第九話 戦力集結
リヘーランには邪神カジハ討伐戦に参加する冒険者たちが集まっていた。
神剣や邪剣を持つ数少ない冒険者やギルドランク最上位の凄腕たちが揃っている。リオ達がカジハと戦う間、周辺の邪獣や邪霊を始末する役割を持った冒険者たちだ。
ロシズ子爵家の馬車でギルドに乗り付けたリオとシラハを見て、冒険者たちが怪訝な顔をする。
子爵家の子供にしては身なりが貧相で、剣を提げているにもかかわらず剣術の才能はない。そんなリオ達のあべこべさが気になるらしい。
だが、リオが提げている剣の一振りが神剣オボフスだと気付いた何人かはすぐに品定めをするような鋭い目つきでリオ達の歩き方を観察し、どこか納得したような顔をした。
心得があるものの足運びだと気付いたらしい。
ギルドから仕込み杖を手に持った老人とガルドラットが現れた。
老人がリオをじろりと睨む。
「騒動の星の下にでも生まれたのか、お前は」
「巻き込まれてるだけだよ」
「ふん。まぁいい。――野郎ども! 町の外に移動だ! ここじゃあ狭すぎる!」
大勢へ命令することになれた聞き取りやすい発声で冒険者たちに移動を命じ、老人はガルドラットの背中を押した。
「行ってこい。リヘーランは心配いらん」
ガルドラットは無言で頷き、リオのそばに歩いてくる。
「……行くぞ」
「はい」
ぞろぞろと冒険者を引き連れて、リオ達はリヘーランの郊外へ出た。
以前、テロープやブラクルと激戦を繰り広げた郊外は記憶よりも拡張されている。もともと、テロープ達が群れを展開できるほど広かったが、今は木々が切り倒されて根っこも掘り起こされ、石も取り除かれて整備された空き地が広がっていた。
ガルドラットが聖人化したため周辺の邪獣の発生頻度が抑えられ、急速に開拓が進んでいるリヘーランの周辺はこうした空き地が多くある。一部はスファンの町を参考に試験的な農場まで作られていた。
そんな広場では、ロシズ子爵家の騎士団やトリグ達王家騎士団、ホーンドラファミリアなどのテントの設営が始まっている。
冒険者たちも合わせて、邪神カジハ討伐の戦力がここに集結したことになる。
リオはシラハと共に周囲を見回した。
「何人いるんだっけ?」
「三百人」
「冒険者は何人だろ?」
振り返ってみても数が多すぎて、背の低いリオには最後尾まで見えない。
ガルドラットが静かにリオの質問に答えた。
「……五十二人だ」
「総戦力三百五十くらいか」
精鋭ばかりとはいえ、軍としては少ない。半端な戦力はカジハ相手に意味をなさないため仕方がない。
テントを眺めていたガルドラットがリオに質問する。
「チュラス殿はご一緒ではないのか?」
「チュラスなら、ナックさんのお墓参りに行くって、町に入ったところで別れました」
チュラス曰く、ナックと一緒に探っていた魔玉について、リィニン・ディアとの顛末などを報告したいとのことだった。
見た目は猫だが、しっかり者だけあって用事を済ませたらすぐに帰ってくるはずだ。
シラハが口を開く。
「邪霊化は避けられないことも謝りたいって、言ってた」
「……そうか」
ガルドラットはリヘーランの墓地の方角を見て、小さく呟く。シラハ以上に感情を表に出さないガルドラットの心の内は読み取れないが、推測はできる。
ガルドラットが自分の首を撫でリオをちらりと見る。
「邪気は斬れないか?」
魔法を斬れるリオならばあるいは、とガルドラットも考えたらしい。
リィニン・ディアから押収したシラハの神霊化計画でもリオが邪気を斬れる可能性は言及されていた。
しかし、邪気は魔力が変質したものだ。リオの魔法斬りも魔法の核、術式部分を斬って魔力を拡散させているだけで、魔力を斬っているわけではない。
「邪気は斬れないです」
「そうか。……忘れてくれ」
斬れるなら、すでに斬っているはずだとガルドラットも気付いたらしく、話を流した。
並ぶテントを横目に、リオ達は奥へ向かう。
テントから離れた森に近しいその空き地にはラスモアやオッガン、トリグ、イオナが集まっていた。
テントの設営を終えた各陣営の者たちも空き地に集まり始めている。
魔法斬りや陽炎を討伐戦の参加者に披露するための舞台だ。
イオナがリオ達に気付いて歩いてきた。
「じきに見学者も集まります。準備をしていてください」
「了解です」
リオは神剣オボフスを鞘ごと腰のベルトから引き抜き、空き地の中央に足を進める。
リオを見て、オッガンとトリグも中央に出てきた。
「殺傷力の高い魔法は使わないが、当たれば怪我はすると思っておくんじゃぞ」
「一応、おじさんが前衛を務めるから、頑張って抜いてみてね。あ、ここの凄腕たちが見てる前で手を抜いたらばれちゃうから、おじさんは全力ね」
「分かってます」
オッガンやトリグと言葉を交わしているリオを見て、冒険者たちが言葉を交わし始める。
「魔法斬りって一人でやるのか?」
「てっきり、あっちの娘と一緒にやるんだと思ってたけどな」
「てか、大丈夫かよ。ロシズ子爵家の筆頭魔法使いと王家騎士団の隊長だろ?」
「あの子の筋肉量だとまともに食らったら死ぬだろうな」
「身体強化の効率が異様に高いとかじゃねぇの?」
リオの安否を心配する声も多いが、それよりも興味の方が強いようだ。リオの体つきや神剣オボフスの素振りの様子をつぶさに観察している。
特に、リオが神剣オボフスを振り始めたあたりで心配の声が一気にしぼんでいった。
「――聖人ガルドラットから一本取ったって話はマジっぽいな」
冒険者の一人が呟くと、周囲の者たちが納得顔で頷く。
リオは体格に恵まれず、身体強化の限界値も低い。それでも、素振りの様子から確かな技術があると分かったからだろう。
テントの設営を終えた騎士たちも集まり、見学者が揃ったのを見たラスモアが注目を集めるべくリオとオッガン達の間に入る。
「これより、魔法斬りを見学してもらう。試合形式で、どちらかが降参したら終了だ。双方、手は抜くなよ。では、はじめ!」




