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そして、アドレーヌは眠る。  作者: 緋島礼桜
第二篇   乙女には成れない野の花
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39連










 着替えが終わり化粧も施されたエミレスは、世話役のクレアに言われるまま大食堂へと向かう。

 エミレスは俯き、周囲から向けられる目線を逸らす。

 冷ややかな目、ひそひそと聞こえてくる声。嘲るような笑み。

 そうじゃないとしても、彼女にはそう聞こえて、見えてしまっていた。

 耐え切れず、唇を強く噛み締めた。


(嫌だ…嫌だ、嫌だ…)


 堪らなく嫌で仕方がなかった。

 だが、ここで耐えさえすれば大食堂では兄が、義姉が待っている。

 そう信じて、エミレスはその一心で大食堂へと向かっていた。

 だがしかし、結果は真逆のものに終わる。




 別邸とは比べものにならない程の広さと煌びやかさのある大食堂。

 中央には真っ白なテーブルクロスが掛けられた、長方形のテーブルがどんと座していた。

 そしてそこには朝食とは思えないほど沢山の料理の山。

 久々の絢爛豪華な食卓に開いた口が塞がらないエミレス。

 と、彼女は侍女に進められた席へと腰を掛けた。

 遥か正面の席―――かつては父専用であったその椅子が、今は兄である国王専用の席だと思われた。

 が、その席に兄スティンバルの姿はない。

 それどころか、義姉ベイルさえも姿はない。


「あの…」

「何か?」

「……お兄様は」

「ああ…国王様と妃様は既に食事を終えられました」


 エミレスの小さな望みは打ち砕かれた。

 兄と義姉との久しぶりの食卓。

 きっとそこには笑いが、喜びがある。

 そう希望を抱き、嫌いな衣装も我慢していたエミレスだったが、彼女の想いは儚くも叶わなかったのだ。

 しかもそれはその後―――昼食、夕食も同じであった。

 従者たちに見られながらの、独りぼっちの食事。

 更に、スティンバルとベイルはエミレスの部屋へ会いに来てくれることもなかった。 

 その日一日、彼女はずっと独りぼっちだった。





「どうして…会ってくれないし、会いに来てくれないの…?」


 その夜。

 自室のベッドで一人、座り込むエミレス。

 着ていたドレスは侍女たちにより丁寧に脱がされ、寝間着に着替えさせられた。

 が、そのフリルの多いシルクの寝間着も、エミレスの趣味ではなかった。

 呼べば侍女たちは直ぐに飛んでくることだろう。

 我がままを言えば侍女たちは直ぐに新たな寝間着を用意してくれるかもしれない。

 だが、エミレスが望むことはそういうことではなかった。


「帰りたいよ…リャン、リョウ…」


 窓の外には三日月が昇っており、それさえも嘲笑しているように見えてしまう。

 

「会いたいよ…フェイケス…」


 無意識にその手は首元に掛けられたペンダントを掴む。

 新たにチェーンを取りつけて貰ったフェイケスからの贈り物は、再度ペンダントとして大切にエミレスの胸元で輝いていた。

 と、俯くエミレスは堪えきれず涙を零す。

 その夜はずっと、涙で枕を、ペンダントを濡らしていた。







 ドンドンと、強く扉をノックする音が聞こえた。

 それが目覚ましとなり、ハッとなって目を覚ますエミレス。

 どうやら布団にも入らず、泣き疲れて眠ってしまったようだった。


「エミレス様…此処をお開け下さいませ…!」


 扉の向こうから聞こえてくるクレアの声。

 エミレスは顔を顰め、布団へと潜り込んだ。


「エミレス様、エミレス様!」


 ノックする音は次第に大きく、強くなっていく。

 だが、それでもエミレスは、出るつもりはなく。

 耳を塞ぎ、布団で蹲るようにして眠った。









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