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そして、アドレーヌは眠る。  作者: 緋島礼桜
第三篇  漆黒しか映らない復讐の瞳
240/360

62案

    







 森の中。地面に滴り落ちている血痕。

 その血痕はまるで辿ってくれと言わんばかりに、何処かへと続いている。

 会食場とは違う、別の場所へ続いていた。

 キミツキはその血痕を辿りつつ、最後に途切れているその建物へ着いた。

 片膝を上げ、両開き式の大きな扉をゆっくりと開け放つ。

 建物の内部は小ぢんまりとした外見とは一変してとても広く、天井も高く造られている。




 真下を見れば、その床にもまだ新しい血痕が点々と残されていた。

 そうして、血痕を辿っていった先―――真正面の人物を見つけ、キミツキは顔を顰めた。


「よもや…こんな場所で死霊と出会えるとはな…」


 血痕の主が辿り着いた場所、そこは女神と呼ばれるようになった嘗ての女王、アドレーヌが眠る聖堂であった。

 透明なエナ石に閉ざされた女神アドレーヌが眠り続けられるようにと、何度となく建て直されている聖堂。

 だがその反面、女神アドレーヌは一向に老いることもなく、巨大な晶石の中で変わらずに眠り続けているのだという。

 そんな麗しい女神のお姿をキミツキは生まれて始めて見た。

 そして、キミツキと対峙している彼も同じく、此処に訪れたのは生まれて始めてだった。


「それにしちゃあ随分と落ち着いてるな。もちっと驚けよ」

「充分驚いている。が、部下の何名かが言っていたもんでな…『反乱組織の首領は死霊だった』とな』」


 眉を顰めながらそう言うと、キミツキは掴んでいた剣の柄を放す。

 代わりに、結晶体の傍らで虫の息となっているその男の胸倉を掴み上げた。


「久々の再会でその歓迎かよ…リュウジ」


 久しぶりに彼から名を呼ばれ、燻る熱いものにキミツキはより一層と顔を顰める。

 このまま懐かしさに感けて思い出話でも出来たならばどれだけ良かったことだろうか。

 そう思いつつ、キミツキの手は更に力が籠っていく。


「―――ラショウ。何故お前は…お前がこんなことをした…!」


 瞳に捉えている男の姿に、キミツキは哀れみと悲しみ、そして憎しみを覚えた。

 横暴にも見えるそのふてぶてしい態度を見せるその敵は、紛れもない幼馴染みであり親友でもあった男そのものであった。


「…その名は捨てた。今の俺はロドだ。そう呼べよ」








「放せって…こちとらもう抵抗する力も残ってねえってのに…」


 ロド、と名乗った幼馴染みにそう言われ、仕方なくキミツキはその手を放す。

 ずるりと、再度結晶体へと凭れ掛かるロド。


「目的は、復讐か…」


 その問いかけにロドはくくっと喉を鳴らすように笑い出した。

 懐かしい彼の悪癖にキミツキは眉を顰める。


「復讐―――なんてカッコイイもんじゃねえよ……俺はただただ、この国を変えてやろうってダサいこと思っていた。それが使命だと、思い込んでいただけだ…」


 確かに始めは復讐心で、上官を、アマゾナイト(腐ったままの軍)を、国を憎しみ恨んでいた。

 だが、次第にロドの動力源は復讐心から使命感へと変わった。

 義心臓を与えられ、武器を与えられ、組織を作り、その間の彼は自分に不可能なことなどないとすら思っていた。

 思い上がっていたのだ。それが既に誰かの手の上で踊らされた策謀だとも気付かずに。


「気付いたときにゃあ似たような傷を持った連中が集っていた。俺をリーダーと敬っていた。こんな俺を慕ってくれたあいつらは間違いなく…俺の大切な仲間だったんだよ……」

「ならば尚更何故このような無謀なことを計画した? 義賊にでもなりたかったのだとしても…今回のは余りにもずさんで凄惨だ」

 

 キミツキがそう言って諌めるのも無理はない。

 彼が此処に辿り着くまでに目撃しただけも、敵味方双方に甚大な被害が出ていた。これはもう義賊の革命というよりは殺戮者の惨劇でしかなかった。


「…そりゃあこの状態見りゃ分かんだろ…武器も計画も俺らは()()()()()から実行したまで……結局は、俺らは奴の都合の良い道化でしかなかったってことだよ……」


 そう言ったロドの顔が、一瞬だけ歪む。

 常に勝気でいる彼が稀に見せるその顔は、何よりも無力な自分に悔いているときの顔だった。

 死して尚、そんな顔を見せる友()()()男に、キミツキはやるせなさと歯がゆさを覚える。


「……黒幕がいるということか…お前を死霊にしてまで利用した…それは一体誰だ…!?」


 キミツキも気になっている点ではあった。

 反乱組織(ゾォバ)は兵器を用いて上手く誘導し、そして警備の目を掻い潜って会食場内へ突撃した。

 まるで何処にどの兵が配置されているのか、全て知っているかのように。

 それはつまり、ロドたちへ情報を売った裏切り者がいる。それが黒幕なのではと、キミツキは推測していた。


「…言ってどうにかなる相手じゃねえよ…だが、そうだな…此処で会ったのも縁って奴か……忠告はしてやる」


 キミツキの熱意に対して、ロドは相変わらず冷めた様子でそう返し、続けて言う。


「これは恐らく…ほんの序の口でしかねえ……」

「この大事件が…序の口、だと…?」

「あいつの目的自体は道化でしかない俺にはわからねえ…が、あいつのやってる行為の先に待つのは……間違いなく王国の破滅だ」


 ふざけた言葉にしか聞こえなかったが、ロドの真っ直ぐな双眸が真実だと語っているようで。

 懐かしいその眼差しに、キミツキは信じざるを得なかった。元より、この男は隠し事こそすれど昔から嘘は下手くそだった。


「だから…お前らアマゾナイトは……せめてお前は、変われ。王国の道化にはなるな…もうじきあいつは王国すらも手にするだろうからな……」


 さもなくば、その先に待つ未来は―――滅亡しかない。


「…とまぁ、実を言うと…これは俺のただの直感…なんだけどな……」

「……それは困る。お前の直感はよく当たるからな…」


 口角を上げ語るロドへ、釣られるようにキミツキも苦笑を洩らした。







    

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