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そして、アドレーヌは眠る。  作者: 緋島礼桜
第三篇  漆黒しか映らない復讐の瞳
202/360

24案

   







 

 リデはヤヲの隠れ里を探してみようと、協力を申し出ると、突然ヤヲから地図を取り上げた。

 何をするのかと困惑するヤヲ。

 そんな彼を他所にリデは獣道の上に真新しい地図を広げた。


「貴方が住んでいた里の特徴…わかる?」

「特徴?」

「川があったとか、森があったとか…山があったとか」


 ヤヲは思案顔を浮かべながら、故郷の光景を脳裏に浮かばせる。


「確か―――国境近くで藪に囲まれていて…後は、近くに小さな滝があって、そこに避難場所があった」

「滝…この近隣となれば7か所はあるわね」


 ヤヲの言葉を聞き、リデはじっくりと地図を眺め続ける。

 それはまるで地図すらも見透かしているかのようで。

 ヤヲは思わず閉口してしまう。


「わかったわ」

「え…?」


 と、思わぬ速答にヤヲは目を丸くする。

 リデはヤヲの方へと顔を向けた。


「ヒュモの滝…ニフテマからケモチ川の上流…その先に記されていると思うけど…探してくれない?」

「あ、ああ…」


 ヤヲは言われるがまま、地図上にあるニフテマの文字から上流へと川を遡っていく。

 そうして指先が辿り着いた場所。

 そこには確かに『ヒュモの滝』という名称の滝が存在した。


「あった。でも、なんでわかったんだい? 滝はこの近隣だと7か所もあるんだろう?」

「ええ…それも、有名な滝ではの話ね。地図に載ってない滝も合わせたらおそらくはもっと存在すると思うわ」


 では何故、リデはヒュモの滝だとわかったのか。

 その答えは意外なものだった。


「実を言うと貴方が助けられたという日の前日にアマゾナイトが進行したという情報を聞いていたのよ。そしてその行き先がニフテマの町から北西の辺り……その近辺にあって避難場所になる大きさの滝は『ヒュモの滝』くらいだから」


 リデはいつものように落ち着いた声で説明する。

 と、彼女は突如、吐息と共に笑みを漏らす。


「……なんてね。本当はヒュモの滝って…私も聞いたことがあったのよ。(イニム)に伝わる(シトトーコム)だって…」


 確かにあのエナの力が宿った(シトトーコム)は、古くから言い伝えられているものだと聞いていた。

 だがまさかリデのような隠れ里外の(イニム)にも知られていた伝承だったとは思ってもいなかった。


「私も噂で聞いていた程度だし…まさか実在するとは思ってなかったけれど」


 そう言いながらリデは持っていた地図を丁寧に畳む。それを受取ろうとするヤヲ。

 が、何故か彼女は渡そうとせず。


「…ねえ。私も噂の滝に興味が出たわ。案内役も必要だし、同行しても良いでしょ?」


 地図を返さんとばかりに抱きしめたまま話すリデ。

 その声はどこか楽しげで、彼女の口角もやんわりと弧を描いている。

 そんな何処かはしゃいでいる様子のリデを他所に、ヤヲは人知れず顔を顰める。

 リデを隠れ里まで連れて行くつもりは毛頭なかった。隠れ里の位置が分かった時点で追い返すつもりでいたのだ。

 しかし、ヤヲの目的地を見つけてくれたのは彼女だ。

 それなのに追い返すことなど、できるわけがない。


「やれやれ…とんだ借りが出来たよ」


 ヤヲはそうぼやくと深くため息を漏らした。




 行き先がわかったところで、ヤヲたちは早速ヒュムの滝がある方へと進む。

 先行するのは何故かリデ。ヤヲは一歩遅れて後に続く。

 その後ろ姿も何処か楽しげに見えてしまう。


「―――ねえ。貴方って案外、一つのことを考え出したら周りが見えなくなるタイプよね」


 そう話しを切り出すリデに、ヤヲは困惑し僅かに眉を顰める。


「だって、チェン=タンなんかに頼らなくてもよく考えればある程度の場所くらい推理できそうじゃない。それなのに…」


 彼女に言われ、思わず足を止めるヤヲ。

 確かに冷静になってみれば、そうかもしれないと、ようやく彼は自分の焦燥に気付き、と同時にその不甲斐なさに自己嫌悪を覚えた。


「…返す言葉もない」

「一つのことに夢中になると周りが見えなくなるけど、別のものが目に付くと今度はそっちの方に気が向いちゃって最初にしていたことから気が逸れちゃうタイプ」


 と、前を歩いていたリデの足もまた止まる。


「それって、まるで子供ね」


 ヤヲは口を硬く結び、明らかな不機嫌顔を見せた。

 それを言うなら君だって。そう言い返そうとした。

 だがヤヲが口を開くより早く、リデは振り返りその満面の笑顔を見せた。

 その無邪気な顔にはやはり何も言い返せなくなってしまう。

 代わりにヤヲは、苦笑を浮かべて返した。







    

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