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そして、アドレーヌは眠る。  作者: 緋島礼桜
第一篇   銀弾でも貫かれない父娘の狼
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25話









「アドレーヌ様の現在のお姿はこの目で拝見しましたし、私も尊敬はしています。でも…アーサガさんは一般的なそれとは違うように思えてなりません」


 ハイリは窓向こうの景色を眺め続けるブムカイの背を見つめた。

 彼は遠くを見つめたまま、彼女と視線を交えようとはしない。

 遠く、空の彼方では遠雷と思われる轟音が何処からともなく耳に入ってくる。

 空を覆い尽くしていく暗雲を見るに、もうすぐにでも雨が降りそうだった。





「アドレーヌ女王にそこまでご執心な理由…ってのは流石に中々話してくれなくてな、俺もよくわからん」


 そう言いながらブムカイは僅かに眉を顰める。

 脳裏に過る早朝の記憶。

 アドレーヌ女王の名を出した途端に見せた反応と態度。そしてその直後での脱走。

 アーサガ本人の口から聞き出してはいないが、その言動からブムカイは粗方の予想を付けていた。

 

「でもなんとなく予想はつく。アーサガは――」

「失礼します!」


 ブムカイが話をしているその丁度良いタイミングで、突然ドアが開き、リュ=ジェンが姿を見せた。

 話は中断され、二人の視線は彼の方へ向けられる。


「だから、入室の際はノックをしなさいと言っていますよね?」

「あ、す、すんません…でも、ナスカちゃんが聞いたという『奈落を交わす場所で待つ』の意味について、ちょっと解ったかもって思って急いで報告に来たんすよ!」


 ハイリに詰め寄られ慌てるリュ=ジェンは、持っていた資料を急ぎベッドの上で広げてみせた。

 まるで地図のように大きな用紙には文字の一覧が並んでいる。

 しかし、それはただの文字列ではない。

 目を通していたブムカイは「成る程」と目を見開く。


「これって闇言順(あんごんじゅん)ってやつか」


 ハイリも彼らの隣へと回り込み、同じように広げられている資料へと目を通す。


闇言順(あんごんじゅん)…20年程前から闇商売業界で広まった暗号…ですよね」

「ああ。これを作ったってのが当時その界隈をまとめ上げていた若女頭って話らしいから、惚れちゃいそうだけど」


 と、ブムカイは軽い冗句のつもりで言ったわけだが、ハイリからの白い眼差を感じ、彼は咳払いを一つ零した。


「まあ一般人から見りゃただの文字列だが、一文字一文字にはそれぞれ意味が隠されていてその組み合わせで売人たちはやり取りをしていた暗号ってのが闇言順だ。例えば―――」

「どうかしましたか?」

「そうか…闇言順(あんごんじゅん)だったのか!」


 今更ながらにブムカイは閃いた顔でそう叫び、リュ=ジェンを見つめた。

 彼もまた、目を輝かせながら「そうっすそうっす!」と、相槌を交わす。

 未だ理解出来ず独り取り残されてしまっているハイリは顔を顰めつつ、もう一度色褪せた文字列の並ぶ資料へと目を通す。


「闇は『ア』、ギルドは『カ』、取引は『サ』……なるほど、闇商売で比較的使われやすい単語を文字に当てた暗号ということのようですね…賭博は『ヤ』で、快楽が『ソ』――――って……」


 闇言順(あんごんじゅん)の解読資料を音読していた彼女も、ようやく気がつく。

 彼女は資料の『ヤ』と『ソ』の文字へと指を辿った。


「ヤソ…この暗号の通りならば意味は、『賭博と快楽』……まさか!?」

「ああ、そのまさかっぽいな。『ヤソ』は昨日ディレイツに襲撃された酒店の名前。でもって旧王国時代では闇賭博の場所だったとされている…」

「つまり、現カラメル通り…元スラム通りで闇商売を営んでいた店の店名は、この闇言順(あんごんじゅん)に準えていたということですか?」

 

 ブムカイは記憶している限りのこれまで襲撃された被害店の店名と暗号を照らし合わせていく。








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