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そして、アドレーヌは眠る。  作者: 緋島礼桜
第四篇  蘇芳に染まらない情熱の空
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7項

      







 ソラは先ほど体験したこと、出会った黒尽くめの男たちについて説明した。

 が、二人の反応は慌てふためくソラに反して至って冷静―――というよりも冷ややかであった。

 カムフは苦笑いしつつ、肩を竦めて返す。


「真っ黒魔女って…怪談話だろ。何かと見間違えたとかじゃないのか? クマとかさ」

「クマが人間語喋るわけないじゃん! 間違いなく真っ黒魔女だってば!」

「あー、くだらんくだらんっ! わしゃあ客室の清掃に行ってくるわい!」


 ノニ爺はそう言って怒りを露わにさせながら、杖と手摺りを使い階段を上っていく。

 そうして去っていったノニ爺の背中を見つめつつ、長い語りが終わったことに内心安堵するカムフ。だが、それで終わりというわけではなく。

 また新たな厄介ごとが出来てしまったことに、カムフは人知れずため息を洩らした。


「ホントに出たんだってカムフ! だってこの目でしっかり見たんだから! 真っ黒…って程じゃなかったけど濃い色の口と爪に全身真っ黒な衣装しててさ! あれは絶対真っ黒魔女以外の何ものでもないね!」


 ソラはそう断言し、鼻息を荒くさせる。

 興奮しきった様子の彼女を見つめ、吐息交じりにカムフは頬を掻いた。


「って言ってなあ…そもそもソラが謎の男二人組に襲われたって展開もよくわかんないし…」

「うっ…」


 カムフの指摘に唸り声を上げ、顔を顰めるソラ。額からは滲んでいた汗が滴り落ちる。

 ソラは兄セイランとの約束を守るべく、カムフには例の『鍵』については伏せていた。

 つまりソラの説明では『突然現れた謎の男たちに理由もわからず襲われた』ということになっている。


「確かにひと昔前は賊とか夜盗もいたって聞くけどさ、今はアマゾナイトだって一応はこの辺を巡回警備しているはずだし。ここ最近はそういうのが出るって話も聞いたことないけどなあ…」

「そぅ…かも……」


 唸り声を上げるソラ。

 採掘場が閉鎖された直後はそこを根城にしていた賊も少なくなかった。が、今はアマゾナイトが定期的に巡回しており、目を光らせている。

 そんなおかげでここ十年程はこの近辺で『賊に襲われた』という話は全く聞いたことがない。まさに平和そのもののだ。

 ソラもその事情はよく理解はしていた。だからこそ痛いところを突かれたと―――当然の突っ込みでもあるが、ソラは顔を顰めた。


「大方、道を尋ねようとした旅人を見て賊に勘違いしたとか…そんな感じじゃないのか?」


 全く信じてくれない彼の素振りに不満げに頬を膨らますソラ。

 と、彼女はその鬱憤を晴らすかのようにエントランスに設置されているソファへ飛び込んで倒れた。


「ふんだ、ホントなのに! 真っ黒なって食べられちゃってもしらないからね!」

「っていうか、未だに魔女信じてるんだ…」


 ポツリとカムフはそう呟きつつ、おもむろにロビー奥の調理場から水瓶を持ってくるとグラスへ水を注いだ。

 そうして、つまらなそうな顔をしながらも疲弊しているソラにグラスを渡した。


「あのさ…本当にソラが賊か悪漢に襲われたんだとしたら、その助けてくれた人は仮に化け物や魔女だとしても、恩人なわけだろ?」

「だ…だけどさ…」

「魔女に見えただけの勘違いだってある。もしそうだとしたら悪いことをしたのはソラの方じゃないか?」

「う、ぐ…」


 寝転がるソラの向かいのソファへ腰を掛けたカムフは、そう言って優しい言葉で諭す。

 こういうとき、セイランに代わって兄代わりをしてくれているカムフには、ソラは頭が上がらない。

 不機嫌そうに口先を尖らせてこそいるが、内心は芽生えた罪悪感に苛まれ始めていた。


「で、でも…一応、最初にお礼は言ったし…」

「だとしても、助けた相手がいきなり大声上げて逃げ出したら、誰だっていい気持ちしないだろ?」

「う、うぅ…じゃあ、もし、また出会ったら…それはちゃんと謝る…」


 反省している様子のソラに、カムフは微笑みを浮かべて頷いた。


「そうだな。そのときはおれも一緒に謝ってやるよ」

「…じゃあ絶対そのときに居てよね」


 そう約束するソラとカムフ。

 しかしそうは言ったものの、果たしてこんな辺境の地でその恩人とまた出会えるのか不明ではあるが。

 と言うより。カムフは実のところソラが男たちに襲われたということ自体、まだ半信半疑であった。

 村を襲うべくその人質にしようとソラに近付いたならばまだ納得も出来る。が、そもそもこのシマの村自体裕福な村ではない。こんな場所を襲うくらいならば、隣町の銀行を襲った方がまだ賢いだろうとカムフは推測する。


(デメリットしかなさそうなこんな村の少女を襲うもんなのか? もしかすると脱走した罪人で切羽詰まってそんな行動をしたか…もしくは―――)


 と、カムフは不意にソラの胸元に光る()()に気付いた。


「ソラ、それはどうしたんだ?」

「あ、これ? 兄さんからのプレゼント! 手作りなんだって!」


 そう言ってソラは破顔すると自慢げに首元のペンダントを掲げてみせた。

 先ほどまでの態度から一変された上機嫌っぷりに思わず苦笑するカムフ。

 

「相変わらずセイラン()さん大好き過ぎだろ」

「当たり前じゃん。あ、もしかしたらこれのせいで襲われたのかも! これからは服の中に隠しとかないと!」


 ソラはいそいそと服の中にペンダントを押し込める。

 確かに一見するとその胡桃大ほどのサイズである透明な水晶は目を見張る。宝石と勘違いして賊が狙った考察も解らなくはない。

 だが『エナ石』には宝石ほどの価値はないと言われている。







    

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