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そして、アドレーヌは眠る。  作者: 緋島礼桜
第四篇  蘇芳に染まらない情熱の空
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39項

   







 わいわいとした賑やかさも一旦落ち着くと、皆はソファへと腰を掛け直した。

 と言っても向かい合わせ四人分の座席しかないため、ロゼはレイラとキースに席を譲りフロント近くの壁際に寄りかかる。

 本来ならば同席する必要など彼にはないのだが。


「せっかくなんでロゼさんも一緒にどうですか?」


 と、カムフの強い誘いを受けて、残ることにしたようであった。


(っていうか一緒にいたってつまんないだろうに…そんなに暇なのかな…)


 そんなことを思いつつソラはロゼを睨んでいるわけだが。彼女の視線を気にする様子もなく。ロゼは手にしていたコーヒーカップに口をつけていた。


「最後に会ったのって二年前の女神送り祭以来だけど…あれからなんも変わってなさそうね。アンタたち」

「そんなことないけど? あたしだって成長してるし体力づくりだって最近はしてるし?」


 開口一番レイラの挑発的な口振りに気分を害したソラ。

 あからさまなしかめっ面で反論するなり二人は再度、その双眸から火花を散らす。


「成長ぉ? ぜんっぜん幼稚体型のままじゃない? しかも知能は成長どころか退行してんじゃない?」

「どこをどうしたら知能が退行してるってさ!?」

「そういう短気なところよ!」


 八重歯を剥きだす両者。そんな二人を眺め、呆れたため息を吐くカムフとキース。だが同時にふと口許も緩ませる。


「懐かしいな、この痴話ゲンカも」


 カムフの耳打ちにキースは笑みを浮かべながらこくんと頷いた。




 そんな騒がしいエントランスの光景を臨みながら、一人静かにコーヒーを飲むロゼ。

 彼の視線は二人の少女へと向けられていた。


(なるほど…)


 一方は田舎感丸出しの男勝り少女。一方は流行を着飾ったお転婆少女。似ていないようで似ている二人。

 ならば対立するのも致し方ないのだろうとロゼは思う。

 と、彼はふとどこからかの視線に気付く。

 見ると時折キースがちらちらと此方を見ているようで。どうやら奇抜な出で立ちであるロゼを警戒しているのだろうと思われた。

 なにせその表情は初めて対面したときのソラと同じ顔をしていた。


(…まあ、警戒するのは当然か)


 そう思い直しロゼは改めてコーヒーを啜った。





「…っていうかさ…あそこで突っ立ってる人ってお客さん? このオンボロ旅館じゃ珍しく派手なお客じゃない」


 それまでしていた口ゲンカから一転、突然話題をすり替えるレイラ。

 片手を添えて囁いているとはいえ、その視線と声はロゼにも当然届いている。

 が、平然とした顔でロゼは空になったカップをフロントに置いていた。


「た、確かに派手かもしれないけどさ…まあ、そこまで悪い奴じゃないからね…!」


 思わずムキになって弁護したソラだが、口に出したことを後悔したように彼女の顔は真っ赤に染まっていく。


「あ、あのさオンボロってところはフォローしてくれないのか?」


 おずおずとカムフがそう尋ねたものの、その質問に対してソラはノーコメントであった。

 

「別に…わたしはただ事実を指摘しただけだし。それに同じ宿泊客なんだからここは仲良くしておきたいって思っただけよ」


 ジュースを飲みきったところでレイラは足を組み変えながらそう答える。

 彼女の言葉に誰よりも驚いたのはソラだった。


「と、泊まるの!?」

「手紙に書いてあったじゃない! 女神送り祭に参加するまでは宿泊するわよ」


 祭までは半月近くもある。そう考えただけでソラの顔色はサーッと青ざめていく。


「やだー…」

「別にアンタの家じゃないでしょーが!」


 露骨に嫌そうな顔をしているソラの反面。大歓迎とばかりに満面の笑顔で手もみするカムフ。

 彼はそうとわかるやいなや、早速ソファから立ち上がり二人分の荷物を抱えた。


「だったらまずは部屋に案内しないとな! ささ、どうぞどうぞこちらへ!」

「あ、それとカムフ」

「どうした?」

「おかわり」


 レイラは満面の笑みでそう言って持っていたグラスをカムフへ向けた。


「それ今じゃないとダメか…?」


 カムフため息交じりにそう言うと抱えていた鞄を静かに下していた。







   

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