表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
そして、アドレーヌは眠る。  作者: 緋島礼桜
第四篇  蘇芳に染まらない情熱の空
291/339

41項

     







 レイラと共に勢いよく倒れてしまったカムフは、運悪くトランクケースの角に頭を打った。

 一時白目を剥いて倒れた彼に顔面蒼白したソラたちは、早速隣室にいたロゼを強引に呼び出したほどだ。

 ロゼによって直ぐに自室に運ばれ介抱されたカムフだが、幸いなことに怪我は頭部に出来たタンコブ程度であった。


「思ったよりは大丈夫そうだけどなあ…」

「ダメよ。大したことはないとしても一応は安静にしておきなさい」

「そうそう。医者(せんせい)だって『せめて夕飯作るまでは寝てろ』って言ってたじゃん」


 自室のベッドで寝ているカムフにそう言い付けるロゼとソラ。

 珍しくカムフは不満げな顔を見せつつ、「わかった」と残念そうな声で布団を被った。

 子供っぽく拗ねた様子の彼にソラとロゼは互いにため息を吐きながら、静かに部屋を後にした。


「氷のう手放せない状態だってのにさ。なにが大丈夫さ。そんなわけないじゃん」

「きっとそれだけ腕によりをかけて振る舞いたかったのでしょうね。『食事がこの旅館唯一の華』って散々言っていたもの」


 しかし、肝心の料理人(カムフ)が怪我をしてしまっては料理どころか食材集めすら叶わない。諦めるしかない。

 と、通常はなるところなのだが―――。


「ま、代わりにあたしたちが食材集めてあげりゃあその間に安心して休むこともできるっしょ」

「…()()()()休めるかはわからないけれど、ね…」


 ロゼは気楽な顔をしているソラへそう言い返しつつ、前方を一瞥する。

 するとカムフの自室の向こう―――廊下では、心配そうに眉尻を下げるレイラと何度も頭を下げているキースが待っていた。


「…で? カムフは大丈夫そうなの…?」

「あたしたちが食材集めしとかないと代わりにすっ飛んでいきそうなくらいには。ね」


 少なからず責任を感じていたのだろうレイラであったが、ソラの言葉を聞くなり安堵に胸を撫で下ろす。

 が、他に聞き逃せない言葉があったらしく、レイラは急ぎ顔を上げた。


「ところで……あたしたちが食材集めするって…本気なの?」

「当たり前じゃん。レイラが怪我させたんだから責任取らないと!」


 責任。と言われてしまうとそれ以上反論することは出来ず。

 顰めた顔を見せつつもレイラは「わかったわよ」と素直に頷いた。





「―――それじゃあ鮎と山菜取りにしゅっぱーつ!」


 道具一式を持ったソラは意気揚々とそう叫びつつ森の奥へと入っていく。

 が、それを遮るようにしてレイラは強引に制止させた。


「ちょっと待って!」

「えー、何? 長靴は貸したじゃん」


 ソラは眉を顰めながらレイラの足下を一瞥する。編み上げのロングブーツでは歩きにくいというレイラの申し出で、急きょソラのブーツを貸していた。


「わたしは仕方ないとして…何でキースと()()()まで同行するのよ」


 レイラはそう言うとロゼを指差す。


「いいじゃん別に! 人数多い方が山菜も探しやすいし。それに何かあるかもしれないでしょ」

「何かって…まっさかこんな平凡な山奥で誘拐犯でも出るって言うの?」

「で、出るよ! 出てたし! しかも結構最近!」

「それはそれで物騒過ぎじゃない? だったら食材集めなんて止めた方が良いんじゃないの?」


 ムキになるソラに対し、レイラもついヒートアップしていく。

 二人の大声に鳥たちも大慌てで羽ばたき逃げていくほどだ。

 

「よくもまあ休まずに醜い争いが続けられるものね…」


 睨み合う二人の後方を歩くロゼは人知れずそんなことをぼやきつつ、ため息を吐く。

 と、彼の隣にはキースが黙々と歩いており、ロゼと視線さえ合わそうとしない。たまに目が合っても直ぐに逸らされてしまい、終始怯えた様子であった。


「本当…今日は災難だわ……」


 ロゼはそう呟いてからもう一度、深い深いため息を吐いた。


  





    

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ