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羅漢、圧勝

 パンティオンの決勝トーナメント1回戦は、幅3m、長さ30mの細長い橋の上で行われる。

5mほど下は池。落ちてもけがをしないようになっている。

 対戦者はお互いに長さ1.5mほどの先に布でガードされた棒をもつことができる。

 これで突き合い、下へ落とすという単純なゲームである。

 攻撃魔法の使用は不可。

 攻撃支援魔法も不可。

 魔法のアイテムも使用不可である。

 あくまでも己の肉体の力のみである。

 パワー勝負の予選とは違い、この戦いは棒を扱う技術、すばやさも重要となっている。

 例えば、相手の背後にまわり込み、押せばどんな人間でも水の中へ落ちてしまうだろう。

 ある意味、どんなに強い戦士や騎士でも不覚を取ることは十分にあり得た。

 よって番狂わせも多く起こり、これが観客を惹きつけ熱狂させることにつながっていた。

 予選シード選手は以下の4人。

 まずは光の勇者アリナ・ロディン。

 2人目はその仲間、剣聖といわれるダンテ・ロスチャイルド。

 そしてアリナと同じく太陽の勇者と呼ばれているライディという青年。

 4人目は前回の優勝者。この国の近衛師団副隊長のガーフィールド少佐である。

 予選を勝ち抜いた8人は、ウサギ男に変身したユート。

 そして7魔王の一人で人間に化けている羅漢。

 ユートのおかげで予選通過した村人ネロ。

 羅漢の猛攻の中で全員が瞬殺された中、偶然生き残ったスカウトの男、ロハン。西方の武術を極めた格闘家のイワオーに、オーガキラーの異名を取る辺境の狂戦士ローウッド。

 レイピアを使わせたら右に出る者はいないと噂される王国騎士団の花、レディ・ケイト。

 そして、体重160キロ、身長190センチという予選通過者の中で一番の巨体を誇るアケボーと言う男。町で人気の格闘技、押し相撲のチャンピオンである。

 決勝トーナメントの方法はまず予選通過者による1回戦を行う。

これはくじ引きで決まる。

2回戦からは試合方法を変えてシード選手である4名が加わる。


「なあ、クラウ。ユートの目的って、あのおっさんを倒すことだよな」


 ルーシーはくじ引きに向かうユートの後姿を見ながら、そうクラウディアに話しかけた。


「そうですわ。ユート様はアリナの勝利は疑っていないけれど、あの羅漢とかいう人とアリナを戦わせたくはないのですわ」

「……で、結果的にあのおっさんは瞬殺されると……気の毒に」


 ルーシーは大いなる誤解で羅漢がユートに負けるのを気の毒に思った。

 羅漢はステータスを見る限り、とんでもない強さを誇る。それは勇者を凌ぐものだ。

 だから、普通にしていたら優勝の最有力候補なのにである。


「まあ、くじ引きだからユート様に決勝戦まであたらないということもありえるのですわ」


 クラウディアはそう言って、ユートのくじ引きの結果を見守る。

 ユートは羅漢と当たることを望み、羅漢もそう願っていたが、運命と言うものはそう簡単に引き合わせないようだ。

 ユートの1回戦の相手は格闘家イワオーと決まった。羅漢はオーガキラーの異名を取るローウッドと決まった。

 ついでに村人ネロは巨漢アケボーと対戦することになった。


「わあああああっ!」


 決勝戦の1回戦の第1試合が始まった。

 レイピアの使い手レディ・ケイトが華麗な棒術で運よく生き残っただけのスカウトを橋の上から落とした。

 正確無比な打突で圧倒する戦いぶりと長い銀髪と美しい容姿に、観客は大いに盛り上がる。次は羅漢の出番だ。


「おいおい、話に聞いた無様な腕相撲の負け組おっさんじゃないか」


 そう羅漢の相手ローウッドは棒をぐるぐると回転させ、旋風を巻き起こすパフォーマンスで観客を煽る。

 ローウッド自体はあの腕相撲勝負の時にその場所にいたわけではないが、仲間が一部始終を見ており、ユートとの経緯も聞いている。


「うさぎの着ぐるみを着たちっこい奴に軽くひねられたそうだな。その筋肉は見せかけか、はははは……」


 ローウッドは結果しか聞いていない。だから、羅漢を侮っていた。羅漢も堂々たる体格で禿げ上がった頭に刻み付けた入れ墨が、見る者に恐怖を植え付ける迫力があるが、オーガキラーの異名を取るローウッドには、それが特別にはみえなかった。


「あのおっさんもけっして弱くはないけど……」


 魔法のアイテムの力を宿したルーシーの目には、見た者のステータスが映し出される。

 ローウッド 戦士 ランクC 32歳 攻撃力B 防御力C 体力C 俊敏力C 魔法力F 器用さD 耐性力C 知力C 運D カリスマC


 並みの人間ではないことは確かだ。

 だが、羅漢はそんなレベルではない。いろいろと強すぎて、ステータスが不明なのもあるが、判明した攻撃力はSSである。


「さて、すぐに無様に水の中に落としてやるよ」


 ローウッドはそう言って棒を構えた。

 いつも装備しているのはハルバートであるが、この競技ではそれよりもはるかに軽い木の棒である。

 先端には布が巻き付けられており、突いても大けがはしないようになっている。

 ローウッドが名を上げたのはオーガ退治。

 オーガとは人よりも大きい亜人。怪力で武器を使いこなす知恵もある強敵。中には魔法まで使うものもいる。

 そんなオーガを専門に退治することでローウッドは一目を置かれるようになった。並みの冒険者ならオーガと戦うのは避けるのとは反対だ。


「さあ、かかって来いよ。オーガも恐れる俺の攻撃を受けてみろ!」


 ローウッドは棒をぶんぶんと振り回し挑発する。

 大して羅漢は顔色1つ変えない。

 右手に持った棒を地面につけて仁王立ちして、ローウッドの挑発を黙って聞いている。


「それで終わりか?」


 ローウッドが話し終わったところで、羅漢はそう尋ねた。



「はああああん!?」


 ローウッドは一気に機嫌が悪くなった。


「てめえ、少し、手加減して観客に楽しんでもらおうと思ったがやめた。今、水に落とす!」


 ローウッドは棒を突きだして突進する。この突進を止めることはできない。棒に体を突かれ、そのまま橋から転落するしかない。


「え?」


 ローウッドは自分の体がふわりと浮いたことに気づいた。

先ほどまで地面を走っていたはずなのに、なぜか空中でひっくり返っている自分に気づいた。

 観客たちの声援が遠くに聞こえる。

 下には誇らしげに立って笑みを浮かべている羅漢の顔が見えた。


「わああああああああっ~」


 ローウッドは空中へ放り上げられて、そのまま水に中へと落ちて行った。


「ふん。人間なんぞにこのわしが負けるはずがなかろう」


 羅漢はくるりと背を向けた。

 突撃してきたローウッドの棒の攻撃を、少しだけ体をそらして避けた羅漢。

 そのまま右手を伸ばしてローウッドの胸ぐらを掴むと、なんと片手で放り投げたのだ。

 ローウッドは空中へ放り投げられ、そのまま水の中へと消えるしかなかった。

 観客は大いに盛り上がった。

 羅漢の強さは本物で、これは予選から優勝候補が現れたと期待が高まったからである。


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