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そして、アドレーヌは眠る。  作者: 緋島礼桜
第四篇  蘇芳に染まらない情熱の空
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42項

    







 川沿いに辿り着いた四人はそこで鮎取りをすることにした。と言っても、釣り竿で釣るわけではない。

 ソラは持ってきていた荷物の中から網の仕掛けを取り出す。


「簡単に説明するとこの網を川底に沈めて鮎が中に入ったところをゲットするって感じ」

「え? 釣り竿とか手で取るんじゃないの?」

「これが一番楽だからってカムフが」


 ちなみに仕掛け網はカムフが利用しているものだ。仕掛け方は何度か彼の鮎獲りに立ち会っているため、解っている。

 だが大量に捕獲できるときもあれば一匹も取れないときもある。


「だから仕掛けをして待ってる間に皆で山菜を集めしようかなって―――」

「じゃあそっちは任せたわ」


 突然そう言い出すとレイラは片手をひらひらと振りながらソラを横切っていく。


「は? ちょっとどういうことさ!?」


 目を丸くしながらソラは慌ててレイラの肩を掴み止める。

 振り返るレイラは平然とした顔で「なに?」と、何故か不機嫌そうな表情で返した。


「手分した方が早いでしょ? 山菜採りはわたしが行くからアンタらは鮎が取れなかったときのために他の魚でも釣っててよ」

「いやいや! 山菜って言っても見分け付かないのだってあるし、毒草と間違えたらどうすんのさ?」

「失礼しちゃうわね! 何年この村にいたと思ってんのよ?」


 そう強気に言い張るレイラ。

 だが、かつてこの村に住んでいたとはいえ山林を一人で行かせるのは危険であり、()()()()()のこともある。

 最近は姿を見せなくなったとはいえど一抹の不安は未だ拭い切れない。

 だがレイラの言葉には一理あり、他の魚もいくつか釣っておきたいところ。そう思っていたからこそソラもカムフの釣り道具を予め失敬してきていた。

 すると、ソラの後方でそれまで腕を組んで静観していたロゼが口を開いた。


「それなら私も一緒に山菜採りへ行くわ」


 意外な申し出に驚いたのはソラだけではない。レイラも目を丸くしてロゼを見つめる。


「え…」

「えー…見間違えたり…しないよね」

「安心なさい。どれだけ長い間旅をしていたと思っているの?」


 と、ロゼは自信満々に胸を張る。そんな彼をしかめっ面で見つめるソラ。


「うぅ…わかった。その代わり、毒キノコとか採ってきたら承知しないからね!」


 鳥たちが羽ばたいていってしまう程の大きな声で念を押すソラ。

 そんな彼女の叫びを聞いているのかいないのか。軽くあしらうように返答しつつ、レイラとロゼの二人は森の奥へと消えていく。


「ホントに大丈夫かな、あの二人で…」


 ソラは思わずそんなぼやきをキースに投げかける。

 キースは困ったような顔をしながらも、しばらくして力強く頷き返した。


「…まあ、キースが言うなら…問題ないか」


 そう言って自分で納得させつつ、ソラは釣りの準備を始めた。

 手慣れた様子で釣り針に餌を取り付けていくキースを横目に見つめながら、ソラはふとあることを思い出す。

 それは、先刻のロゼの言葉に含まれる小さな違和感だった。


「そういや……()()()()()()()()()って…今も旅の途中なんじゃないの…?」



 ひょんなことから一緒に山菜採りをすることとなったレイラとロゼの二人。

 山林の中を進む二人ではあるが、そこに会話はほとんどなく。

 気まずいレベルのもの静かな雰囲気が続いている。

 レイラは不意にロゼを一瞥する。山菜どころかこの風景とも無縁そうな外見の反面、そういったものに詳しいと豪語する男。

 一体どうして、何故なのか。と、レイラの脳裏には疑問ばかりが浮かぶ。

 と、そう思い立った直後。レイラの口は自然と動いていた。


「そういえば…自己紹介がまだよね。わたしはレイラ・サジェ。ちなみに弟はキースね―――それで、アンタはなんて名前なの?」

「ロゼよ。呼び捨てで構わないわ」

「…じゃあ、ロゼはさ、どうしてこの村にいるの?」

「取材よ。ウミ=ズオ冒険譚って知っている? 私はアレを執筆しているのよ」


 ウミ=ズオ。その名前を聞いたレイラは「ああ」と、腑に落ちた様子で続けて尋ねた。


「ウミ=ズオってスオウコーデの流行作った人よね。だからその格好なの?」

「そうね」

「なるほどね。どうりで着こなしが完璧だと思ったのよね。街にもスオウコーデしてた友達がいたけどロゼほどは似合ってなかったもの」

「まあそうなるでしょうね。スオウコーデをここまで完璧に着こなせる人なんて私くらいしかいないわ」


 随分と自信家な発言だと思う反面、それも納得できると思ってしまうレイラ。

 濃いめの化粧が邪魔をしているものの、それなりの姿であれば女性どころか男性でも黙っていない程の麗人であることが容易にわかるからだ。

 だが、だからこそ。

 レイラはロゼが垣間見せる()()()がどうにも気になってしょうがなかった。


「スオウコーデがすっごい流行ったときって、流行に乗り遅れないよう無理して着てたり、何となくで着飾ってたりしてた友達がいてさ…そういう連中って大体似合ってなかったのよね~。だからロゼの衣装見るとそれが本家本元なんだなってホント眼福気分ね。けど…似合ってるってけどなんでかな、無理して着てる感? ってのがちょっとするのよね」


 そう話してからレイラはつい口が滑ったと思った。

 案の定、ロゼの視線は冷たく鋭くレイラを見つめている。


「―――どうしてそう思うの?」


 冷静に努めた口振りではあるが、その食い入った質問自体がロゼの腹の内を明かしているようだった。







     

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