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そして、アドレーヌは眠る。  作者: 緋島礼桜
第二篇   乙女には成れない野の花
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83連

   







 *





 私は何故生きているのでしょうか…。


 私は…何故生きていたのでしょうか…。




 私はあの人を信じた。


 初めて出会ったときから運命だと感じていた。


 あの微笑みが眩しくて忘れることはなかった。


 抱きしめてくれたあの夜、私はとても体が震えた。


 でも、心は何よりも温かくて安心できた。


 あの人は私にとってとても大切な人だと思った。


 あの人も私を大切に想ってくれていると信じていた。




 けれど…それは私だけだった。


 結局あの人も私なんか大切じゃなかった。


 私は誰からも愛されていなかった。


 私が大好きだった人はみんな、私の前から去っていく――。


 リャンやリョウ…ベイル義姉様も…お兄様も、みんなみんな…。


 私が嫌いだから去っていく。


 私を嫌いだから見捨てていく。


 私を見てくれない。


 私を愛してくれない。


 私は…独りぼっちだったんだ。


 ずっとずっとずっとずっと。


 ずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっと。


 


 私は独りぼっちだ。





 *





 光の球体へと飛び込んだ、その先。

 ラライは摩訶不思議な空間にいた。

 全てが真っ白で、建物も空も景色も周囲にはなく。

 呼吸は出来ると言うのに、身体はまるで水中にいるかのような感覚だった。

 歩こうにも足には何も当たらず、それどころか上か下かもわからない状態だ。

 だが、そんな謎の空間に戸惑っている暇はない。

 一刻も早く、此処から彼女を連れ出さなくてはならない。


「あ…アイツ…!」


 彼がしどろもどろしている中で、ようやく目的の人物を見つけた。

 彼女は静かに瞼を閉じ、まるで眠っているように蹲り、空間を漂っている。

 泳ぐようにラライは眠り姫の傍へと近寄った。


「エミレス」


 だが、その名を呼んでも彼女は目を覚まさない。

 起きる気配はない。

 よく見ると眠っていると言うより、人形のように彼女の顔は青白く無表情でいる。


「おい、エミレス!」


 今度は怒声を上げる。

 しかしそれでもエミレスに反応はない。

 ラライはおもむろにエミレスの手に触れた。

 引き起こそうとしたのだ。

 だが、彼女の手に触れた瞬間、ラライは顔色を変えた。

 エミレスの手は氷のように冷たくなっていた。





「起きろ、エミレス!」


 恐る恐る彼女の手首を握り、脈を探る。

 そこからはどくんどくんという、鼓動が確かに聞こえてくる。

 死んだわけではないようだった。


「―――まさか、暴走したせい…なのか…?」


 そうと考えるしかない。

 なにせ彼女の現状は何処の本や資料にも載っていない、誰も知らない現象なのだから。

 しかしだからこそ、これがどういう状態で、どうすれば治るかが解らなかった。


「しっかりしろ、おい!」


 体を揺すり、起こすべく必死に叫び続ける。

 だが、エミレスに目覚める兆しはない。

 

「何やってんだよ…お前は…!」


 一刻の猶予もない状況に、焦りは汗となり、ラライの額から溢れる。

 自分がどんな表情でいるかも知らずに、彼は冷静になろうと深呼吸を繰り返す。

 

「どうすれば良い…どうすれば……」





 こんなにも叫んでいるのにラライの声は届いていない。

 ならば、兄スティンバルではどうだったのだろうか。

 ならば、あの蒼髪の男―――フェイケスだったならその声は届いたのだろうか。 

 そもそも、あの男は一体何をして彼女から信頼を得たのか。

 どうすれば、自分は信頼を得ることが出来たのか。

 どうすれば、彼女に声が届くのだろうか。




 ラライは悩んだ末、エミレスの背へと手を伸ばした。

 静かに、優しく彼女を抱きしめた。

 初めての行動故に随分とぎこちないものでこそあったが。

 それでも、ラライはしっかりとエミレスを抱きしめた。

 

「…お前の……お前の信じたものって…こんなことで崩れるような、その程度かよ……」


 囁くような声を発した。

 自分でも驚くほどに自然と出た言葉。

 それは、心の奥底に眠っていた言葉。


「…オレとした約束…忘れたのかよ……」


 二人だけの空間。

 真っ白なだけの空間が、彼をそうさせたのかもしれない。

 ラライの隠していた想いが叫びとなったのかもしれない。


「一緒に変わるって約束しただろ!? その結果がこれなのか? クズ野郎に何されたか知らないが……たったそれだけで本当に大切な奴らを傷つけることになっても良いのかよ!」

 







   

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