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欲望の前夜祭

 地下水道のトンネルの中。出口を捜してルーシーは進んでいる。手にはクラウディアが赤いポシェットから出してくれた、油ランタンがある。

 ぼんやりとした明かりが地下通路を照らしている。

 30人の娘たちも助かる希望が出てきて足取りも軽くなっている。


「あのう……」


 震えながらも黙々と後をついてくる娘たちの中から、身なりのよい娘がルーシーに話しかけてきた。


「なんだ?」


 そうルーシーは足を止めて聞き返した。

 右手に持ったランタンの光がトンネルの壁に揺らいだ。


「わたくしはアルティ・エバーンズ。この町の領主の娘です」


 バーモントが拉致したと言う娘だ。

 美しい金髪が牢屋の埃にまみれて、くすんではいたが、目鼻顔立ちがはっきりした美しい娘だ。


「ああ、領主のお姫さんだね。もうすぐ地上に出られるよ。そうしたら、あんたにやってもらいたいことがあるんだ」


 ルーシーはそう言って道の先を指さした。

 そこには階段が見える。地上に続いている。

 これだけ歩けば、オーガヘッドの支部の屋敷からかなり離れている。

 安全に町の中へ出られるだろう。


「わたくしにできることって?」

「あんたの父親にお願いして、軍を派遣してもらうんだ。オーガヘッドの連中を壊滅するチャンスだぜ」

「……それは難しいです。それができるのなら、わたくしは拉致されなかったっですし、救出に軍が動いたはずです。今日から3日間。国中のオーガヘッドの幹部が精鋭を連れてあの屋敷に集まるのです。父の動かせる兵だけでは、支部の傭兵を倒すこともできません」


 そうアルティはあきらめたような顔をした。

 ここを逃れてもまた拉致されてしまうことは確実だ。


「それに残ったあの少年と少女……私たちが逃げたことでひどい目に合わないでしょうか?」


 そう心配そうにしている。


「ああ、大丈夫だよ。姫様も見たでしょ。あいつらには鍵は無効だし、モンスターは召喚するし、やることなすことでたらめなんだよ」

「はあ……」


 アルティも何となくそんな気がしていた。

 あんな恐ろしいモンスターを呼び出し、しまいには自分たちそっくりに作り変えていた。


「あと1時間もすれば決着がつくよ。あんたの父親がやることは逃げ延びた奴を一網打尽にするだけだよ」


 そうルーシーは自信たっぷりに話した。

 これからユートとクラウディアが大暴れする。この暴力組織オーガヘッドは間違いなく今晩滅びる。


「さて、そろそろ行きますか?」


 牢屋でユートがそうクラウディアに声をかける。

 娘に化けたグールたちが連れ去られて15分ほど経った。

 今から行けば、面白い現場を見ることができるだろう。


「そうですわ。なかなか面白いことになりそうですわ」


 くすくすと笑い始めるクラウディア。

 邪なことを考えている連中に、ものすごいトラウマを与える出来事が始まる。


(まあ、トラウマになってもすぐに死ぬから意味がないですけど)


 ユートは牢の扉を開ける。そして階段を上っていく。分厚い扉も『解錠』の魔法で何なんなく開けた。


「おい、なんで牢から!」


 そこまで叫んだ牢番の男を軽く右手で払っただけで、軽く排除した。

 クラウディアの放った『眠りの魔法』である。

 男は床に崩れ落ちて、そのまま眠りに落ちた。眠りの魔法は第2位階。クラウディアなら詠唱破棄で実行できる。


「ユート様、これを使うとよいですわ」


 クラウディアがたすきがけした赤いポシェットから、樫の棒を取り出した。ユートの標準装備である。


「そうだね。これで十分。でも、腕輪はⅢにしておこう。これなら少し強くなれるからね」


 Ⅲは超人モードだ。正確に言うとユート自身の強さは超人どころではない。

 腕輪の能力で力を抑え込んでいるのだが、ユートは腕輪の力によって力を得ていると思っている。


 ユートとクラウディアが地下牢から出た頃、ホールでは前夜祭と称する宴会が開かれていた。

 サウザント公国を裏で支配する暴力集団オーガヘッドの各都市に配置した支部長及び本部の幹部が勢ぞろいしている。

 毎年、各支部が持ち回りで行っている年次総会だ。

 ここでは各支部の1年間の稼ぎと本部への上納金を披露し、支部の格付けを行う。

 好成績を収めた支部長は本部の幹部への抜擢がなされる。

 本部の幹部どころか、将来はオーガヘッドの率いる総長を目指しているバーモントにとっては、重要な総会であった。


(この総会を成功させ、オーガヘッド内の自分の存在を大きく知らしめる。今年の成果やこの総会の手際の良さが評価されるだろう……)


 バーモントは自信があった。

 既に各支部の支部長及び総長が揃い、バーモントの歓待にみんな満足をしている。

 滑り出しは上々である。


(まずはこの夜の前夜祭。うまい酒を飲ませ、女を抱かせて骨抜きにする)


 勝負は明日の総会だ。

 ここでバーモントは本部の幹部への昇進を要請され、それを受ける手はずになっている。根回しは十分である。


「それではモルト総長をお迎えして、記念すべき今年のオーガヘッドの総会前夜祭を始める。僭越ながら、この第4支部長バーモントが祝杯のリードをさせていただく。


 ぎろりとバーモントは会場をにらみつける。

 ライバルの支部長たちは目をそらす。

 もはや、支部長連中でバーモントに対抗できる者はいない。


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