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そして、アドレーヌは眠る。  作者: 緋島礼桜
第三篇  漆黒しか映らない復讐の瞳
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52案

     








 会食場のその神聖な空気が壊されたのは、突然のことであった。

 轟音と共に破壊された屋根。その破片が崩れ落ち、王族貴族たちは悲鳴を上げる。


「ひぃぃっ!」

「何事だっ!?」

「た、助けて…!」

「おいおい。何かの余興ではないのか?」


 その場は混乱し、逃げ惑う王族貴族たちに兵士たちの声は届かず。

 と、そんな大混乱の状況に更に追い打ちをかけるかように、突如、会場内に白煙が入り込んできた。

 何処からともなく噴き出す白煙は瞬く間に会場内を前後左右も分からない程の真っ白な空間へと変える。





「―――準備は良いな?」


 混乱状態となっている会場の外、その窓際にて。ヤヲたちは突入のタイミングを待っていた。

 それまで此処らを厳重に警備していた兵士たちはそのほとんどが兵器破壊のため飛び出していってしまっていた。

 待機していた者も居たがあっという間に刃に倒れ、横たわっている。


「中にはほとんど王族貴族しかいねえ。が、俺たちの目的はあくまでも王族貴族どもの追放だ」


 彼らに非を認めさせ、謝罪させ、頭を垂れさせる。それが『革命』であり、組織ゾォバの悲願だとロドは語る。

 と、そんな中。ニコが呑気に片手を上げた。


「待って! その前に……キャンディ舐めていー?」

「……お前はこんなときまで…」


 能天気とも取れる彼女の言葉に呆れるレグ。

 こんな緊迫した状況にまで垣間見せる父娘のようなやり取り。

 だが、彼女のそんなマイペースな言動が、皆には丁度良い一言だった。

 緊張もほぐれ、改めて覚悟も出来た。

 ニコが頬袋に飴玉を放り込んだところで、ロドは拳を振り上げた。

 直後、振り上げた拳が窓硝子を破壊する。


「な、なんだ…!?」

「きゃぁああああっ!!」

「誰か私を守れ!」


 動揺と混乱、絶望と恐怖に叫ぶ王族貴族たち。

 不意に過去の記憶が脳裏を過り、人知れず眉を顰めるヤヲ。

 しかし考えている暇などなく。ロドが飛び込んだことで口火を切り、突入班は会場内へ入り込んでいった。


「賊め…」

「や、止めてくれ…!」


 怯え泣き叫ぶ声の中。ロドも負けじと声を張り上げた。


「我らは反乱組織ゾォバだ! その目的は此処に居るお前らがその大罪を認め謝罪すること! 先ずは国王だ! それ以外はとりあえず全員両手を挙げたまま壁に貼り付け!」


 ロドの言葉に僅かばかり混乱の声が治まる。

 すると白煙の向こうから一人の初老の男が姿を現した。

 威厳ある風格に、それ相応の身なり。そして王冠。

 間違いなくその人物こそが第25代国王クェート・リュウ・リンクスであった。





「このようなことを犯して…なんとも愚かな…」

「もっと命乞いなり罵声なり浴びせてくるかと思いきや……素直に出てくる辺り思ったより潔いじゃねえか」


 微動だにせず、動揺も見せない国王。

 真っ直ぐに見つめるその双眸が重なり、ロドは眉を顰める。


「…なるほど。てめえもようやくと親になったばっかだったもんな」

「貴様も親になれば判ることよ……この老いた身一つはくれてやろう…だが、他の者…せめてこの場にいる我が息子だけはどうか…許してやってくれ」


 国王はそう言うとゆっくり跪き、その頭を垂れる。

 呆気ないと思える程の毅然とした態度に、拍子抜けしていたのはヤヲだけではなかった。


「……子を思う気持ちくらいは判るさ。俺も、だったからな……」


 人知れずそう洩らし、国王を手早く拘束していくロド。

 組織ゾォバの目的としては、これで一つ達成されたと言える。そうしてこのまま国王を人質に王城を占拠でもするのだろうか。このまま順調に、革命を果たすことが出来るのか。

 渦巻く疑問と不満にヤヲは拳をきつく締める。


(本当にこのまますんなりいくのか。いや、そんなわけがない……それに、まだ僕の…果たしたかった復讐は終わっていない…!)


 ヤヲがそう思った、そのときだった。


「危ない―――っ!!」


 リデの叫び声が会場内に響いた。




 瞬く間すら与えないような、刹那の出来事だった。

 ヤヲの横をすり抜けてきたそれは、白煙の向こうから飛んできた。

 そしてそれは、それらは。一瞬にして国王とロドを狙った。


「…なっ!?」

「―――え…」


 あまりにも突然の出来事で、ヤヲを含めた仲間たちは困惑し驚愕した。

 ドドドド、と連続した爆音は間違いなく、砲撃による攻撃の音だった。

 白煙の中で起こった想定外の事態は、全ての状況把握は困難だった。

 だが、これだけは明白だった。

 国王とロドが、撃たれたのだ。呻き声を上げ、崩れ落ちるロド。無言のまま倒れ込む国王。

 ロドたちが困惑するのも無理はなかった。この場面での砲撃は、誰も命令していなかった。されていなかったはずだった。

 それどころか、こんな連続射撃が出来る兵器を、ゾォバは所持していなかった。


「リーダーがやられた! 報復だ! やれ! やり返せ! 暴れろ! そうしなければ俺たちに勝利はない! 革命は成せない!」


 ゾォバ側の誰かが突如、そう叫んだ。


「賊を捕えろ! 国王様を助けるんだ! 絶対に逃がすな! 一人残らず捕まえろ!」

 

 白煙の中、何処からともなくなだれ込んできた兵士たちも負けじと、そう叫んだ。

 そこからはもう、リデの制止する声も、レグの叫びも届かなかった。

 報復だと暴れ始めたゾォバたちと、国王を守ろうとする兵士たちの争いが始まった。

 刃が交じり合う音、雄叫び、悲鳴。叫び声があちこちで響く、轟く。


「キャーーー!!」

「せめて命は!」

「やり返せ!」

「ロドの仇を!」

「国王様の仇を!」

「殺せ!」

「殺さないでぇー!!!」


 王族貴族も、兵士も賊も関係なく。次々と地に伏していく。

 会食場は瞬く間に最悪の悪夢のような場所と変貌していった。

 そこへ更なる増援の兵が会場へ駆け込んでくる。

 薄れゆく白煙の中見えたのは、倒れている人々の姿。

 ときに折り重なるように、ときに惨たらしく。

 絶命している者たちを前に、地面に流れる血を前に。目撃した兵士たちは事態の重大さを知った。そして恐怖した。


「こ、こんなこと…歴史上類を見ない…」








   


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