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そして、アドレーヌは眠る。  作者: 緋島礼桜
第三篇  漆黒しか映らない復讐の瞳
210/360

32案

   







 スイッチが押されると同時に、天井のライトに明かりが灯る。

 殺風景なその訓練場の中に立つヤヲは、おもむろに左腕を掴んだ。


「準備は良い?」


 彼の正面には仁王立ちをして待つリデ。

 身構えるその両手には投げ針が握られている。


「今から君と訓練なんて聞いたら…ニコは怒るだろうな」

「そうね」


 その言葉を最後に沈黙する二人。

 訓練場に静寂とした空気が、殺気立つ気配が、張り詰めていく。

 一瞬の油断が命取りになりかねない。

 ヤヲはずれ下がっていた眼鏡を静かに押し上げた。





「―――たぁっ!!」


 先に仕掛けてきたのはリデだった。

 地を蹴り駆け出した彼女は持っていた暗器針をヤヲ目掛け投げつけた。

 ヤヲは瞬時に鉄製の左手でそれらを跳ね返す。


「くっ…!」


 苦い顔を見せたリデ。

 手持ちの針を投げ終えた彼女は一度、宙を舞いながら後方へ飛び退く。

 と、その間に懐から新たな針を取り出すと更に投げ続けていく。

 だが、それらも左腕は手早く受け止め、弾いていく。


「同じ手ばかりだな」


 そう洩らすヤヲの言葉を聞き、着地したリデは含み笑む。

 と、彼女は腰に携えていたナイフを引き抜いた。

 着地と同時に彼女は再度ヤヲへと飛び込み、剣先を向ける。



 ―――キィィィン!



 瞬時に取り出したヤヲの仕込みナイフが、リデのナイフと交わる。

 二つの刃は甲高い金属音を響かせた。


「この前と比べてもらったら…困るわ!」


 だがその鍔迫り合いはヤヲに軍配が上がる。

 リデはナイフごと押し退かれた。

 しかしそれは彼女自ら退いたものだった。


「はっ!」 


 一旦飛び退いたリデは休む間もなくもう一度、ヤヲと刃を重ねた。

 鍔迫り合っては引いて、また飛び込み鍔迫り合う。

 まるで無鉄砲にがむしゃらに挑んでくるリデの攻撃に困惑するヤヲ。

 そんな彼女の行動の真意は、直後理解することとなる。

 突如、重ね合う刃の向こうでリデが口角を吊り上げた。


「ここよ!」


 そう言って大きく飛び退きながら、また針を投げつけるリデ。

 相変わらずの同じ手段。

 ヤヲは先ほどと同じく左腕で弾き返そうとした。

 が、次の瞬間。

 ヤヲはその痛感に顔を歪める。

 激痛は何故か武器を弾いた左腕とは別の場所から走っていた。


「なっ!!?」


 痛感の原因を確認する暇もなく、次々と飛んでくるリデの暗器針。

 ヤヲは左手首を確認した後、一旦後方へ飛び退いた。


「―――くっ!」


 間合いを取り、そこでヤヲはようやく痛感の原因に気づく。


「…針が、刺さって…一体何処から…ッ!?」


 何故かヤヲの足や右腕、腹部にいくつもの暗器針が無造作に突き刺さっていた。

 ヤヲは眉を顰める。


「その左腕を過信してたせいなんじゃないかしら?」


 勝ち誇ったように口角を吊り上げているリデ。

 が、直後。彼女の笑顔は消える。

 手先に走った鈍い痛みと、喪失感。

 リデの手にあったはずのナイフが、一瞬にして奪われてしまった。


「過信は…どっちかな」


 今度はヤヲがほくそ笑む。

 彼の手にはリデが先ほどまで持っていたナイフが握られている。

 ナイフの柄には左手首から出されたロープが絡まっていた。


「不意打ちが成功したからといって喜んでいると、こういうことになるんだよ」


 不服そうに口をへの字に曲げるリデだったが、何も反論はしない。

 だが彼女が何か喋り出すよりも先に、ヤヲの方が力尽きたようにその場にしゃがみ込んでしまった。


「……とはいえ、この不意打ちはかなり面食らったな」


 座り込むヤヲへと慌てて駆け寄るリデ。


「ごめんなさいっ…まだ加減がよくわからなくて…」


 と、謝罪するリデだったが、身体に刺さった針を抜き取るヤヲの、苦痛に歪む表情には思わず笑みを零してしまっていた。







    

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