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そして、アドレーヌは眠る。  作者: 緋島礼桜
第四篇  蘇芳に染まらない情熱の空
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32項

    








「あ、アイツを使う方が…ヤバくないですか?」

「腑抜けた貴様らに頼るよりは遥かにマシだ。今は別の場所に向かわせているが…奴が戻り次第そのガキの始末に向かわせる。貴様らは奴の案内役でもしてろ。いいな」


 そう言うとマスターは足音を立て、部屋の奥―――何処かへと消え去ってしまったようだった。

 残された二人はもう一度互いの顔を見合わせ、それから深く深く息を吐き出した。

 

「どうやら…とりあえず処断されずには済んだな」

「これで一安心ですぜぃ、アニキ!」


 が、兄貴分の男の顔色は優れない。彼は踵を返しその室内を立ち去りつつ語る。


「いや…そうとも言えねえよ…」

「その、グリートって男のことですかい…?」


 先ほどの暗い通路を戻っていく二人。

 恐る恐るゴンザレスは兄貴分の男の顔を覗き込む。


「グリート…奴はお前よりもちょっとばかり早くこの組織―――『丼鼠(どぶねずみ)()』に入ったわけだが…実質壊滅状態だったこの組織をここまで盛り返したのは奴のお蔭だ」


 しかしそう語る兄貴分の顔は顰められたまま。むしろ何処か恐怖に青ざめているようにも見えた。


「だがな。奴は…一言で言うならヤバいんだ。標的どころか周辺にいた住民や目撃者…奴を見た者は全て、跡形もなく焼き殺される」


 そうしてついた通り名が『灰燼の怪物』だと、兄貴分の男は付け足す。

 隣で話を聞いていたゴンザレスはみるみるうちに顔を青白くさせていき、静かに息を吞み込んだ。


「そ、そんな奴と一緒に行動なんかしちまったら…俺らまで焼き殺されちまうんじゃ…」

「ああ。あのクソマスターはそれが目的なんだろうぜ。あのガキや俺らもろ共…見せしめレベルで口封じする気だ」

「口封じなのに見せしめって…えげつねえですぜぃ、そりゃあ…」


 通路の出口。その光の向こうへと出た二人は降り注ぐ日光に思わず顔を顰める。

 そこは様々な商店露店が並ぶ大通りだった。まさかこのようなの中心部に組織のアジトがあるなど、誰が思うだろうか。

 そんなことを毎度感じつつ兄貴分の男は行き交う人々のけん騒に紛れる。


「けっ…今のマスターはやっぱクソだな! 昔はもっと芯の通った組織だったが…今じゃあ『()()()()』とやらの言いなりだ! だがな…俺らだってただでやられねえ! 見てろよ!」

「アニキ…声大きいですぜぃ」


 兄貴分の男は苛立ちを発散するべく、道ばたの石ころを蹴り飛ばして八つ当たりした。

 遠く広場の方へ勢いよく飛んでいったそれは、後に誰かの頭に瘤を作ることになるのだが。

 二人組はそんなことなど知る由もなく。人混みの中へ消えて行った。









「―――あいだっ!?」


 同時刻。

 その男は突然頭部に衝撃を受け、呻き声を上げながらその場にしゃがみ込んだ。

 地面に転がった石ころが原因だろうと直ぐに察したわけだが。生憎とその激痛に今は犯人捜しよりも痛みを堪えることしか出来ない。


「どうかしましたか? メンブルム殿…!」


 と、蹲る男へ歩み寄る男性。その人物はアマゾナイトの証である深緑色の服を纏っていた。

 駆け寄るなりそのアマゾナイトはメンブルムと呼ばれた男へ手を差し伸べる。が、メンブルムはしかめっ面のまま、

 彼はアマゾナイトが差し出した掌を跳ね除けた。


「結構だ。大した怪我ではない」

「いえ頭部より出血しているようなので、大した怪我かと思います」


 確かにメンブルムの額には鮮血が流れ落ちる。

 目撃していた周囲が彼の出血にどよめくが、当人は至って冷静でいた。

 懐からハンカチを取り出すとそれを額に押し当てた。


「これで充分だ」

「そんなことはないと思いますが…」


 しかしアマゾナイトの言葉も聞かず、メンブルムは偉そうに歩き始めた。


「そもそも…君が吾輩の視界から消えてくれればこの血の気も少しは引くと思うのだが」


 額にハンカチを押し付けながらメンブルムは並行するアマゾナイトを睨み付ける。

 その鋭い眼光に穏やかな笑みを返しつつ、アマゾナイトは言った。


「何を言いますか。ヴァラ・メンブルム殿と言えばその界隈では知らぬ者はいないほど著名なメンブルム商会の最高責任者…王族とも縁が深い貴殿の命が狙われていると噂があらば……我々も動かずにはいられません」

「良からぬ噂も、と…顔は言いたそうだがな」


 メンブルムの言葉にアマゾナイトの男性は顔色一つ変えず爽やかに微笑んで返す。

 そんな飄々とした男性の言動にメンブルムは「フン」と鼻息を荒くしつつ、歩調を速くさせていく。


「……有名と言うならば、私より君の方が有名も有名だろう。()()()()()()殿()


 皮肉めいた言葉であったが、それでも男性アマゾナイト―――ルーノ殿と呼ばれた彼は笑顔を崩さずに言った。


「ただの親の七光りですが…誉め言葉と受け取っておきます」





 



   

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