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そして、アドレーヌは眠る。  作者: 緋島礼桜
第三篇  漆黒しか映らない復讐の瞳
197/360

19案

     








「扉閉めてくれる? この子…ちょっと前まで頑張って起きてたから、今は眠らせててあげたいの」


 そうリデに言われてヤヲは静かに扉を閉めた。

 視界の全てが真っ暗な世界へと包まれていく。

 その広さからか、暗さも静かさも冷たさも。ヤヲの部屋とは比べものにはならないほどで。

 彼は不意に、何も見えなくなったあの瞬間―――視力を奪われたあの時の感覚を思い出す。


「あ、気をつけてね…そこにナイフがあるから…」


 と、突如聞こえてきたリデの忠告。

 だが、彼女の言葉も空しく。ヤヲはその直後に何かを蹴ってしまった。

 滑っていく『何か』の音。それは紛れもなく忠告にあったナイフなのだろう。

 ナイフはあっという間に闇の彼方へと消えて行ってしまった。

 

「ごめん」


 ヤヲは慌てて謝罪し、リデが居るだろう方向へと頭を下げた。


「怪我がなければ良いのよ。それに置いといたままにしたニコが悪いんだから」

 

 次いでヤヲはニコが寝ているだろう方に視線を向ける。

 しかし彼女が起きた様子はなく。可愛らしい寝息が聞こえてくるだけ。

 一安心し吐息を洩らすと、ヤヲはゆっくりとその場に座り込んだ。




 視界は未だ暗闇に慣れることはなく。

 一寸先さえも把握出来ず、ヤヲはおもむろに空を掴んでいた。

 と、微かに聞こえてきた足音。

 それはリデのもので、彼女はヤヲが蹴り飛ばしてしまったナイフを回収していた。


「本当によくわかるんだね」

「ええ、音とか匂いとか感覚とか慣れればね…不便だろうっていう人もいるけれど、返ってそう言われる方が苦になるくらいよ」


 そう言いながら彼女は静かにヤヲの隣に座った。

 ニコのナイフは丁寧に専用の鞘へとしまわれる。

 

「その目を治す気はないのかい? チェン=タンの技術ならそれくらい可能だ…」

「そうでしょうね。ロドにもそう勧められたもの…でも、私はこのままで良いの…」


 彼女の顔色は伺い知れない。

 が、ヤヲはその言葉に迷いがあるように感じた。


「怖いのかい?」


 そう、思わず尋ねてしまった。

 リデの返答は無言だった。

 聞いてはいけない質問だったと、彼は直ぐに謝罪しようとした。

 しかし、それよりも早く、彼女の方が口を開いた。


「……怖くないと言えば、嘘になると思う。でもそれ以上に…私は(ロム)を無理やり身体に取り入れたくないの。(ロム)というのは聖なる神の力であって、人が触れて良いものではないから…」


 リデの言葉は、かつてヤヲが言った言葉そのものだった。

 (イニム)にとってその言葉は当然の概念であり、信念でもある。

 だからこそ今のヤヲにとって彼女の言葉は、とても痛く突き刺さった。


「知ってる? 昔々、この国を救ったという女王様は(ロム)を操れたらしいの」

「ああ、書物で読んだよ。彼女のみが扱えたその『力』を、彼女のミドルネームである『エナ』と名付けた、とか…」


 すると、リデはおもむろにヤヲへと寄り添う。

 その華奢な身体のせいか、ヤヲは彼女を想像よりも小さく感じていた。


「女王様はもしかすると『(ロム)使い』だったのかもしれない…けれど、大地を作り替えてしまった結果晶石(ロムノーロ)に閉じ込められた…多分あれは(ロム)を使い過ぎた天罰なのよ…」


 触れているリデの手が、微かに震えていた。

 他に何もない暗闇の中だからこそ感じ取れる、彼女のか弱い怯え。


「この国の人たちはエナを未来に必要な『力』だと思い込んでる…でも、違う。あの力は大地と神に寄り添うからこそ許される『神託』なのよ…使い過ぎればいつか必ず罰が下る……私は、本当はそうなりたくない…だから兵器だって本当は使いたくはない」


 それは、暗闇の奥底に隠していた彼女の本心のように思えた。

 いつもは気丈で知的な、大人の女性でいるリデが垣間見せた一面。

 隣にいる彼女の本当の姿は、誰よりも力に怯え、恐れている普通の少女なのかもしれない。

 ふとそう思い、ヤヲは静かに眼鏡を押し上げる。







    

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