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そして、アドレーヌは眠る。  作者: 緋島礼桜
第四篇  蘇芳に染まらない情熱の空
298/360

48項

      







 朝食という名の夜食が終わり、それから解散となったのは夜も更けた頃だった。

 カムフは一つの戦闘か嵐があったのではという程散乱しているキッチンを片付けるべく、一人食堂に残って作業を始め。他の皆は各々帰路に立った。

 と言ってもロゼとレイラ、キースの寝室は旅館内であるためそこまでの移動距離はないのだが。


「それじゃあ、おやすみなさい」

「あ! ちょっと、待って!」


 レイラは自分の部屋へ戻ろうとしたロゼを慌てて呼び止める。


「さ、さっきの料理…ホントは昨日のお詫びも兼ねてたんだけど……まあそれどころじゃなかったけど……どうだった…?」

「どうって…?」

「出来あがりの感想よ! ロゼからは直接聞いてなかったから…一応、参考までに聞きたいのよ!」


 ムキになっているのか、顔を真っ赤にさせるレイラ。

 わざわざ呼び止めるほどのことなのだろうか。と、小首を傾げつつも、ロゼは思った感想(こと)を口にした。


「そうね…私がこれまでに食べた中で一番だった卵料理―――には、まだまだ程遠いわね」

「ほ、褒めてくれないの!? そこそこは褒めるとこでしょ、ここは!」

「私は褒めて伸ばしてあげるタイプじゃないのよ。まあ…どうしても褒めて欲しいなら『美味しかった』って舌を巻くほどの料理を作れるようになるしかないわね」


 挑発的な口振り。だが言葉とは裏腹にロゼの表情は穏やかで。楽しそうなその笑顔にレイラは思わず顔を背けてから叫んだ。


「い、言ったわね! じゃあ絶対に作ってやるわよ! だから…覚悟して待ってなさいよ!」


 そう言い残してレイラは逃げるように部屋へと帰ってしまった。

 残されたキースは訳もわからない様子であったものの、律儀にロゼへ一礼すると姉の後を追って部屋へ入っていった。

 ロゼはそんな姉弟を、部屋の扉が閉まるまで見送る。

 扉が閉まりきり、廊下がしんと静まり返る。

 と、ロゼは静かにため息をつくとおもむろに歩き出す。向かった先は自身の寝室―――ではなく。元来た道を戻っていった。

 そうして辿り着いた場所はエントランスを見渡せる踊り階段であった。

 食堂の奥からは未だカムフが戦っている最中なのだろう、ガチャガチャと食器を洗う音が聞こえてくるがそこへ足を運ぶわけでもなく。

 ロゼは階段を下りた先にあるフロントへと行く。

 そして、辿り着くなり彼はため息交じりにそこで頬杖を突いて言った。


「…隠れる必要って、あるの?」

「―――うぅ、なんでわかったの…わざわざ一回旅館から出て、それで戻ってきたってのにさ…?」


 フロントの後ろ。そこでは身を潜めるようにソラが屈んでいた。

 彼女はロゼと目が合うなり、ばつの悪そうに口先を尖らせている。 


「分かるに決まっているでしょう? この旅館、歴史が長い分建付けが悪いもの」


 築数百年以上を誇る≪ツモの湯≫は、造りこそ頑丈であるものの、古い建造物特有の歪みや建付けの悪さがあちらこちらにある。

 廊下が鴬張りになってしまっている箇所や、玄関の扉が開閉する際に別の扉がガタガタと揺れてしまう。などということはよくあることだった。


「ええっ、そうなることも考えて一応…風音も立てないように頑張って来たんだけどな…」

「…それで? 何か用があって戻って来たのでしょう? それとも私以外に用事なの…?」

「うぐぐ…そこは分かってくれないんだ…」


 そう言い返して拗ねた顔をするソラ。

 その表情はまるで『察しろ』と言いたげで。一応ながら心当たりがあるロゼは、ため息交じりに言った。


「―――もしかして、こんな時間だっていうのに今から稽古がしたいってことかしら…?」

「…うん。ほら、だって今日はまだ稽古出来てなかったし」

「でもどうして? もう遅い時刻だし、別に明日でもいいでしょうに」


 そう言われてしまえば、ソラは何も言い返せなくなり俯いたまま口篭もる。

 実際のところ彼女自身も何故、こんな行動に出て、こんなことを言ってしまったのか。

 あまりよくは判っていなかったのだ。

 






     

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