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そして、アドレーヌは眠る。  作者: 緋島礼桜
第二篇   乙女には成れない野の花
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70連

   








 

『アドレーヌ暦0273年   2の月、6、・・・レーヴェンツァーンは泣いていた。それまでとは違う涙を流し、仲間も濡らした。』


『アドレーヌ暦0273年   4の月、4、・・・太陽まで欠けてしまった。おそるべし、レーヴェンツァーンの涙。』


『アドレーヌ暦0273年  10の月、2、・・・悲しいがレーヴェンツァーンを日陰に隠すことが決まった。彼女は自分の涙のせいとは何も知らないようである。太陽が欠けた理由も知らないのだから無理はない。』







「これは…もしかして……」


 よくよく考えてみると、絵日記の『レーヴェンツァーンの花』は人間味溢れる描かれ方をされていた。

 ラライは最後の日記が綴られた頁を捲る。

 するとそこには『これを見た者へ』という綴りで始まるメッセージがあった。





『貴方がもしもこの日記を理解したうえで、その先を知りたいようでしたら―――太陽にこの本を抱かせてください。そうすれば貴方は手にしたものを失うでしょう』


 



 ラライは舌打ちを洩らす。

 それは、この日記が“ある人物”をレーヴェンツァーンの花として比喩し、描かれた暗号日記であることを決定付けたからだ。

 そして同時にこの日記には更に詳しい真実が隠されているという証明でもある。

 もちろんラライが知りたいのはその真実であるのだが。

 問題はその『太陽にこの本を~』という文言が理解出来ないことだった。

 

「太陽に抱かせる? どういう意味だ…?」


 普通に考えればあの空の彼方に照っている太陽へ、この本を掲げてみるところだ。

 しかし、そんな安直なものではないだろうというのが、ラライの考えだった。

 ではこの日記で“太陽”と比喩された者に手渡せば良いのか。

 花にとっての太陽が何を指しているのか。

 それが誰を指示したものなのか。

 ラライでも直ぐに察しはついた。


「…そりゃあこんな機密文書を渡せば、何もかも失うだろうがな…」


 一か八か渡してみろという意図なのか。

 と、そんなことを考えてラライは苦笑する。


「にしても…やたらと分厚いし重い本だな…」


 ラライの食指分もある厚さの日記だが、綴られているのは頁の半分まで。

 残りの頁は何故かガッチリと接着されていて、開くことが出来なかった。

 本にしては異様に重く感じる造り。

 光を吸収しやすいという真っ黒な表紙

 太陽に抱かせる、そして手にしたものを失うという意味。


「まさか…」


 ラライは本を手に取ると、資料室内の机の上の本を全て落とし、代わりにそれを置いた。

 大理石製の机は日光がよく当たる窓の真ん前にあった。


「成る程…この部屋の設計自体がヒントになってんだろうな」


 本来ならば窓から射し込む光をレンズや鏡で集束させ―――そして、本を燃やせということなのだろう。

 それが、『太陽にこの本を抱かせる』という意味だと、ラライは推測した。

 が、今のラライにそんな発火方法を待つ余裕はなく。

 彼は懐からマッチを取り出した。





「だが結局のところ、一か八かな方法だな……」


 失敗すれば、重要な書物を消し炭にしてしまうこととなる。

 バレてしまえばそれこそ全てを失うほどの重罪になりかねない。

 しかし、それでもラライは迷わずマッチに火を灯した。

 静かにその炎を本へと移す。

 と、次の瞬間。

 図鑑のように大きなそれは、瞬く間に燃え上がった。

 燃えやすい材質で造られていたのか、一瞬にして本は灰となって散る。

 炎と煙と灰が舞う室内。

 他の書類に燃え移るのでは、という今更ながらな心配をしつつ見守るラライ。

 結果、彼は一か八かの賭けに勝った。

 灰となっていく本の中から、鉄製の缶が姿を現したのだ。







   

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