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そして、アドレーヌは眠る。  作者: 緋島礼桜
第一篇   銀弾でも貫かれない父娘の狼
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23話










「まあ俺も、ここまで暴走するとは思わんかったよ。何せ娘を置いてくなんて今までなかったからな」


 そう言ってブムカイはおもむろにベッドへと腰を落とす。

 窓の外では先ほどまでの晴れやかな天気は打って変わって、灰色の雲が空を覆い隠そうとしている。

 まるでハイリの心情を表すかのように雲行きは怪しく、一雨降りそうな空色であった。


「ハイリ君が怒ってもさ、アイツはどうにもならんよ。俺でさえ無理なんだから」

「それでも私には理解できません!!」


 露わにし続ける憤り。

 それは彼女元来の生真面目さもあるのだが、ブムカイは彼女の別の一面が由縁であることにも気付いている。

 ハイリはブムカイと向き合うように立ちつつ、話を続ける。


「彼が凄腕の狩人(ハンター)だという事は噂から聞いています。ですが彼は無茶くちゃです。軍はそんな彼を甘やかしているようにしか見えませんし、ナスカちゃんだって危険な目に合わされて…それなのに何も言わずに健気に付いていて……奥さんは心配してないんでしょうか。このままだと彼は絶対後悔することになります!」


 ブムカイは静かにため息を零した。

 案の定、ハイリの会話から垣間見えた“別の一面”に、彼女自身気付いていないからだ。

 彼女の生真面目さは、不器用なくらい純粋な思いやりと表裏一体なのだ。


「アイツのそこまで考えてやるなんてさ、物好きだね君も―――俺もだけど」


 ハイリに聞こえないよう小さくそう呟くと、ブムカイは一息ついてから改めて口を開く。


「アイツがあんなにめちゃくちゃなのは原因があってね…まあ性格もあるけど。奥さんのリンダちゃんはね…ナスカちゃんが生まれて直ぐに亡くなったんだよ。廃棄されてた兵器による不運な事故だった」

「え…?」


 おもむろに語られたブムカイの言葉に、ハイリの瞳が揺らぐ。




 ―――兵器。

 一括りにそう纏められているが、主にかつての大戦時代に造り出された武器全般を指す。

 アーサガが脱走に利用したナイフ形状の物もあれば、人を容易く殺めることが可能な自動機関銃の類まである。

 化石燃料を主に使用し、能力重視に生み出されたそれらは常に黒い排気ガスを撒き散らしていた。

 大戦時末期には一般自動車に散弾銃を取り付けたものまで登場していた。

 一般家庭で使用されていたカラクリ製品でさ兵器転用されていた時代だった。

 そこまでも、混沌とした時代だったのだ。


「“アドレーヌ女王の奇跡”によって大抵の兵器は鉄くず同然に成った…けど僻地何かに行くと稀に未だ稼働する兵器もあったりする…リンダちゃんはその誤作動で亡くなったと聞いた……」


 何処かしんみりとした表情のブムカイに、思わずハイリは閉口してしまう。

  彼の妻の話しなど今まで一度も、聞いたことはなかった。

 既に別れているのでは。

 遠くの地で療養しているのでは。

 という噂がたっているくらいであった。


「元々夫婦でやってた稼業なんだが、事故以来なおさら躍起になっちゃってな…何かに憑りつかれたみたいにアイツは『アドレーヌのため、リンダのため』って…無鉄砲なことするようになったんだよ」


 ハイリは自然と顔を俯かせる。


「私…アーサガさんの奥さんのこと何も知らずに…申し訳ありません」


 律儀に深く頭を下げ謝罪するハイリ。

 そもそも謝る相手も違うし、謝る必要もないのにと思いつつ、ブムカイはいつものようにへらりと笑って返す。


「いいっていいって。この事情知ってる奴ってここいらじゃ俺くらいなもんだし。アイツもそーいうの話したがらないかなさ」


 そう言ってベッドから立ち上がるブムカイ。


「軍がアイツのこういう荒っぽい行動に目を瞑ってんのは功績や名声もあるってのはあるだろうけど……結局アイツが無鉄砲すぎるから尻拭いする俺も大変なわけよ」

「―――あの、一つ良いですか?」


 と、ハイリはふと先ほどブムカイの話にも出たある単語に抱いた疑問を投げかけた。

 








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