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付き人の祝福

「あ、あの人は……」 


 予選が終わり、明日の決勝トーナメントに向けての前夜祭。

 町は明日からの決勝戦に向けて大いに盛り上がっていた。

 人々は町の各所で飲み歩きながら、大騒ぎをしている。

 その中でも騒ぐことなく、ひっそりと歩いている素朴な若者がいる。

 ユートのおかげで予選突破ができたあの貧乏村の村人ネロである。

 ネロは騒ぎに混じることなく、屋台で安い持ち帰りの弁当を買い、安宿に戻る途中であった。

 予選突破した賞金はもらったが、他の予選突破者と同じように散財する気にはならない。

 少しでも節約して、村の人たちのために持ち帰らないといけないお金だ。

 そんなネロは町の雑踏の中にあのウサギの着ぐるみを着たユートを見つけたのであった。


「あの……あんがとうございましたっぺ」

 

 ネロは急いで駆け寄って頭を下げた。

 このウサギ男がいなかったら、絶対に予選突破はできなかった。


「おや、あなたは?」


 ユートはネロのことを覚えていない。

 一緒に予選突破したのに記憶にないようだ。それでもめげずにネロは改めて自分の名を言った。


「おらはネロっていう名前だっぺ」

「僕の名前はユートと言います」


 そうウサギ男は名前を名乗った。

 ウサギ男の横には12,3歳の少女ともう少し年上の少女がいる。

 2人はネロを見るとぺこりと頭を下げた。

 小さいほうの女の子は、ゴスロリ風のドレスで赤い小さなポシェットを持っている。

 そして前夜祭に出されている鳥のもも肉を焼いたものを屋台で買い求め、かぶりついている。

 まだ声変わりしていない高い声と連れの女の子を見てネロは、ユートと名乗る着ぐるみ男がまだ子供であることを悟った。


(子どもなのにあの強さ?)


 いろいろと疑問はあるが、ここまで勝ち抜いた事実は事実である。

 きっと魔法の道具か何かを使ったのだろうとネロは推測した。


「ユートさんのおかげで、おらも予選を通過できたっぺ……。賞金もらえて村の人たちも助かったぺ……」


 ネロはそう言って自分がこのパンティオンに参加した理由を話した。

 村が災害を受けて、みんな苦しんでいること。

 そしてこのパンティオンの賞金で何とか復興したいということをだ。

 もちろん、さすがにネロは優勝なんて大それた夢は描いていない。

 ユートと当たれば瞬殺だろうし、他の予選突破者もネロよりはるかに強い。これ以上勝つことは無理なことを自覚している。

 そもそも、ユートという存在がなければ、予選突破すら不可能なことであった。

 予選突破で得た賞金では不十分であったが、ないよりはマシというものである。それでも1つ勝ち抜くことで村の人たちは助かる。

 そこへ向けてネロは全力を出すつもりであった。


「ううう……かわいそうに……」


 話を聞いたユートはそう涙を流した。正確にはウサギの着ぐるみの中でだが。


「できるだけ勝ち抜くことができるようお祈りしましょう。きっと、勇者アリナ様のご加護を受け、あなたに幸運が訪れるでしょう」

「勇者アリナ様だっぺ……ありがたや……」


 ネロは光の勇者の噂を聞いていた。

 この着ぐるみ少年と光の勇者の関係は分からなかったが、元々学もない田舎の青年である。

 なんだか神々しい祈りに思わず跪いて両手を合わせた。

 その姿にますます気をよくしたユートは、手のひらをかざして祝福する。

 大神官サラディンから教えてもらった「祝福ブレス」である。

 この神の奇跡は様々な効果を生み出すが、ユートはネロの「幸運」を願った。


「おいおい……あれはちょっとまずいじゃないのか?」


 ユートとネロのやりとりを見ていたルーシーは、そっと小声でクラウディアに話した。

 鳥のもも肉のローストにかぶりついていたクラウディアは、まったく気にしていない。


「ユート様は本当に優しいのですわ」

「いや、優しいたって、今のであの人のステータス、めちゃ異常だぜ」


 ルーシーの目は魔法のアイテムの影響で、人のステータスを数値化して知ることができる。

ネロの最初のステータスはこうであった。


ランクE ネロ 26歳 村人 攻撃力E 防御力D 体力C 俊敏力E 魔法力F 器用さD 耐性力C 知力E 運E カリスマE


 どこにでもいる若い一般人のステータスであった。この数値でパンティオンの予選を勝ち抜いたこと自体が奇跡である。ユートの隣にいなかったら、瞬殺だったであろう。

 そしてユートが祝福を使ったらこう変化した。


ネロ 村人 ランクE 攻撃力E 防御力D 体力C 俊敏力E 魔法力F 器用さD 耐性力C 知力E 運SS カリスマE


(おい~っつ!)

(幸運の数値がSSになっているんですけど!)

(こんな奴、どこにもいないけど!)

「大丈夫ですわ。祝福で上がった運の数値は一時的なものですから」


 そうクラウディアはそう言ったが、相変わらず料理に夢中なところを見ると、関心がないから適当なことを言ってそうだ。


「だけどよう……。ユートが出場しているだけでもややこしいことが起きそうなのに、あの田舎者まで波乱要因じゃないか」

「ユート様の目的はあの筋肉だるまが、勇者の邪魔をしないようにすること。最初に当たれば、瞬殺してその後、ユート様はわざと負けると思うのですわ」


 クラウディアはそう言った。クラウディアが話した筋肉だるま……羅漢は予選4グループで圧倒的な力を出して勝っている。

 まず決勝戦は予選勝ち抜き組による対戦となる。そこで勝った4人はシード組と対戦するのだ。

 対戦相手は直前にくじを引いて決めるのだ。

 明後日から開始される。


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