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羅漢VSダンテ

 3回試合目は剣聖ダンテVS羅漢である。

 これは観客も大興奮状態であった。

 ウサギ男はともかく、羅漢の強さは前の試合で目に焼き付いている。その対戦相手はシードされた剣聖の名をもつ人類最強の剣士である。

 ダンテの噂はこの国でも有名であるから、この試合は好カードと前評判がよかった。


「お前、なかなかやるそうだな」


 ダンテは手にしたバスタードソードで肩をトントンと叩いてそういった。ダンテもかなり大きな体であるが、羅漢も負けてはいない。

 巨体の2人が競技場に登場すると、何だか狭くなったように見える。


「人間界最強の剣士とは面白い。この羅漢、全力で相手をする」

「全力で向かってきた方がいい。そうしないと前の試合にように瞬殺だぜ」

「瞬殺だと……くくく……面白い」


 羅漢は武器を持っていない。腕に装着されたガントレットのみである。

 そして呼吸を整えながら、構えを取る。

 ダンテもその姿に気を引き締める。武器を持っていなくても侮れないと感じたのだ。


「おおおおおおおおっ……」


 羅漢は構えながら声を出す。その声は空気を震わし、ダンテの体に叩きつけられる。


「おおおおおおっ~」


 ダンテも剣を構えて気合を込める。羅漢に負けない闘気をまとう。


「おりゃ~!」


 ダンテの鋭い剣撃。

 羅漢は腕で止めた。

 羅漢の武器はガントレット。金属でできた腕から手にかけて覆う籠手だ。そしてその拳には金属よりも固い鉱石がはめられていた。


「剣を腕で止めるとはな」


 ダンテはにやりと笑った。久々に全力が出せる相手と戦うことができた喜びで心が躍る。


「腕で受け止めた奴は今までいなかったのか?」


 羅漢も笑みを浮かべる。

 ウサギ男も強かったが、この剣聖と呼ばれる男も強い。


(人間にも強い奴がいるじゃないか。これは愉快だ!)


 魔王である羅漢は人間を見下していたが、認識を改めないといけないと思った。

 人間を侮るなかれである。


「腕で受け止めた奴は何人もいたさ。だが、全員、腕を切り落とした!」


 さらに威力を高めて剣を振り下ろすダンテ。それも腕で受け止める。

 腕を出さずに体に張り巡らされた防御壁にあたったのなら、ダンテの剣の威力である。恐らく、300ポイントの許容なんか吹きとんでしまうだろう。


「それは残念だな。俺の腕は斬ることは不可能である」


 羅漢は受け止めた剣を左拳で殴りつけた。

 バキン……にぶい音がしてブロードソードに刃が折れた。


「剣をなぐって折った奴は初めてだ」


 きれいに真っ二つに折れてしまった剣を見てダンテは、この戦いがさらに激しくなると確信した。折れた剣を捨てる。

 床に落ちた剣は乾いた音を立てた。同時にダンテは両拳を上げた。


「久々に殴り合いで決着をつけるというのも面白いな」


 ダンテは剣聖と呼ばれているが、若い頃は剣闘士をしていた。剣闘士は剣だけではなく、あらゆる格闘を行う。殴り合いはダンテの得意なことだ。


「うりゃ!」


 ダンテの強烈な右ストレートパンチが羅漢の防御壁を叩いた。数値が一挙に下がる。


「ちっ!」


 羅漢も反撃に出る。ダンテの防御壁への打撃が炸裂する。

 両方とも1発の打撃で100ダメージを与える。

 これはあと2,3発あてれば、勝負が決まることを示していた。

 二人は互いに繰り出すパンチを巧みに除け、そして相手の体にヒットさせようと激しい攻防を繰り広げる。


「やるな、お主。今のところ互角とはな……」


 羅漢は自分の防御壁の数値が残り80となっているのを確認する。ダンテの方は残り50である。


「どちらかが一発あてればそれで終わりだ」


 ダンテは次の攻撃で勝敗が決まると思った。

 観客はここまでの戦いに興奮し、大声援を送っている。そして次の攻撃で勝敗が決まることも知っている。


(あのウサギ男に勇者……そしてこの剣聖という男。人間というのは実に面白い。しかし、俺はここで負けるわけにはいかない)


 羅漢の目的は酒場で自分に恥をかかせたウサギ男の打倒である。

 こんなところで負けるわけにはいかない。


(今まで己の力の30%で戦っていた。しかし、この男には敬意を表し、50%の力を出す。残念だが、そうじゃないと勝てない)


 羅漢は自分の全力を出すことを決めた。この人間界では50%の力の解放が限界である。しかし、魔王の自分の50%は強大な力を発揮する。

 人間界では無敵無双することができるはずだ。そしてその状態でないと目の前の男は倒せない。


「うおおおおおおおおおおっ~」


 空気が振動するほどの気合い。羅漢の力がみなぎる。


「な……なんて奴だ!」


 さすがのダンテも足が地面に縫い付けられたように動かない。すさまじいプレッシャーである。


(来る!)


 羅漢が巨大に見えた。5mを超す大巨人のように見える。

 実際にはそうではないが、強さで相手に圧倒されるときには、往々にしてそのように見えるものだ。

 ダンテも左ストレートを放つ。羅漢の右ストレートとクロスしたクロスカウンターとなって両方の顔を直撃した。

 防御壁は同時に0を示した。すさまじい威力に魔法の効力を失ったのだ。両者はパンチを打ち合ったまま、その場で立っていた。

 防御壁が同時に0になったということは、立っていた方が勝つということになる。


「くくく……やるな……久しぶりにやり切った感があるぜ……」


 ダンテは歯を見せてそう羅漢に語りかけた。まだ羅漢のパンチが顔にめり込んでいる。


「俺もだ。まさか俺に全力を出させるとはな」


 羅漢の顔にもダンテのパンチがめり込んでいる。そしてその拳がずれていく。足がもつれたのはダンテの方だ。目が白目になり、完全に意識が飛んでしまった。

 地面に倒れ込んだダンテを羅漢は見下ろす。


(奴のパンチは右の方に威力があった。今、奴のパンチが左ではなかったら、倒れていたのは俺だったかもしれぬ)


 羅漢の勝ちが宣言される。

 観客の歓声に羅漢は右手を挙げて応えた。


「うっ……」


 足が動かない。

 ダンテのパンチのダメージが足にきていた。

 しかし、ここでひざを着くわけにはいかない。

 羅漢は両手で足を殴りつけた。

 そして会場を後にする。

 観客から見えない控室で座り込んだ。

 一歩も動けない。


(人間どもを馬鹿にしていた。奴らはけっして弱い存在ではない。弱いものは滅びろと言うのが魔界の信念ではあるが……。本当に人間は滅ぼさねばならない連中なのか……)


 疲労感で気を失いそうになる中、羅漢はそう疑問を感じていた。今まで正しいと思っていたことに対してだ。


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