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そして、アドレーヌは眠る。  作者: 緋島礼桜
第三篇  漆黒しか映らない復讐の瞳
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14案

   








「まさか地下にアジトがあるなんて…」

「寒さに慣れない人も多いけれど、それでも前のアジトより快適よ」


 リデはそう答えつつ地下アジト内の階段を下りていく。

 ランプにより陰りのある横顔の彼女は、うっすらと笑っているように見えた。


「前のアジトと言うのは…何処にあったんですか?」


 と、ヤヲは尋ねてから思い出したように唇を止めた。

 つい出てしまう口癖。

 包帯に隠れたリデの双眸が、まるで此方を睨みつけているかのように見えてしまう。

 ヤヲは咳払いを一つ洩らし、「ごめん」と謝ってから改めて尋ね直した。


「アジトを移したと言っていたけど、前は何処にあったんだ?」

「前は此処からケモチ川の上流にあるニンガという村に居たわ。アジト、と言っても石室みたいな場所を皆で密集して過ごしてただけだったから…大変だったのよ」


 淡々と語る彼女であるが、その口端はやはり微笑んでいるようで。

 その不機嫌ではない様子に、ヤヲは無意識に安堵する。

 

「それで…どうして此処へ…?」

「元々のアジトは此処なの。けれどね…遠征中のアマゾナイトを襲撃するという計画が失敗してしまって…急きょそのアジトへ避難して身を隠していたの。それでほとぼりが冷めたからようやく帰ってきたってわけ」


 そう言ってまた彼女は微笑む。

 だがそれは笑顔と言うよりは、呆れたような冷めた笑みのようにヤヲの眼には映った。

 彼女のそんな様子を見て、ヤヲも苦笑するしかなかった。






 階段を下り辿り着いた先には扉が待っていた。

 ドアノブに掛けられた鍵を解くと、鉄製の扉がゆっくりと開らかれていく。

 扉の奥からは肌に刺さるほどの冷たい風が流れ込んできた。


「アジトの出入り2か所には必ずこの鍵がなければいけない…鍵を持つことを許されてるのは『鍵役』と呼ばれるリーダーに許された存在だけ。つまり、その『鍵役』と行動を共にしないとアジトの出入りは出来ないから注意して」

「随分と厳重なんだね」


 リデは口角をつり上げて見せると「反乱組織も楽じゃないのよ」と、吐露した。

 扉が閉められるとより一層と寒さも暗さも増す。

 と、リデが扉横のスイッチを付け、ようやく部屋中に明かりが広がった。

 天井は想像以上に高く、地下だというのに不思議と息苦しくない。

 壁伝いに掛けられているランプはヤヲが持っているもの以上の明かりを放っていた。


「まるで日差しのように眩しいランプだ…」

「貴方が今持っているランプとは人工エナ石の属性が違うから」

「属性?」


 ヤヲの質問に対し、リデの言葉が止まる。

 彼女の様子からして、今の時代ではどうやら常識らしく。ヤヲは慌てて研究所で調べた知識を辿る。


「えっと、最近発見された―――」

「属性自体が発見されたのは『花色の君』が存命だった古の時代よ」

「えっと、火と水、と…」

「基本属性と言われてるのは火、水、風、大地の4種…けれど、それらを合成させることで他の属性もあるだろうと……現在研究中。と言われてるけれど、このアジトはチェン=タンが発見した『雷』の属性のランプを利用してるのよ」


 自身も知り得ていなかった知識。

 それを淡々と説明するリデに、ヤヲは純粋に感心した。


「凄い、博識なんだね。チェン=タンの書物だけで知ったと思っていた自分が情けないよ」


 隠れ里では知識人として扱われていたからか、自分より博学な者は長老くらいであった。

 だからか比較的年の近い彼女の博識っぷりに、ヤヲは何処か親近感のような、仲間が出来たような感情を抱いた。


「た、大したことじゃないわ…この組織では常識よ」


 そう言って室内を進んでいくリデ。

 どうやらこの組織において、チェン=タンが開発した人工エナ石はそこまで身近なものになっているらしい。

 どこの工場、反乱組織を探しても、ここまでの技術はまず導入されていないだろう。


「思っていた以上に凄い組織と人たちだったんだな…」


 今更になってゾォバという組織の巨大さに気付き、ヤヲはポツリと人知れず洩らしていた。




 地下アジト入って直ぐにある大部屋は、広場と呼べるほどの空間であった。

 そしてそこにはいくつもの兵器らしき機械が並んでいる。

 大筒の付けられているもの、無数の槍が付けられたものなど、様々だ。

 兵器についてはチェン=タンの資料を読んで知っていたものの、実際見るとその迫力さは比べものにならない。

 匂い、重厚感、そして存在感。

 それらがヤヲの五感を刺激し、鳥肌を立たせた。


「これが私たちの一番大きな戦力…これがなければ国に対抗できないわ」

「それほどまで…重要なものなのか…?」

「ええ」


 リデは兵器の一つに、その白い指先を当てる。

 戦場でなければこのような兵器など、ただの鉄くずに過ぎないというのに。

 何がそこまで重要と言わせるのか。

 ヤヲには理解出来なかった。


「単純な兵力だけで言うと私たちゾォバはそこまで強くないの。だから兵器(この力)に頼るしかない…現在でも一般使用どころか開発さえ禁忌とされている代物だとしても…ね」


 リデの言葉にヤヲは顔を顰める。

 兵器はエナの力で稼動しているものだ。

 そしてエナは大地の力と云われており—――その力がもし枯渇することがあれば、それは大地の死となる。と、ネフ族では教えられていた。

 戦力差を聞けば確かに重要な武器ではあるが、ヤヲはこの兵器には未だ好意を持てそうにはなれなかった。

 元々、この組織自体にそこまでの好意を持っているわけではないのだから、それも当然なのかもしれないが。







    

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