付き人VS武闘家
そして3試合目が行われる。
登場したのはユート。
もちろん、ウサギの着ぐるみを着用。
見た目にはユートとは分からない。
選手としての名前は『ウサギ男』と登録してある。
「それでは3試合目。ウサギ男VS猛虎竜拳継承者イワオーです」
司会者がそう次の試合を宣言する。
右の端にユート。そして左にイワオーが出てくる。
イワオーが出てくると観客は大歓声を送る。
予選から出場とはいえ、イワオーも優勝候補の一人。
シードされた招待選手を倒せる実力があるというのが下馬評であった。
イワオーはその歓声に右手を軽く上げて答えると、少し振り返り目で合図する。
すると弟子らしき4人の男が大きなレンガを運んで積み始めた。
その数は10個。イワオーの膝近くまである。
それをイワオーが割ろうと言うのだ。
観客たちはこのパフォーマンスを見ようと沈黙する。固唾を飲んで見る。
「うおおおおりゃああああ~っ」
すさまじい気合を言葉に乗せて、イワオーは右手の拳を叩きつける。
10個のレンガは粉々に砕け散った。割れるどころではない。
「わああああああっ……」
「すげええええっ……」
大いに盛り上がる観客たち。
これから行われる競技は橋の上での落とし合いではあるが、この強さは誰もが勝利を予想させた。
対するウサギ男は予選では勝ち残ったが、あまりにあっさり勝ったので、なんとなく観客たちもその強さに印象がない。
「ああ……あのおっさん……痛いぜ……」
観客たちの熱狂の中で、ルーシーはそうイワオーを気の毒に思った。確かにこのおっさんはかなり強い。
イワオー 武闘家 ランクB 36歳 攻撃力B 防御力B 体力B 俊敏力A 魔法力E 器用さB 耐性力C 知力C 運C カリスマB
必殺技 猛虎竜10連
だが、所詮は人間の中である。
神に選ばれた勇者や今対戦する、わけがわからない強さの付き人少年の前では、子猫か子ネズミである。
それなのにこんなパフォーマンスをしているのが、痛いとしか思えない。
「ユート様の目的はあの羅漢の排除。あんなおっさんは道端に転がっている小石に過ぎないですわ。でも、大丈夫ですわ」
「なにが?」
相変わらずのんきなクラウディアにルーシーは一応聞いてみた。
「ユート様はお優しい方です。あのおじさんもケガすることはないですわ」
「そりゃ、ケガはしないとは思うけどさあ……」
世の中にはケガよりも痛いことはある。
あんなふざけた格好の奴に負けたら、あの武闘家はこの先、一生の恥になるだろう。
そう考えるとユートには圧倒的な力で勝ってもらう方が武闘家のためにはなる。その前に多少の見せ場を作ってもらえばなおのことだ。
(頼むユート。あのおっさんの恥にならないようにしてあげてくれ!)
あまりに気の毒に思ったルーシーはそう祈らざるを得ない。
柄でもないと自分でも承知しているつもりではあるが。
「それでは試合を開始します」
3試合目が始まる。
イワオーは棒を持たない。
棒がないと不利だが、拳法を得意とするイワオーには無用の長物であった。
ユートは棒を構えたが一応向けているだけだ。
じりじりと近づく両者。
「きええええええっ~っ」
先に動いたのはイワオー。すさまじいパンチとキックを繰り出す。
ユートはそれを棒で受けた。
攻撃が終わった時には棒が3つに折れて地面に落ちた。
「ふう……」
イワオーが正対する。呼吸を整える。
これもパフォーマンスだ。
信じられないくらいの速さのパンチとキックで棒が砕けた。
しかもうさぎ男は立ったまま。
ある意味、すごいことだ。
衝撃を棒にだけ集中させて、持っている人間にその力を伝えないのだ。
これは相当な技のキレがなければできないことだ。
観客はこのパフォーマンスに大歓声を送る。
みんなイワオーの圧倒的な力にウサギ男が何もできないのだと思った。
「おい、小僧……負けを認めて自ら水に落ちろ。見逃してやる」
そうイワオーは指を差し、そしてウサギ男に言い放った。
降伏勧告である。
もし、自分がまともに拳をふるったら、まちがいなく大けがをする。
もちろん、手加減はするが、抵抗次第ではある程度本気を出さざるを得ない。
それを思っての慈悲である。
しかし、ウサギ男は拒絶した。
「降伏はしません。あの羅漢という人を倒さなくてはいけませんから」
「羅漢だと……はははっ」
イワオーは笑った。確かに先ほど勝った羅漢という男も強い。
しかし自分ほどではないと思っていた。
「あの男と戦いたいだと。ふふふ……。お前は運がない。なぜなら、あの男よりも俺の方が強いからな!」
イワオーはウサギ男の胸めがけて正拳を放った。
この一撃でウサギ男は後ろへ数メートル飛び、地面に叩きつけられて落ちる。
(はずだった……)
イワオーは地面に転がり、そして橋から転げ落ちそうになった。
何とか縁を掴み、落ちるのは免れた。




