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一件落着

「ありゃ……こうなるとは思っていたけど、予想以上の展開だぜ」


 ルーシーと領主と隊長、そして救い出した娘のアルティである。

 燃える屋敷の正面の道路にバリケードを作り、包囲の指揮を執っている。

 娘たちは全員、領主の屋敷で待機し、親に引き渡しをしている。

 今頃は無事の生還に互いに涙を流していることであろう。 

 元々、領主は誘拐されたアルティの救出のために信頼できる兵士を集め、屋敷へ出撃する準備をしていた。

 しかし、オーガヘッドの恐ろしさを知っている兵士たちの士気は上がらず、逃げ出すものもいて、準備が滞っていたのだ。

 そんな中でのアルティの帰還。

 そしてオーガヘッド支部の屋敷から火の手が上がっている。

 領主はこの機を逃すまいと兵たちを叱咤激励した。

 壊滅状態のオーガヘッド支部を見て、兵士たちも勇気がわいてきた。

 取り囲んで脱出してきたものをとらえる。

 ほとんどがやけどを負い、重傷であるので抵抗もない。次々と捕縛していく。

 その中には手足を折られ、歯も折られたバーモントもいた。

 領主は満面の笑みを浮かべて、バーモントを牢獄へ入れるように命じた。

 この男だけは絶対に許さない。それはこの町の住人すべての思いであろう。

 公開裁判の上、公開処刑しないと気持ちは収まらない。


「ルーシー殿、それでオーガヘッドを壊滅させた勇者殿はどこにおられる。この恩は返しきれないほどだ」


 そう領主はルーシーに頭を下げた。

 領主は貴族であるが、オーガヘッドに横暴に威厳もプライドもズタズタにされていたから、助けてくれた平民にも腰が低い。

 頭を下げられた方のルーシーもどうしてよいか分からない。

 しかもやったのはユートとクラウディア。最強コンビである。


「領主様、アルティ様を助けたのも、屋敷を燃やしたのも、あの中から平然と出てくる子ども2人です」


 そう指さすとちょうど、12,3歳くらいの少年と少女が炎の中から出てくるところであった。

 やけどもしていない。ケガもしていない。服も焦げてない。

 実に不思議な光景に取り囲んでいた兵士たちも唖然とするしかない。


「あ、あなた様が勇者殿であられるか?」


 領主は転げる様に進み出て、ユートとクラウディアにひざまずく。娘を助けてくれたばかりでなく、町を巣くう悪人どもを一網打尽にしてくれたのだ。感謝してもしきれない。

 しかし、出て来た少年の言葉は素っ気なかった。


「いえいえ、僕は勇者じゃありませんよ。勇者アリナ様のただのしがない付き人に過ぎません」

「ただのしがない付き人?」


 きょとんと領主はユートの顔を見た。確かにあどけなさが残る少年である。


「では、アルティを助けてくださった勇者様は?」


 領主には何が何だか分からない。

 ただ、目の前の少年と少女がこの状況を作り出したとは絶対に思えない。


「怖かったですわ~」


 少女の方は少年に抱きついている。

 あの焼き殺される炎の中を平然と歩いてきたことを忘れてしまうような平凡な少年と少女にしか見えない。


「領主様ですね。僕はユートと言います。この無法者たちの成敗は、勇者アリナ様のお力のおかげなのです」

「な、なるほど!」


 領主は納得した。

 こんな年端もいかない少年と少女が軍をも退ける力をもつオーガヘッドの支部を潰せるはずがない。


(聞けば、勇者様は隣国で3つ首竜を退治したという。その力はまさに神と同じ。きっと、この少年に何か力を与えたのであろう)


 領主はそう考えた。そう考えないと理解できない。


「領主様、後日、この町をアリナ様が訪れます。その時は是非、アリナ様が不自由をなさらないようご配慮をお願いします」


 そう言ってユートは頭を下げた。実に丁寧で礼儀正しい態度である。

 領主としてはこの申し出を拒否することはできない。


「あ、申し添えておきますが、あの屋敷にはこの国全ての支部と本部の幹部がいました。全滅です。その意味はお分かりになりますか?」


 そうユートは話した。

 こういえば、領主は動く。すぐに伝令を派遣して仲間の領主に支部の幹部が死んだことを知らせるのだ。

 残っているものは雑魚に過ぎない。

 オーガヘッドの残党は死滅されるだろう。

 この国を蝕んでいた毒が全て洗い流されると言うわけだ。

 数日後。


 クエストベースを5頭の地竜に引かせて町に到着したアリナは、町の人々の歓迎ぶりに驚いた。

 門をくぐる前から人々の歓声が聞こえてきており。中に入るとメイン道路の両側に人が立ち手を叩いて歓迎している。

 建物の窓からは紙吹雪が投げられ、アリナたちを祝福している。


「これは一体どういうこと?」


 アリナは目を丸くした。

 モンスターに襲われていた町を救って、その後に歓迎されることはよくあるのだが、何もしていない町で最初からこのような大歓迎を受けることは記憶にない。


「3つ首竜を倒したせいかしら?」


 隣国で強大なモンスターを倒したことは近隣諸国にも伝わっていると思われる。

 見事に国の危機を救ったコーラン王国は、国を挙げての祝賀会を1週間にわたって開催した。

 アリナたちは連日連夜の歓待を受ける。

 そしてやっと解放されてこのサウザント公国の町エリアンへとやって来たのだ。


「これはどういうことかしら。ユート、あなたは偵察にこの町に来たことがあるわよね」


 アリナはそう尋ねた。付き人のユートとルーシー。

 そして新しく加わったクラウディアの3人は、熱烈歓迎でコーラン王国から離れられないアリナたち勇者パーティのメンバーを置いて、次の移動先であるサウザント公国へ行ったのだ。


「はい。この町でもアリナ様もご高名は伝わっております。アリナ様が来るという話だけで、この町に巣くっていた悪人どもも滅びてしまったくらいですから」


 そう言ってユートは地竜を操りながら、燃えてしまった屋敷の後を指さした。オーガヘッドの支部の屋敷跡である。

 そこには公開処刑されたバーモントとその部下が首をくくられてぶら下がっているシルエットが遠くから見える。


「へえ……。私が来ると言う話だけで、悪党どもが滅びたというの?」


 そうアリナは半信半疑のような顔で窓から顔を出した。

 人々が勇者万歳を叫んでいるので、右手を軽く上げた。

 それだけで人々は熱狂する。


「まあ、どういうことか分からないけれど、光の勇者である私ですもの。人間の悪党レベルでしたら、直接手を下さなくても解決できるのでしょう」

「はい、その通りです。アリナ様」


 自信たっぷりに追従するユート。

 ユートの左隣にはクラウディア。右隣にはルーシーが座っている。


(何もしてないのに、悪党が滅びるって、そんなわけあるかよ。勇者も天然すぎるわ……)


 そう心の中で皮肉を言っているルーシー。

 その視線の先には正装をしたこの町の領主とその娘アルティが待っている姿があった。

 今日も歓迎会である。


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