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そして、アドレーヌは眠る。  作者: 緋島礼桜
第四篇  蘇芳に染まらない情熱の空
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19項

     



 





「別に…鍵について触れなければ良いだけでしょ。それに…アマゾナイトを此処に呼ぶだけでもあの賊たちへのけん制になるでしょうし、ね」


 悠然とした態度で不敵に笑うロゼ。

 ソラとカムフは互いに顔を見合わせ、それから頷いた。


「それじゃあ明日はそれでいくってことで。あたしはそろそろ帰るね」


 そう言って椅子から立ち上がるソラ。

 続けてカムフも立ち上がり彼女の隣に並ぶ。


「あ、じゃあおれも…それに一応ソラを家まで送った方が良いだろうし」

「えー…いいよ。流石にさっきの今でまた襲ってきたりなんてしないだろうし」

「だとしても夜は危険だろ?」


 この旅館の玄関にこそ外灯はあるが、村自体はほとんどなく。頼りになる明かりと言えば月明かりか民家から漏れる照明くらいだ。

 例の男たちが消え失せたとしても、先刻のことがあった後なのに一人で帰らせるわけにはいかない。

 だが、そう考えているカムフとは裏腹にソラはかぶりを振って答えた。


「へーきへ-き! すぐそこなんだし何かあるわけないってば!」


 元気よく返事をしてみせるソラだが、それが空元気であることにカムフは気付いていた。

 両手の握り拳が僅かに震えていたからだ。

 おそらく、これ以上他の者たちに迷惑は掛けたくないからという意地がそうさせているのだろうとカムフは推察する。

 が、こうなったときのソラは意固地で何が何でも一人で帰ろうとしてしまう。


(…どういう理由を作って家まで送ったらいいものか…やっぱりダスクさんに夕飯の余りを渡したいとか言えば良いか―――)


 と、カムフがそう思考を張り巡らせていたそのときだ。


「醜いことを言うのね。貴方は既に一つも二つも迷惑を掛けているのよ。それに相手が迷惑掛けても良いって言っているのだから…それくらいは甘えておきなさい。それとも、私がついて行った方が良いというのならば…それでも構わないわよ」


 最後の言葉が決定打となった。

 それまでの言動から一転してソラは強引にカムフの背を押し退室する。


「早く行こ、カムフ!」

「ソ、ソラ…急にお、押さなくっても歩けるから!」


 そう言いながらもカムフはロゼを一瞥し、軽く会釈する。

 ロゼはと言えば、早く出ていけとばかりに手を払っていた。

 が、しかし。


「―――ごめん、ちょっとだけ待ってて」


 部屋を出たところでソラは突如、再度ロゼの部屋へと戻っていった。

 扉が閉まる前に入り込み、どうしたのかと僅かに首を傾げるロゼ。


「まだ何か用…?」

「あ、あのさ……」


 少しばかり顔を顰めるロゼに対し、始終落ち着かない様子を見せるソラ。

 すると彼女は意を決したのか、何度か深呼吸をしてから言った。


「た、助けてくれて…ありが、と……!」


 強がりの口調。すぐさま彼女の顔は真っ赤に染まっていく。


「こ、これでお相子だから! けど別に認めたわけじゃないから!」


 まるで負け犬の遠吠えの如くそう叫ぶと、ソラは逃げるようにその場を立ち去った。

 ドアも勢いが余ってバタンと大きい音を立てて閉まるほどだ。

 室内に一人残されたロゼは深いため息を吐き、ベッドへ座りながら呟いた。


「…感謝の言葉で()()()って聞いたことないけど…?」

 




 ロゼの部屋を飛び出たソラはその急ぎ足のまま、カムフの腕を掴む。


「え、ちょ…」


 と、困惑する彼を引っ張るようにして歩き出した。カムフの方からはソラの顔は覗けない。

 だがその顔色は容易に想像がつき、彼は人知れず笑みを浮かべた。

 

「さ、早く帰るよ!」

「…意地っ張りだなあ」


 彼女には聞こえないように呟いたはずの言葉。

 しかし、運悪く耳に入ってしまった―――もしくはそう呟いたことを悟られたのか。

 直後、ソラはカムフの腕にこれでもかというほど力を込めたのだった。


「い、痛いってソラ…!」








      

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