんなわけないでしょう? ホントに大変だと思ったから…料理作るのがこんな大変だったって思わなかったから…だから、手伝ってあげたくなっただけ! それだけよ!」


 そう叫んだレイラだったが、そんな彼女を後目にさっさと旅館に戻ろうとするソラ。

 レイラは慌てて籠を抱えると、ソラを追いかけつつ話す。


「だってそうじゃない? 最新のエナ装置にはこういう野菜の洗浄装置だって断裁装置だって開発されてるって聞くのにそういうの使わないでカムフがほぼ一人でこなしてんだから」

「そりゃあそういうのあればだいぶ楽なんだろうけどさ。そこまで凄い装置買うなんてなったら莫大なお金必要だろうし……仕方ないじゃん」


 正面を向いて歩きながらソラは言う。

 確かにソラも最新のエナ技術は凄い、という噂は聞いていた。

 エナエネルギーを利用した装置たちが、人力に代わり色々と便利なことをやってくれると言うのだ。人を運ぶこともそう。野菜を切ることだって、食べ物を冷やすことだって、明かりを灯すことさえも全てエナがやってくれる。


「……エナって何なんだろうね」

「はあ?」


 突拍子もない漠然としたソラの疑問にレイラが素っ頓狂な声を上げるのも無理はない。

 だがレイラは律儀に唸り声を洩らしつつも彼女の質問に答えた。


「うーん…まあ…学問所で習った程度では大地から生み出される高エネルギー体で、わたしたちにも微弱ながら宿ってるって話だけど、結局のところは未知のエネルギーって定義ね」





 アドレーヌ王国建国の立役者である女神―――アドレーヌ・エナ・リンクス女王。

 彼女の使った()()()()()は争乱によって腐敗した大地を復活させ、争乱自体も終結させた。

 そのとき、彼女の()()()()()が大地に根付き、それが今日まで人々を豊かにするエネルギー体と成ったのだと伝えられている。

 そんな彼女の伝説からそのエネルギー体には彼女の中間名である『エナ』の名が付けられた。

 しかし、そこまで古くから存在が確認されているエネルギー体(エナ)は長年研究が禁止されていた。

 開発が再開されたのは百年近く前のことだが、その百年足らずでエナ研究はここまで目まぐるしく発展したとも言える。

 シマの村のような辺境の地では未だ馴染みのない技術ではあるが、エナは今や人の衣食住にはなくてはならない存在となっていた。





「けどさ、実はエナって今もずっと女神アドレーヌが生み出し続けてるって説もあるんでしょ? ウミ=ズオの本に書いてあったけど『エナは人体には有毒だであるはずなのに、何故か生命体に微弱ながら宿っている。ならばいつの日かエナの毒性を克服した人間が現れ、エナを自在に生成し操作することが可能な≪エナ使い≫が現れる日もそう遠くない』ってさ! ≪エナ使い≫なんてホントに現れるのかな?」


 と、ソラはウミ=ズオの著書を思い返しながら熱く語る。

 だがそんな様子の彼女を見るなり今度はレイラが意地悪い笑みを浮かべながら言った。


「へぇ~、なんだかんだ文句言いつつもウミ=ズオの本ちゃんと読んでるしそんな御伽噺めいたのを信じてるんだ~?」


 レイラの笑みが癪に触り、ソラは慌ててかぶりを強く振りながら叫んだ。


「違う違う! 最近みんなウミ=ズオの話ばっかするからなんか内容を覚えちゃっただけ! それにあたしは人体に毒だって言ってんのにそんなよく判んない力(エナ)を使うのって危なくない? って話が言いたいの!」


 ソラはムキになった勢いのまま、扉をドンと開け放つ。

 すると扉の向こうでは祭の準備をしていた村人たちが、驚いた顔で一斉にソラを見た。


「ご…ごめんなさい」


 集中していく視線を受けたソラは顔を真っ赤にさせ、そそくさと食堂へ逃げる。

 続いてレイラも後を追いかけるが、その顔は嫌なほどにやけている。

 ソラは思わずレイラの横腹を思いっきり小突いた。

 それから程なくしていつもの口ゲンカへと発展し、カムフが駆け付けることとなる。







     

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