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そして、アドレーヌは眠る。  作者: 緋島礼桜
第四篇  蘇芳に染まらない情熱の空
272/360

22項

    



 





「…どうしたのだ? 何故部下が誰もおらんのだ」


 偉そうな言動で現れたのはジャスティンであった。

 眼鏡を押し上げながら周囲を見回す彼に、カムフはため息を洩らす。


「総隊長補佐官なのに…信頼なさすぎじゃないですか…?」

「部下の人ならアンタ置いて帰っちゃったよ」

「なんだと!?」


 するとジャスティンは顔色を変え、怒りを露わにする。

 それから何やらグチグチと文句を洩らすが、それは二人には聞こえず。そもそも二人にとっては関係もない話なのだが。


「そんなことよりもさ! 捕まえる必要ないどころか警護もいらないって言われたんだけど!」

「…ん、何の話だ?」

「さっきの人たちに事情説明したんですが…もう襲われる根拠もないから警護の必要はないと言って帰っちゃったんです」

「なんだと?」


 二人の話を聞き、ジャスティンの眉はより一層と顰められていく。

 と、彼はもう一度眼鏡を押し上げると二人へ視線を向けた。


「……村周辺を定期的に巡回警備するよう私から強く命じておこう。とりあえずアマゾナイトの姿を見れば賊連中もそううかつに村へは近付かんだろうしな。まあ我らが早急に捕えるつもりだが、それまでは極力村から出ない方が賢明だ」

「え…あ、ありがとう、ございます」

「ありがとう…」


 先ほどのアマゾナイトたちとは打って変わった返答に呆気を取られながらも思わず礼を言う二人。

 ジャスティンは眼鏡を押し上げつつ、おもむろに踵を返した。


「では、私もこれで失礼する。これ以上支部を開けている暇もないのでな」

「本当にありがとうございました」

「あ、あのさ…ホントのホントに警備付けてくれるんだよね」


 丁寧に頭を下げるカムフの横でそう尋ねるソラ。

 彼女の質問に足を止めたジャスティンは、振り返るなり踏ん反り返って言った。


「当たり前た! 年中怠慢なアイツ等にも丁度良い任務だろうしな。何が何でも警備させておく。だから安心したまえ」

「…うん」


 何処か偉そうな言動なのがどうにも気になるソラであったが、しかしその自信たっぷりな様子に嘘はないはずとソラは大きく頷いた。

 此処三日間の出来事のせいで彼女も流石に神経質になっていたようで。それ故に溢れんばかりのジャスティンの自信が、少しばかりありがたかった。

 再度歩き出すジャスティンは最後に、背中越しで言った。


「―――もっとも、貴殿たちがちゃんと()()を話してくれていたならば…アイツ等とて何ら疑いなく警備もしていただろうがな」


 ソラとカムフは心臓を高鳴らせ、目を見開いた。

 ジャスティンには詳細な説明をしていない。だからソラたちが『鍵』という()()を隠していることすら、知っているわけがないのだ。


「い、今の台詞なに!? ちょびっとだけ鳥肌立ったんだけど!」

「ど、どっかで俺たちの説明を聞いてたのかな…」


 それとも、あまりにも二人の言動がぎこちなさ過ぎたのか。

 いずれにしろ、取り敢えずは守ってくれると言っているのだから、敵ではないことだけは確かだろう。ソラはそう思いながら深く呼吸を繰り返す。

 流れ出る嫌な汗を腕で拭いつつ、二人は旅館の中へと入っていった。

 






「―――ふうん」


 旅館の窓から一部始終を覗いていたロゼ。

 彼は林道の向こうへと消えていくジャスティンを見つめながらそう一言洩らした。

 南方支部・総隊長補佐官ジャスティン・ブルックマン。

 左遷されてやって来たというわりに既に上から二番目の地位を与えられる程の中々の切れ者と噂には聞く男。

 それ故に彼を良く思わない者たちが『本部から送り込まれたアマゾナイトの変革者』、『アドレーヌ王国に咬みつこうと目論む反乱分子』などという悪評を流しているという噂も、ロゼは耳にしていた。

 本部にいた頃はかなりのやり手だったそうだが、左遷させられてからは非常に大人しくなったとも聞いている。

 そんな彼が何故、わざわざ此処(シマの村)を訪れたのか。


「単なる偶然じゃなさそうね―――」


 そう呟いたロゼは静かに踵を返し、窓から離れていく。







     

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