87連
アドレーヌ王国王城襲撃事件。
その事実と様々な噂が王都中に広がるまで、一日と掛からなかった。
しかし、それは無理もない。
多くの民たちが目撃してしまっていたのだ。
見たことのない兵器により攻撃を受けている王城の姿を。
襲撃時、人々はこの王国の終わりがきたのだと、混乱状態に陥ったほどだったという。
「民たちの動揺は王都中に広まっています。一応事態は収拾している旨の御触れは出しましたが…暫く混乱状態は続くでしょう」
そう語るのは王都の状況を報告に来た平和維持軍―――アマゾナイト軍の将であった。
王城外での騒動、治安維持は基本彼らアマゾナイト軍が担っている。
それ故に不審者の目撃があったならば、彼らがすかさず捕えていたはずだった。
が、そんな彼らもあの白い集団や襲撃に使用された兵器については、見逃してしまっていたのだ。
「ネフ族…一体何故かの種族がこのような暴挙に…」
「それに関しては現段階では謎が多すぎますな。エミレス様のお話しではこの名称に不満を抱いていたとか…だとしてもこのような暴力的な行為に出なくとも……」
不可解な点はそれだけではない。
何故リョウ=ノウと手を組んだのか。
絶滅したはずの兵器をどのようにして入手し、製造したのか。
「…それで、兵器での被害状況ですが、王城の外壁は約4分の1が破壊された状況ですが…被害の殆どは一階や正門周辺で、離宮や居住階への被害はほぼありませんでした」
謁見の間にて、そう報告する兵士。
玉座に座るスティンバルは彼らの話に耳を傾ける。
「元は要塞を再利用して造られた王城…ある程度は頑丈が故、王族貴族たちに負傷者がいなかったのは不幸中の幸いと言うべきでしょうかな」
スティンバルの傍らに立つ大臣はそう言うが、スティンバルの表情は浮かばない。
眉を顰めたまま、彼は「いや…」と口を開く。
「兵や従者には死傷者が出ている。これは忌々しき事態であり、全ては私の責任だ…」
目に見えて塞ぎこんでしまっているスティンバル。
結局ベイルも王城内にはおらず、エミレスの予想通りノーテルの街へ逃げたのだと思われた。
そのこともあってか事件から一夜明けたというスティンバルはより一層と責任を感じているようだった。
食事は喉も通らず、睡眠もほとんど取っていなかった。
そう言ったストレスも相まってか、スティンバルの心身は疲弊していた。
「スティンバル様…全ての責任は当然襲撃者にあります……貴方様がそこまで苦しむことではありません」
大臣はすかさずそう擁護する。
と、そこへ両扉が大きく開いた。
「その通りです、お兄様…責任が、と言う話になるのならば…そもそもの原因は私にあります…」
そう言って姿を見せたのはエミレスだった。
ただし、彼女は若草色のツーピースに胸当てや籠手を身に纏っていた。
くせっ毛の長髪は三つ編みに編まれ、手には兜。腰には小剣を携えている。
それは明らかに戦支度の出で立ちだった。
「エミレス…その姿…!?」
「私のせいで沢山の方々に迷惑を掛けてしまった…だからその責任を取りたいのです」
真っ直ぐにスティンバルを見つめるエミレスの双眸は、久々に再会した日―――ひと月半前とはまるで別人のように見えた。
「まさか…ノーテルへ共に向かうつもりですか!?」
驚きに言葉も出なくなっていたスティンバルに代わって大臣がそう尋ねる。
するとエミレスは迷わず頷いて見せた。
「はい。ベイルお義姉様とちゃんと話し合いたいのです。私は何も知らなかった…だからちゃんと謝りたいのです。そうすれば…ベイルお義姉様ならきっと許してくれると思うから……」
気丈に振る舞いそう話すエミレスであるが、その声と指先は震えていた。




