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そして、アドレーヌは眠る。  作者: 緋島礼桜
第一篇   銀弾でも貫かれない父娘の狼
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15話











「―――というわけでです」

「そっか、ありがと」


 アマゾナイト軍基地内のとある通路。

 そこをブムカイと彼の部下は歩いていた。

 軍ならではの内容を色々と話し合っているところであったが、そこへもう一人の部下が駆け寄ってきた。


「隊長!」

「おう、廊下は一応走んなよ」


 駆け足で近付く部下の手には、先の―――アーサガが遭遇した襲撃事件の詳細が書かれた報告書が握られていた。


「これが今回の事件の被害内容をまとめたものです」


 用紙を受け取ったブムカイはすぐさまその文面に目を通していく。

 と、部下は彼の隣で報告内容に書かれていない情報を補足する。


「今回ディレイツが襲撃した酒店ですが、やはりいつも通り旧王国時代では賭博場として使われていた場所のようです。現在はそのようなことに使用されてはいなかったようですが……かつて賭博場を利用していた客の情報によると、以前店主はあの場所を『清められた聖なる場所』と言っていたそうです」

「清められた…?」

「聖なる場所、ですか」


 報告する部下の言葉に、ブムカイと傍らにいた別の部下が顔を見合わせる。


「賭博場が清められてるとは思えないけどねえ。で、その店主さんは?」

「それが例の如く…」

「行方不明…ねぇ」


 受け渡された数枚の報告書には、彼の言葉通り被害者でもあった店主は火災時、避難した後から行方不明になっていると書かれている。

 ブムカイは一通り目を通し終えると小さく吐息を洩らし、報告に来た部下の肩を軽く叩いた。


「なるほどね。報告ありがとさん」


 それから彼にその用紙を返し、再度通路を歩き出していく。

 連れ立って歩いていた部下の男もまた、付き添うように後を追っていった。





「このディレイツって組織、目的がいまいちわかんないんだよなあ。闇賭博や闇競売所といった暗い部分ばかりを襲い、火災現場の主は必ず行方不明になる……義賊気取りだって言っても襲う場所は全部“元”が付く場所で、今は何の疚しい事もされてないってのにさ…」


 ぼやくようにブムカイは部下に話しながら辿り着いた一室の扉をおもむろに開ける。

 自身の部隊室の中へ入っていく最中、部下が足を止め、口を開く。


「あの…少し宜しいでしょうか?」

「ん、どうしたの?」


 扉が反動でゆっくりとしまっていく中、部下は俯いたまま、静かに言った。


「この事件と直接関係があるか解らないのですが…実は昔、自分はあの近辺で暮らしていたことがありまして。それで……当時ある噂を耳にしたことがあるのです……」

「噂…?」


 ブムカイは僅かに眉を顰めた。







「アーサガさん。ディレイツ事件の資料、持って来ましたよ!」


 ノックもなしに扉を開き、ベッドで眠っていたアーサガへと駆け寄る男性リュ=ジェン。


「せっかく寝てたってのに…少しは静かに来やがれ」

「はい、すみません!」


 心のない返事をしながらリュ=ジェンは上体を起こしたアーサガの膝元に地図を広げていく。


「既に赤で○つけてますけど、それが今までに襲撃された現場っす。…あ、これが被害状況の報告書ですが…」

「いや、これだけあれば良い」


 男は数十枚に及ぶ紙束を渡そうとするが、アーサガは地図に集中したいため断る。

 じっくり時間を掛けて地図へと目を走らせていくアーサガ。

 そんな彼に対し、リュ=ジェンは時折背後のドアを振り向きながら、どこかそわそわしている様子を見せる。


「あの…コレ見せたこと言わないでくださいよ。特にハイリ副隊長にばれたときには…」

「…絵に描いたような生真面目みてえだからな」


 不安そうにため息を洩らす彼へアーサガが口を開く。

 ちょっとした同情心のつもりで返答したアーサガだったが、それが嬉しかったらしく、リュ=ジェンは今にも泣きそうな顔で何度も強く頷いていた。


「そうなんっすよー! 歩く規則みたいな人なんすけど、副隊長元々はムト帝国出身者なんすよ。だから肩身が狭いっていうのもあって…」

「この地区からすりゃあ元敵国者だかんな。目の敵にしてる連中に対抗するためあんな説明機械になったってことか」


 此処アマゾナイト軍クレストリカ地区東基地には旧国から各々抜擢されただろう兵士たちも配属されているわけなのだが、未だ一枚岩とは言えず。

 そこには旧国家時代からの確執や対立、思惑といったものが今も根強く続いているためであった。

 ムト帝国とはアドレーヌ王国が建国される以前に存在していた三国の内一つであり、この地域―――元クレストリカ王国の者たちにとってはかつての仇敵。

 クレストリカ出身者の比率が多いこの基地内において、そういった他国から配属されてきた者たちは肩身の狭い思いをしているというわけだ。


「もっと愛想よくいれば良いってのに…要は不器用なんっすよね。だから放っておけないってブムカイ隊長に拾われたっていうか…」


 そう言ってリュ=ジェンは肩を竦めながらため息をつく。

 

「それはお前も似たようなもんだろが」


 アーサガにそう言われグサリと胸に何かが突き刺さり、胸元を押さえ付ける仕草を見せるリュ=ジェン。

 旧ジステル皇国出身者である彼もまた、軍人としての素行の不適切さも重なって周囲に目を付けられていたところをブムカイに拾われた口であった。


(だからブムカイ<アイツ>が拾ったわけか。相変わらずの変わり者が…)


 アーサガは不意にハイリの姿を過らせた。

 如何にも自他ともに厳しいといった雰囲気をまき散らし、真面目に―――必死にやっているとアピールし続けていた彼女の様子が思い出される。

 と、そう思ったところでアーサガは即座に軽く頭を振り、顔を顰めながら目の前の事へと集中し直した。









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