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そして、アドレーヌは眠る。  作者: 緋島礼桜
第二篇   乙女には成れない野の花
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47連









 *





 今日も一日、何も変わりませんでした。


 何も変わらない毎日。


 何も得られない毎日。


 私は独りぼっちです。


 それがとても恐いです。


 このままどうなっていくのだろう、私はどうしたいのだろう…。


 それが解らなくて苦痛で仕方がありません。




 でもその苦痛も、あの頃の懐かしかった楽しかった日々を思い返せば忘れられます。


 それに、今の私を助けてくれるのはきっと貴方だと信じています。


 私は貴方が此処に来てくれる日を待っています。


 私に初めての感動をくれた人。


 初めて恋をした人。


 貴方にとても会いたいです。

 



 ―――フェイケスへ―――




 貴方を待つエミレスより。





 *







 

 エミレスが部屋に籠ってから、更に時は進む。

 相変わらず兵士たちは彼女を『王城の篭り王女』などと揶揄し、噂している。

 これ以上は王家の名に傷が付くからと、彼女を別所へ隔離するよう望む貴族もいた。

 だが未だそれに至っていないのは、偏にスティンバル国王の一声があるからこそ、であった。




 一方でラライはあれからずっと、エミレスたちの『あのとき』について調べていた。

 しかし、その前途多難さに彼は打ちのめされる。

 王城内の資料室。

 そこでラライは今日も声を荒げていた。


「ちっ……なんで記録が残ってないんだよ!」


 彼はエミレスに関する記録書や、王城内外で起こった出来事の報告書、しまいには歴史書まで引っ張り出して調べた。

 が、そのどれもにエミレスの名が記されていないどころか、何故か存在さえ書かれていなかったのだ。


「王女様が産まれてからの記録が全くないって…なんでなんだよ…!?」


 顔を顰め、頭を掻き回すラライ。

 王族の家系図には唯一名前こそ記載されていた。

 が、エミレス・ノト・リンクスに関する記述は皆無であった。

 彼女がどのように育ってきたのか。

 彼女がどのようにして、あの別邸に住むようになったのか。

 どのようなことが、彼女に起こったのか。

 何処にも―――まるで彼女の存在そのものを隠すかの如く、一節さえも記されていなかった。


「じいさんの態度に合点がいった…あの姫様、そこまで秘匿にされてるってことかよ…!」


 一週間近く資料室に籠って得た結果が、それであった。

 随分と時間を無駄にしてしまったと、苛立つラライ。

 しかしそんな気持ちを抑えながら、彼は即座に次の行動へと移した。




 エミレスがノーテルの別邸に移り住む以前―――10年前の王城を知る者たちから、情報を聴くことにしたのだ。

 古くから仕えている従者や、昔から王城で暮らす貴族たち。

 記録がなくとも、彼らの記憶には何かしらの手掛かりがあるはず。

 ―――そう思っていた。

 だが、この作戦も簡単にはいかなかった。

 どういうわけか、アドレーヌ城に10年前から住み込みで仕えている者たちでさえ、エミレスについて詳しい話を知らなかった。


「―――エミレス様は、確かに昔は明るく天真爛漫な子でした。ですが王城から外へお出になることはありませんでしたし、以前も話した通り、私は一度暇を貰った身…詳しい話は何も知らされておりません」


 一番詳細であった情報が、前にも聞いた乳母のクレアくらいであった。

 他の関係者に尋ねると、ほとんどの者が首を傾げるか、頭を振ってしまっていた。


「そもそも、国王に妹君がいたなんて驚いたよ」

「20年とこの城に仕えていましたが、この間初めてお目にかかりましたよ」


 口々に彼らは「実は初めて見た」「幼少を見たことがない」「存在自体知らなかった」と、話す。

 ラライはどんどんと面倒くさい展開に追いやられている感覚に後悔しつつも、めげることなく城内外を歩き回った。








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