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そして、アドレーヌは眠る。  作者: 緋島礼桜
第一篇   銀弾でも貫かれない父娘の狼
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16話










「どれもパッと見ただけじゃ、疚しいことしてた店には見えなかったんすけどねぇ」


 リュ=ジェンは手にしていた資料にパラパラと目を通しながらそう話す。

 襲撃された店は新王国となった後、『撤去はしないでくれ』と店主たち自ら懇願し、全うな営業へ改善したと書かれている。

 名残として店名だけはそのままであったが、中には外観・内装も様変わりさせた店もある。

 そう資料には記されていると、リュ=ジェンは独り語る。


「……もう良い」


 と、アーサガは見終わったとばかりに地図を無造作に畳み、それをリュ=ジェンへと返した。


「あっと…ちゃんと綺麗に畳んでくださいっすよー。見つかったら俺がヤバいのに…」


 きちんと畳み直そうとするリュ=ジェンだが、生憎片手は資料で塞がっていたため上手くいかず。


「何かわかったんすか?」

「そんなんじゃねえよ」


 そう尋ねるリュ=ジェンの質問にも、アーサガは素っ気ない返答しかない。

 虚しさに人知れずため息をつくリュ=ジェン。

 するとそんなとき。廊下から足音が聞こえてきた。

 二つの足音の内、片方はパタパタと小刻みに響く如何にも子供のものと思われる。

 足音から正体を察したリュ=ジェンは一気に顔を青ざめさせた。


「アーサガさん。ナスカちゃんを連れてきました」


 ノックと共に開かれたドア。

 その向こうからは「パパ!」とはしゃぐ声を上げるナスカがアーサガのベッドへと駆け寄っていく。


「それで―――こんなところで貴方は何をしているのですか、リュ=ジェン」

「い、いや別に…」


 一方で、ハイリは眼鏡の蔓を押し上げながら、身を隠そうとするかの如く壁にピッタリひっついているリュ=ジェンを見つめる。

 「何もないっす」と言う彼が隠す腹部は、疑ってくれと言わんばかりにはっきりと何かを詰めたように膨らんでいた。

 大体の予想がつき、ハイリの視線は続いてアーサガへと移る。

 が、彼女の睨みに気付く様子もなく、アーサガは娘との再会に喜び浸っていた。






 

 窓から覗く太陽は、いつのまにか色を紅く変え、空を、山を、全てを紅く染め上げながら地平線の彼方へ沈もうとしていた。

 そんな景色を横目に、アーサガは親子水入らずでしばしの休息を過ごしているところだった。


「パパ読んで…?」

「…んなもんそこにいる奴に読ませろよ」

「じ、自分っすか!?」


 だが、親子二人きりというわけではなく。

 アーサガは現在、ディレイツ襲撃事件の目撃者として基地で保護されている身の上だった。

 そのため、嫌でも監視の目が二人に付いていた。


「つか監視役って普通室外にいるもんじゃねえのかよ。なんで此処に一緒にいんだよ」

「それはもう…ブムカイ隊長の命令なんで」


 そしてその任に先ほどの青年軍人リュ=ジェンが就いているわけなのだが、彼の立場かはたまた性格なのか。

 すっかり雑用係扱いにされていた。


「えっと、これ…かな?」

「うん…」

「じゃあ読むよ。『むかーし、むかし。そのくににはじょうおうさまがいました…』」


 ナスカが手にしていた本を受け取ったリュ=ジェンは素直に物語を語り出し、二人はその世界へと耽る。

 片やアーサガは戯れから解放されたこの間に、銃の手入れを始めることにした。

 ずっしりと重い拳銃は夕陽によって紅く、黒く照らされる。

 それをシーツの上に乗せた布きれへと広げ、細部まで丁寧に磨き始める。









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