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予選1回戦

 パンティオンの予選は3日間に分かれて行われる。

 この予選方法がユニークで、周辺国から多くの腕自慢の猛者が集まることになっていた。

 まず、申し込めば老若男女問わず、みんな予選に出場できる。

 よって、予選参加人数は毎年1000人を超える。

 多くの者が参加できることが人気の秘密なのだ。

 1000人もの参加者を篩にかけて選抜する方法。

 この予選を見に来ている観客も楽しめ、そして公平で分かりやすく、そして12人による決勝がより面白くなる方法。

 それはバトルロイヤル。

 25m四方の人工で作られた石の島。周りは幅15mの水路で囲まれている。

 深さは2m。島は石畳で敷き詰められ、闘技場のようだ。

 水路の周りには観戦するための席が設けられており、5千人は収容できるようになっている。

 この人工の島におよそ250人ずつ送られる。

 合図とともに落とし合いをするのだ。そして最後に残った2人のみが決勝トーナメントへ進むことができるのだ。

 この250人のバトルロイヤルを4回行い、トーナメントへ行く8人を決定する。

 予選を勝ち抜いた8人とシードされた招待選手の4人。

 パンティオンはこの12人で行われるのだ。

 予選は出場を望めば誰でも出られるとはいえ、このバトルロイヤルを勝ち抜くのはかなり厳しい。

 まず、最初の段階で押されて水に落ちる。

 四角く区切られた島の外側に位置したら、いくら剣の実力があっても落ちる。

 一方向に何百人もの人間が押し合いをするのだ。いくら個人的に強くても耐えられない。

 また、押し合いの結果50人ほどに数が減ると、今度は互いの出方を待つ牽制のしあいになる。強そうな奴を共闘して水へ落とす。

 また実力が伯仲して戦っている最中に隙を見て落とす。様々な策略が渦巻いて行く。

 中にはグループで参加し、ある程度数が減ったら共同でグループ以外の人間を落とす者もいる。

 決勝トーナメントへ出場するだけで、結構なファイトマネーがもらえるから、仲間の誰かを出場させるのだ。

 この押し合いは素手で行う。

 武器の使用も魔法の使用も認められない。

 丸腰の体のみ。完全なるパワー勝負である。

 ただ、数が減ればフットワークを使って勝ち残る者もおり、状況によって様々な能力を試されるのだ。


「くくく……。そろそろ始まるようですわ」


 多くの観客に混じって、クラウディアとルーシーはユートの様子を見に来ている。

 勇者アリナとその仲間はこの町の領主の館に滞在している。

 領主の召使いがおもてなしをしているので、付き人であるユートたちの仕事は少ないのだ。

 よって、町に遊びに行く許可をもらって出て来たのだ。

 パンティオンの予選に出ることは話していない。

 勇者アリナと剣聖ダンテが招待選手として、決勝トーナメントにシード選手として出場することになっている。

 ユートは敬愛する勇者アリナが邪魔をされないように、この決勝トーナメントに出ようとしているのだ。


「250人の押し合いなんて、どう考えても中心付近にいた方が有利だろ」


 ルーシーは島へと移動する出場者を見てそう言った。

 早く入場する者は中央付近に陣取っている。


「運営に多額の金を払った奴や名前が売れていて強そうな奴、家柄がいい貴族出身の奴が最初に入場するのですわ」


 そうクラウディアが嬉しそうに説明する。

 300年も生きている大魔導士だ。このパンティオンのことにも詳しい。


「それじゃあ、ユートなんか最後の入場になるじゃないか」


 そうルーシーは言った。

 体も小さく、そしてウサギの着ぐるみ。そしてよそ者で賄賂もない。

 完全なるお笑い要員である。

 現に最後の方に進む連中は、勝ち残ることを考えていない。

 どうやって観客に受ける様に水に落ちるか。その1点にかけている連中である。


「あら、やっぱりユートは最後なの」


 クラウディアが指を差した方向。ユートが本当に最後の入場者として島に渡った。もう空きスペースがなく、ほとんど縁である。押されれば1歩で水に落ちる。


「普通は真っ先に落ちるパターンだよな……」


 そうルーシーは呟いた。そのつぶやきには負けが決まった残念オーラは全くない。

 このどう頑張っても勝てそうもないポジションから、どうやってユートが勝つのか、それを想像するだけで出てしまったため息だ。

 中央付近は決勝トーナメントにかけている連中が集まっている。

 昨年度、決勝トーナメントへ進んだ実績のある騎士団長。

 今年、士官学校に入学する予定の伯爵の息子。

 長年経験を積んだ冒険者。そんな連中が集まっている。

 彼らの最初の行動は順に四方を推して周辺の連中を水に落とすこと。

 中央付近はそれをコントロールするにはちょうどよい場所だ。

 うまくコントロールしないと、一方の端にいた連中が勝ち残ることもある。

 その場合は中央付近にいても危ない。


「今年も勝つ。まずは縁にいる庶民、お祭り騒ぎがしたいだけの連中を葬る」


 そう騎士団長は周りの人間に呼びかける。

 その思いは同じだ。数が減るまでは、中央付近の連中は仲間である。


「それでは1回戦、始め!」


 開始を示す大きな旗が振られた。


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