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見切りから始める我流剣術  作者: 氷純
第一章 我流剣術を作る少年

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第二十話 リオ対ユード

 開始の合図と同時に仕掛けてくるかと思いきや、ユードは上段に構えたまま動かなかった。

 リオは腰だめに木剣を構えたまま待つ。


 リオからすれば、自分から仕掛ける意味がない。こうして対峙しているだけでリオは自分の構えが様になっていることを村のみんなに印象付けることができ、にらみ合う時間が長いほど仕掛ける隙がないと周囲は考える。

 実力を誇示したいユードにとっては睨み合いに持ち込まれた時点で戦略的には負けなのだ。絶対に焦れて仕掛けてくる。


 ちょうどいい機会だと、リオはユードを観察する。

 二歳上だけあってユードの体格はリオよりも優れている。リオが同年代と比べて小柄なのもあるが、ユードは上背があり、肩幅も広い。身体強化の効果は分からないが、ラクドイが目をかけるくらいなのだから弱いことはないだろう。


 体格で負け、技術で負け、本来なら勝ち目のない試合。それでも、精神的にはリオが圧倒的に有利だ。

 余裕の表情のリオを見て、ユードがすっと一歩、足を踏み出した。


 リオが反応して木剣の切っ先を揺らした直後、ユードが一気に踏み込む。

 上段からの振り下ろし。風を割いてゴウと唸るユードの木剣も、来ると分かっているリオはひらりと足捌きだけで躱してユードの左斜め前にずれる。

 リオの動きを目で追っていたユードは左足を下げながら木剣を右足前に突き出して防御姿勢を取った。

 オックス流の型通りの防御だ。


 リオは腰だめに構えていた木剣で横薙ぎに斬りこみ、ユードの防御を横から叩く。

 びくともしなかった。

 ユードがニヤニヤ笑って上段に構え直すのを見ながら、リオは数歩後ろに下がる。


「……こんなに筋力差があるのか」


 体格差はもちろん、身体強化の効果の差が如実に表れていた。防御を弾くのは不可能と考えた方がいいほどだ。

 元々防御に優れたオックス流を相手にしているのだから当然とも言える。


 リオが有効打を持たないと考えたのか、ユードは攻めの姿勢を見せ始めた。

 袈裟斬りに振り下ろされるユードの木剣を後ろに下がって避ける。

 直後にユードはリオの胸元を狙って突きを放つが、リオはユードの正面に身を晒しつつすり足で間合いから逃げる。

 追いかけるユードが右肩に担ぐように木剣を構え、左ひじを引くようにして斬りかかる。

 リオは木剣の軌道をくぐるように、ユードの右側にすり抜けた。


 三連続の攻撃をことごとく躱すリオに村人達がざわめき始める。

 雑音を気にせず、リオは腰だめに木剣を構えたまま静かに距離を取った。

 ユードがリオに向き直る。木剣を垂直に立て、体の右斜め前に構えつつリオを睨んだ。


 ユードの構えは隊列を組むオックス流の重装騎士の防御姿勢だ。右側に死角があるが、隊列を組んでいるためすぐ右に味方がおり、回り込まれる心配がないからこその構えである。

 三連続の攻撃を躱したリオの動きに違和感があったのだろう。それもそのはず、リオは最後の攻撃を繰り出す直前にすでに回避する動きを見せていた。

 カリルからオックス流の型をいくつか聞いていただけでなく、ユードの動きがあまりに型通り過ぎたために攻撃が読めたのだ。


「……技術を自分のものにしてないな」


 ユードはラクドイから学んだ技術を覚えている。だが、理解していないのだ。

 自分の体格でどう振れば最適なのかを考えていない。だから動きが読まれるし、先んじて動かれる。


 リオは腰だめに構えていた木剣を正眼に構え直した。

 右足で一歩、踏み込む。

 警戒したユードが右に体をずらし、構えの死角に入りこまれないようにする。


 リオが左脚を大きく踏み出し、ユードとの距離を一気に詰めた。

 間合いに入ったリオへと、ユードが即座に木剣を振り下ろす。オックス流の型にある、正面の敵を遠ざける牽制の一撃。本命はその直後に来る突きだと、リオはカリルから聞いていた。

 牽制の一撃に怯えた振りでリオが一瞬動きを止める。


 すると、ユードはここぞとばかりに牽制の一撃を止めて突きを放ってきた。

 来ると分かっている点の攻撃など、ずっと訓練し続けてきたリオの足捌きの前では意味がない。

 右足を引き、右足が残した足跡を踏むように左足を前に出す。拳一つ分、攻撃から体をずらしつつ、リオはユードが突き出した木剣に自分の木剣を滑らせるようにして籠手を狙った。

 バンッと分厚い革の籠手をリオの木剣が叩く。


 衝撃で両腕を下げたユードが歯を食いしばりながらがむしゃらに横に振り抜く木剣を、リオは後ろに飛び退いて躱した。

 鮮やかに籠手を打ったリオの動きに、村人たちが感動して拍手する。

 真剣であれば今の籠手打ちでユードの手首から先は無くなっていたが、この試合は降参か完全に地面に横になるまで続く。

 ユードがオックス流の守りの構えを取りながら、真っ赤な顔でリオを睨みつける。


「リオ……っ!」


 村のほぼ全員の前で恥をかかされたことでユードは完全に頭に血が上っていた。

 それでもがむしゃらに斬りかかってこないのは籠手を打たれたことで警戒心が強くなったからだろう。攻撃をことごとくかわされ、先読みまでされたのだ。下手に仕掛ければカウンターを受けると理解している。

 だが、膠着状態もユードのプライドが許さない。籠手を鮮やかに打たれた直後でもあり、睨み合いに持ち込むとリオに臆していると周囲に思われてしまう。


 警戒心と自尊心の間で板挟みになっているユードはなんとかしていいところを見せたい。

 そんなユードの心理を読んで、リオは正眼に構えた木剣でユードの木剣の側面を叩いた。弾き飛ばすと見せかけて、ただの挑発だ。

 試合開始直後であれば引っかかるはずもない安い挑発。

 だが、板挟み状態のユードには触れた木剣が光明に見えたのだろう。


 ユードが即座に木剣同士を絡ませるように手首を返し、リオの木剣を巻き上げようとした瞬間――リオは一気にユードへと踏み込んで木剣での鍔迫り合いに持ち込んだ。

 力押しを仕掛けてくるのは予想外だったのだろう、ユードは身体が硬直してまんまと競り合いに持ち込まれる。

 ガチガチとかち合う木剣を挟んで、リオはユードと目を合わせる。


 頭半分身長が高いユードを見上げる形になるこの体勢は、観客である村人に背の低いリオが果敢に攻めているように見えるだろう。直前に籠手を打っていることもあり、五分の勝負どころかリオが上手の印象さえ受けるはずだ。

 ユードも遅ればせながらリオの目論見に気付いたらしい。苦々しい顔でリオを見下ろす。


「型練習をのぞき見して対策立てやがったな? 卑怯だぞ、てめぇ」


 周りに聞こえないように小声で話しかけてくるユードに、リオは涼しい顔で答える。


「のぞき見はしてないけど対策は立てたよ。当たり前でしょ」


 恥じることでも隠すことでもないので、リオは普通の声量で言い返していた。リオの言葉で村長はユードの言葉の内容も察したのだろう、少し呆れたような顔をする。

 盛り上がっている村人の下までは二人の会話が届いていないようだったが、ユードも会話を続ければ墓穴を掘ると気付いたらしく苦々しい顔で木剣に力を込める。


「うらあっ!」


 体格差と体重差、身体強化まで加えて強引にリオを突き飛ばし、ユードが前傾姿勢をとる。

 ユードが木剣を地面と水平に構え、切っ先をリオに向けながら胸元で柄を握りこむ。

 突き飛ばされた反動でたたらを踏んで後退するリオは、ユードの構えを見てカリルの言葉を思い出していた。


『一対一の今回はあまり意味がないから、技の意図を知っていれば使ってこないだろう』


 ――オックス流の隊列突撃技を出す姿勢。


 ダンッと音が響く強い踏み込みと共にユードが突進を始める。

 リオの腹を狙って鋭い突きを放ちながら前進を止めることもない。当たれば腹を突き破って押し込めばいい、避けたなら――左右の味方が仕留めてくれる、そんな技だ。


 リオはサイドステップでユードの進路から急速に離脱する。

 ユードはリオの動きを目で追いかけ、突きの姿勢から苦し紛れに横へと木剣を振り抜こうとする。

 しかし、リオの木剣がユードの足を刈る方が早かった。


 突進の勢いに加えて、無理やり横へ木剣を薙ごうとする不安定な姿勢。両足を刈られればひとたまりもない。

 ユードは顔から倒れ込んで地面を滑った。顔を庇うために手放した木剣がむなしく地面の上を転がり、観客席に座っていたバルドが無言で踏みつけ、止める。

 リオは木剣を振り抜いた直後に油断なく反転してユードに向けて木剣を構え、自らの足を守りながら数歩引き、構えを解いた。


「しょ、勝者リオ……」


 思惑から大外れの結果に村長が目を疑いながら控えめに宣言した。


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― 新着の感想 ―
[一言] ここであの台詞を言いましょう。 「当たらなければどうということはない!」 せっかくパワーリーチ勝ってるのにね、引き出しもなにも無いならしょうがないね。
[一言] 勝つのか!
[一言] おお……見事。 過去作から思っていたことではありますが、作者氷純様の書く戦闘シーンって面白いんですよね。 何故か。 私普通は戦闘読み飛ばすのに、面白いんですよ。 予想外の動きがあったり、そ…
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