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グールの饗宴

 前夜祭の会場で異変が起こった。

 美しい娘を抱きかかえ、シャンパンを飲んでいた幹部の一人が、突然、その娘に腕を噛まれたのだ。


「痛い、何をする!」


 慌てて振り払おうとしたが、歯は肉を裂き、血しぶきが飛び散る。激痛で叫ぶしかできない。


「おい、どうした!?」


 隣の男が声をかけたが、自分の隣の娘が大きな口を開け、自分の喉笛に噛みついてくるのが見えた。


「ぎゃあああああっ!」


 同時に同じ叫ぶ声があちらこちらで鳴り響く。


「一体、どうしたのだ。娘っ子の叫び声なら余興になるが、男の声では興ざめじゃ」


 そう言ってオーガヘッドの総長モルトはご機嫌な様子で、ホールを眺めている。

 人込みで異変に気が付いていないのだ。

 先ほどから上等なワインが進み、酔いが回っているのと両腕に絡んでいる美しい娘の胸肉があたり、久々にいい気分を味わっていることが夢心地にさせていた。

 左隣はリリアンという名で、この町の花屋の看板娘。

 右隣は領主の娘らしい。

 どちらも初々しく、そして美味しそうな肢体。

 モルトは両方ともベッドで奉仕させるつもりで気持ちが高ぶっていた。


(なんだ……この臭いは……)


 何だか生臭い臭いがする。だんだんきつく。耐えがたくなる。


「おい、バーモントを呼べ、せっかくの宴会が台無しになる」


 そう言ったが誰もモルトの話は聞いていない。

 騒ぎがどんどんと大きくなり、パニックへと変化していく。


「これはどうしたことだ!」


 男たちが血まみれで床に倒れている。

 それに覆いかぶさるようにドレスを着た黒い体の生き物。先ほどまで美しい娘だった生き物だ。


「ぐあああっ……」


 モルトは異様な音に気が付き、両隣にいた花屋の看板娘と領主の娘の顔を覗き込んだ。

 真っ黒な皮膚で粘液まみれの醜悪なモンスターがそこにいた。

 鋭い牙を見せつけて。モルトの首筋に噛みついてくるのが分かった。


「う、うああああああっ~」


 両方から首筋を噛まれてモルトは倒れる。

 ホールは大パニックである。


「グ、グールだ!」


 魔物が出現しない平和なサウザント公国でグールを見たものは少ない。

 しかし、手下の中には駆け出しの冒険者をしていた者もあり、その中の一人が洞窟でグールに遭遇したことがあった。

 正体が分かっても対処法は分からない。

 アンデッドであるから殴っても斬りつけても痛みでひるむことはない。

 のそのそと這い寄り、噛みつく。

 噛みつかれるとそこから様々な病気に感染する。厄介なモンスターである。

 剣でバラバラに切り刻むか、炎で焼く。

 または神官や僧侶が使う神の奇跡、ターンアンデッドで塵と変えるしかない。

 幹部を助けようとモンスターと戦う手下たちとそれに抵抗するグールたちで屋敷の中は大混乱である。


「ユート様、これでは収拾がつかないなのですわ」


 逃げ惑う人間や戦う人間、襲い掛かるグール。

 恐れもしないでクラウディアとユートは眺めている。


「そうですね。少なくともあの黒い化け物は屋敷の外に出してはいけません。う~ん。どうしましょうか。アリナ様なら簡単に解決できるのでしょうが」


 ユートが本気を出せば、グールもオーガヘッドの連中も全員始末できるが、そうする気はないようだ。


「それではクラウに任せるのですわ」


 クラウディアは呪文の詠唱を始める。

 クラウディアの邪魔をしようとするグールや手下はユートが樫の棒で軽く排除する。


「いでよ、炎の壁!」


 クラウディアが唱えたのは第4位階の魔法『炎壁』。

 文字通り炎の壁である。術者の魔力に比例してその大きさは変わる。

 強大な魔力をもつ魔導士のクラウディアであるから、幅1mの厚さの炎の壁は広大なオーガヘッド支部の屋敷をすっぽりと覆っていた。


「これで誰も外には出られないなの。まあ、やけど覚悟で突っ切れば出られぬことはないけど、火に弱いグールは無理ですわ」

「それはいいですね。で、中はどうします?」

「炎の渦で排除するのですわ」 


 そういうとクラウディアは追加魔法を唱える。

 同じく第5位階の魔法。炎の渦。移動していく炎の竜巻である。

 それが5つ。屋敷を燃やしながら、敷地内をくまなく掃除するようにランダムに動く。

 グールも手下も幹部もこれに巻き込まれては、誰も助からない。

 それでも頭から水を被って炎の壁に突っ込むものもいる。

 何人かは外に出られた。手足を折られて動けないバーモントも担架で運ばれ、決死の手下の活躍で炎の壁の外に脱出できた。

 しかし、勇気の代償は報われなかった。

 屋敷の周りをぐるりと領主の兵士が取り囲んでいたからだ。


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