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パンティオン前夜祭

 サスティ王国の首都バラエド。

 春から夏へと変わるこの時期。多くの人がこの国を訪れる。

 なぜなら、大陸各国にも有名な武術大会『パンティオン』が開催されるからだ。

 この『パンティオン』に出場するために、各国の腕自慢、剣自慢の猛者たちが集まり、それを見ようとする観光客が集まるのだ。

 パンティオンは誰でもエントリーできる予選から始まるので、2週間にも及ぶ一大イベント。

パンティオン以外にも各国から集まる猛者たちによる私的な武術大会や剣技の披露、力自慢のパフォーマンスに始まり、中には大食い大会のようなイベントも開かれる。

 多くの観光客目当てで地方の特産品を売る行商人や大道芸人、芝居小屋なども集まり、大変にぎやかな1か月にも及ぶフェスティバルなのである。


「おりゃ!」


 酒場の広いホール中央に置かれたエールの空き樽で、アームレスリングが行われていた。

 そこですでに10人の男たちをねじ伏せていた巨漢の男がいる。

禿げ頭に奇妙な文字の入れ墨。髭づらでぎょろりとした目が凶暴さを宿す。

日に焼けたブロンズ色の上半身はこれ見よがしに鍛えられた筋肉を見せつけていた。


「弱い、弱すぎる。なぜ、人間はこんなに貧弱なのだ!?」


 10人目の大男を軽くねじ伏せたその男はそう叫んだ。よく聞くと自分も人間のはずなのにおかしな台詞だ。

 周りで見ていた酔い客たちは、その言葉に興奮する。


「誰か、あの筋肉だるまを倒してくれ!」

「人間じゃねえ強さだ」

 

口々に叫んでいる。ここにいるのは冒険者やパンティオンに出場するためにやってきた男や女。みんな武術や喧嘩には自信がある。

 ただ、腕相撲のような単純な力比べになるとパワーがものを言う。

力を効率的に相手に伝える技術もあるが、圧倒的な力の差がある場合はそんなものは関係ない。

 この禿げ頭の大男の正体は魔王。序列7位の羅漢だ。

 今は人間の振りをしている。

元々、 人間型の魔王であるから、少し異様と思えるような鍛えられた体躯ではあるが、誰も魔族だと思っていない。


「俺がやるど!」


 そういって割って入ってきたのは、羅漢よりも一回り大きい髭もじゃの男。

 北方の蛮族出身の戦士である。

 普段から力自慢をしているだけに、羅漢の挑発に応えないと仲間の手前かっこ悪いと考えていた。


「ふん。かかってくるがいい!」

「その言葉、そっくり返すど!」


 北方の訛りで叫んだ髭大男は右腕の力こぶを誇示する。

 酒場にいた女性冒険者たちも釘付けになるほどの大きさだ。


「おお……これならいい勝負になるぞ!」

「調子に乗った筋肉だるまを倒せ!」

「筋肉だるまが負ける方に銀1枚!」


 やんややんやの大騒ぎとなる。

 髭大男はのっしのっしと中央の空き樽へ進む。

 そして右腕を出した。がっちりと羅漢と組む。


「よし、そのまま……」


 審判役の男ががっちりと握られた拳を両手で抑える。

 もう互いの力がぶつかり合っている。


「よし、ファイト!」

「うおおおおおおっ~」


 髭大男が渾身の力を振り絞る。

 だが、ブロンズ色の丸太のような腕は1ミリも動かない。

 汗がだらだらと流れていく。


「おりゃ!」


 3秒ほど経ったときに羅漢は腕を動かした。

 それだけで髭大男はひっくり返る。


「おおおおおおっ!」

「ぎゃあああああっ!」

「うあああああああっ!」


 いろんな叫び声が錯綜する。

 羅漢の圧勝である。

 当然だ。魔王が単純な力比べで負けるはずがない。

 しかも、かなり力を制御している。1%も出していない。

 もし、5%も出したら、人間の腕など折れてしまうだろう。

 ケガをさせてしまうといろいろと面倒になる。

 羅漢の目的は強いと言う噂を立てられること。

 そうすると興味をもった人間が接触してくる。

 そうすれば勇者についての情報や、大魔王についての噂を手に入れることができると考えたのだ。


「あんな奴、ユート様なら軽くひねれるのですわ」


 聞き捨てならない台詞が羅漢の地獄耳に届いた。羅漢はその声がした方向を見る。


(な、なんなんだ!)


 思わず二度見した

 テーブルに座っていたのは3人。ウサギの着ぐるみを着た奴。ひよこの着ぐるみを着た奴。そして猫の着ぐるみを着た奴。

 3人とも顔が見えない。全身着ぐるみだから人間かどうかも分からない。

 小柄ではあるから、子供かもしれないがギルドの酒場に子供がいるわけがない。


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