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付き人無双

 バーモントは総長のモルトに視線を移す。

 白髭を蓄えた老人である。

 小柄であるが暗殺術の達人で。総長になるまでに多くのライバルを闇に葬ってきたとされる。


(くくく……爺め。来年のお前の席はそこじゃない。俺がいただく)


 そう瞳の奥底に野心を漲らせ、バーモントは杯を高く上げた。


「乾杯!」

「乾杯!」

「乾杯!」


 次々と声が続く。それぞれがグラスに口をつけたタイミングで、バーモントはパンパンと手を叩いた。

 ドレスに着替えさせた娘たちが会場に入ってくる。

全員、町から拉致してきた娘たちだ。

この日のためにバーモントが厳選し、選んできただけあって会場の支部長やその手下たちは歓声を上げた。


「バーモント、よくこれだけ美しい娘っ子を集めたのう」


 モルト総長は酒を飲みつつ、バーモントに近寄ってそう褒めた。

 傍には花屋のリリアンが腕を組んでしなだれている。

 自分の隣にいるのは領主の娘アルティ。これも右腕にべったりと寄り掛かっている。


(何かおかしい……。牢に入れて開き直ったかと思ったが……)


 ここにいる娘たちは無理やり連れて来た。

 ここにいるのは不本意であるはずである。

 それなのに自ら積極的に男たちに身を預けている。


(特にこのアルティは気の強い女。もっと抵抗すると思ったが……)


 何だか嫌な気がしたバーモントは、アルティを引きはがし、モルト総長の左腕に移動させた。

 モルト総長は両手に花状態でウハウハな気分で上機嫌だ。


「おい、バーモントよ。今宵はこの2人。わしに相手をさせてくれんかのう。2人とも初奴じゃ、気に入った」

「お好きなように……」


 本当はリリアンとアルティは自分がもらうつもりであったが、今はそんな気になれなかった。


「うああああっ……」

「こいつ、なんで倒れない!」


 酒と女で盛り上がるホールの外で異変が起きた。

 会場の支部長や幹部たちは談笑に忙しいので気が付いたものは少ないが、ただならぬ声が響いてくる。


「どうしたんだ?」


 バーモントは総長の元からそっと離れ、ホールから出た。

 そこにいた自分の手下に聞く。その手下は廊下からホールへと逃げて来たようだ。


「大変です、支部長……あのガキが」


 そこまで言って手下は腰が抜けたように床にうずくまった。

 バーモントは不愉快になり、その手下を蹴り上げる。


「ガキって、あの花屋の一件のガキか!」


 バーモントは花屋での出来事を思い出した。あの少年は普通ではなかった。

 麻酔針で気絶させたとはいえ、かなりの腕前であったことは間違いがない。


「所詮は道場武術をかじった程度だろう。実際に人を殺めたことのない品行方正な強さだ。恐れるにたらん」


 バーモントは廊下に出てやってくるユートに向かっていった。

 そして見たのは、後ろの廊下にバタバタと倒れている手下の体を踏み越えてくる2人の子供の姿だ。


「このくそガキ……一体、何をした!?」


 バーモントは腰の剣を抜いた。

 恐らく、この2人のどちらかが魔法が使えると思ったのだ。

 それはこれまで修羅場を幾度なく経験してきたバーモントの勘である。

 しかし、その経験も所詮は人間の常識の範囲を越えてはいなかった。

 バーモントに付き従っていた2人の手下がユートに向かって行ったが、手にした木の棒を2回振っただけで吹き飛ばした。

 2人とも空中に浮かび、縦ロールで10回転して地面に叩きつけられたのだ。

 一体、どうしてこうなるのか想像もつかない。


「貴様、絶対に殺す!」


 バーモントは剣を構えた。

 ここで騒ぎを大きくするわけにはいかない。

 会場にはオーガヘッドの幹部や総長がいる。

 この状況を見られたら、能力を疑われてしまう。

 オーガヘッドの本部の幹部へ抜擢される目論見が潰えてしまうだろう。


(ここで始末する……)

「うおおおおおおっ!」


 バーモントは気合を入れて、斬りかかる。

 大抵の敵はこの気合で体がすくむ。

 その瞬間を真っ二つにする。相当の使い手以外はかわすことはできない。

 ガキッ!

 鈍い音でバーモントの渾身の一撃はユートに止められた。

 バーモントの剣はブロードソード。

 業物の名品である。受け止めたユートの武器は樫の木の棒。

 バーモントは驚いた。ありえない光景である。


「ば、ばかな……そんな武器で受け止められるわけがないだろう!」


 バーモントはユートの背後にいる少女を見た。

 赤いポシェットをたすき掛けした変哲もない少女だ。

 しかし、目の前で繰り広げられている光景にたじろんでいる様子もない。

 それどころか不気味な笑みを浮かべている。


(な、なんだ、このプレッシャーは……人ではないものに見られている感覚……)


 バーモントの背筋に冷たいものが走る。

 しかし、そんな感触を激しく首を振って払しょくした。

 現実は受け入れる。何か仕掛けがあるだけだ。

 そんなことに動揺することもない。

 要は力対力である。

 目の前の少年と自分ではどう考えても負けるはずがない。


(木の棒で剣を受け止められるわけがない……魔法で強化されていると考えるのが正解)


 そう気を取り直して剣を引き、さらに斬りかかるがそれも受け止められる。


「ば、馬鹿な!」


 バーモントは両手で力いっぱい振り下ろしたのに、ユートは片手で軽く受け止めているのだ。

 傍から見ると滑稽な感じである。


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