表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
見切りから始める我流剣術  作者: 氷純
最終章 邪を祓う剣

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

145/166

第四話  応用方法

 緊急会議と題してリオはシラハ、チュラス、カリル、ラスモア、オッガン、イオナ、トリグを集めた。

 会議のお題は『陽炎の弱点について』だ。

 シラハによる陽炎の評価を聞いて、カリル達の視線がチュラスに向く。

 ふさふさの尻尾の毛繕いをしていたチュラスが視線に気付いて口を開く。


「我にはよく分からぬ。武術の心得がない上に、体の構造も違い過ぎる故、感覚的な理解ができぬのだ。トリグ殿はどうだ?」

「いやぁ、おじさんもわかんないねぇ。あの陽炎に手を突っ込んだ時にはなんだか年甲斐もなくウキウキした気がしないでもないけど、不整脈だと思ったよ」

「軽口を叩くでない。これはちと、検証が必要かもしれぬな。オッガン翁よ、原因はシラハの推測通りと思うか?」


 水を向けられて、オッガンはリオに手を伸ばした。


「魔法斬りのやり方で息を吹きかけてみよ」

「わかりました」


 言われるままにオッガンの手に息を吹きかける。

 オッガンは魔力の塊に触れると、納得顔で天井を仰いだ。


「なるほど。言われてみれば、儂でも意思が乗っているように感じられる。魔力感受性に左右されるんじゃろう」

「うむ、今のは我にも分かった。由々しき事態であるな」


 オッガンとチュラスの意見が一致する。

 魔力感受性が問題ならば、魔玉由来であるシラハやチュラスはもちろん、カジハにも読み取られる可能性が高い。

 リオの陽炎は純正魔力を周囲に展開する。その展開範囲内であれば、カジハの固有魔法の核にも作用して膨張させ、魔法斬りも容易になる。

 陽炎ありきで近接戦闘を考えていた一同は目論見が崩れて唸った。

 いち早く視点を未来に向けたカリルが頭を掻きながら口を開く。


「元々、リオの陽炎は新技術だ。不明点も多い。検証が必要だろうな」

「――ようは殺気を消せばいいのだな?」


 それまで黙考していたラスモアが会話の主導権を握った。

 ラスモアはチュラスを見る。


「本質的な問題は魔力に意思が乗ることではない。攻撃の意思が乗った魔力で攻撃方法を読み取られるのが問題だ。ならば、解決法は意思を乗せない努力だけではないな」

「……ふむ。我の神器か。確かに、神器エレッテリであればリオから攻撃の意思を消してしまうことは可能である」

「それが解決法のその一だ。もう一つは、逆の考え方だな」


 ラスモアに目を向けられて、リオは思い至る。


「攻撃方法をいくつも考えて魔力に乗せ、撹乱する?」

「その通りだ。存在の希薄化とは逆の形になるが、手管は多い方がよい。どの体勢や構えからでも複数通りの攻撃ができるよう、常に意識せよ」

「もともとその意識はありましたけど、やっぱり攻撃の直前はぶれないように狙いを意識しています」

「無理もない。ともあれ、明日の訓練は陽炎の習熟だな。応用的な使い方も模索するべきだ。オッガンが見てやれ」

「了解しました。剣についてはトリグ殿とカリルに見てもらおう」


 話を聞いていたイオナがラスモアに声をかける。


「では、我々の明日の予定は合同訓練に変更しますか?」

「騎士たちに陽炎を見せておきたかったが、完成してからでも遅くない。合同訓練にしよう。内容を詰めたい。そちらの幹部を交えて協議しよう」

「分かりました。夕食後に伺います」


 大人たちが各々のテントへ帰っていくのを見送って、リオは部屋に戻った。

 陽炎の弱点の克服は喫緊の課題だ。


 ベッドに座り込んだリオは手元だけ身体強化を限界以上に発動し、陽炎を作り出す。

 陽炎は自身を魔力で覆い隠す技だ。

 技の性質上、リオ自身の斬撃より早く陽炎が相手に到達し、攻撃方法が読み取られる。

 ラスモアは二つの解決策を上げていたが、リオにもう一つの解決策が見えていた。

 解決策というよりも、利用法と言った方が正しいそれは――


「フェイントに利用できそうだよな」


 ぽつりとつぶやいて、リオはミュゼとの戦いを振り返る。

 ミュゼ戦での決定打はコンラッツから教わった後の先だった。

 陽炎に攻撃の意思を乗せて相手を誘い出し、リオ自身は一歩引いて後の先を決める。そういった駆け引きにも使えるのだ。

 体勢を読み取られない陽炎の性質上、相手に突き付けた攻撃の意思とは全く異なる攻撃や防御を後出しで選択できる。

 もっとも、フェイントの意思すら魔力に乗ってしまっては意味がない。


「何を考えているか分からないシラハが羨ましいよ」

「それは失礼」


 当たり前のように部屋にいたシラハがリオの呟きを聞き取ってむっとする。


「いつもリオのことを考えてる」

「自分の将来のこともよく考えて」

「一緒に考えてる」

「ならいい――あれ? なんかおかしい気が……まぁ、いいか」


 話半分にシラハとの会話をしながら、リオは陽炎についての考えをまとめ始める。

 明日の訓練の予習を兼ねて、リオは陽炎を纏った手をシラハに向ける。


「俺が今、何を考えてるか分かる?」

「私を抱きしめたい」

「くだらない嘘を吐かないでくれない? チュラスに付き合ってもらおうかな」

「夕食は芋のスープがいい」

「正解」

「……そろそろ部屋の掃除をしないと」

「正解。やっぱり少し時間差があるね」


 意思が魔力に乗ると言っても、意思が乗った魔力が外に放出されるまでには僅かな間がある。

 このわずかな間を感覚的に捉えなければ、リオが考えるフェイントには使えない。

 そんなリオの考えを魔力から読み取ったシラハが笑う。


「手伝う」

「ありがと」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 意思を消す。複数の意思を乗せる。わざと偽の意思を乗せる(フェイント)。二つか3つとも出きる様になれば相手混乱しそう。
[良い点] シラハの安定のヤンデレっぷり。
[気になる点] 逃げ場はどこにもないのに思考から逃げたな、リオ。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ