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潜入

「おい、ユート起きろよ……」

 

 オーガヘッド支部の屋敷の地下牢に入れられたルーシーは眠っているユートを揺り動かした。


「もう演技しなくていいから」


 ルーシーはいい加減分かっている。ユートが麻酔毒にかかったふりして、ここまで来たことを。

 攻撃力は魔法アイテムで制御しているが、防御力は素のままだ。よって、

 バーモントに殴られ、蹴られても傷一つついていない。

 ちなみにマヒ毒も全く効果がない。ユートはわざとマヒした振りをしてここへ潜入したのだ。

 こんな回りくどいことをしたのは、バーモントの本拠地に乗り込んで一網打尽にしようという目論見なのであろう。


「おはようございます、ルーシーさん。クラウ」

「おはようなのですわ、ユート様」


 ユートもユートだが、クラウディアもクラウディアだ。

 抵抗すればこの大魔導士の力をもってすれば、オーガヘッドごときの悪党は根絶やしにできるはずだが、ここまで1つの魔法も使ってない。

 この後に及んでもか弱い少女を装っている。本当は年齢300歳超えるのに。


「それにしても。お前、いくらなんでも傷一つもないっておかしいだろ」

 

 ルーシーはそう突っ込んだ。

 2m近くもある凶暴な大男が全力で蹴りまくったのだ。

 骨が数本折れていても不思議ではない。


「ルーシー、ハエが人間を殴ったところで、人間はくすぐったい程度なのですわ」


 ユートの代わりにクラウディアが答える。

 防御力Zということは、その程度の感覚なのだ。


「何を言っているのですか、ルーシーさん。あのおじさんの蹴りなんか、大したことないですよ。でも、僕はあのおじさんは許しませんよ。偉大なるアリナ様を侮辱した罪は、万死に値します」

(怒るとこ、そこかよ!)


 ルーシーはユートの感覚が分からない。

 花屋に対しての暴力的で理不尽なバーモントの行為よりも、自分が崇拝する勇者への侮蔑の言葉を問題視している。


(まあ、どっちでもあの胸糞悪いおっさんの運命は決まったようなもんだけどな)


 ルーシーは改めて辺りを見回す。

 地下牢はルーシーたちが閉じ込められている場所を合わせて全部で4つ。それぞれに町から拉致された女が閉じ込められている。


 花屋のリリアンもそうだし、この町の領主の娘アルティも向かいの牢に入れられている。


 今朝、屋敷が襲撃されてここまで連れてこられたのだ。

 リリアンもアルティも恐怖で顔面が蒼白。自分たちの運命が分かるだけに、絶望で打ちのめされている。そのほかの娘たちもすすり泣いている。


「どの時代も女は男に虐げられる。まったく不愉快ですわ。オーガヘッドという輩、噂には聞いていたのですが、人間とは思えぬ悪の所業。全く許せないのですわ」


 クラウディアそう腕組をしてプンプンと怒っている。

 300年も吸血鬼の呪いで生きていたから、オーガヘッドのことも知っているようだ。


「ふん。300年も生きてきて知らなかったのか。人間は時には魔物よりも残酷になるんだよ」


 そうルーシーは答えた。

 その答えをにんまりと聞いているクラウディア。300年の間、吸血鬼退治にやってきた人間の冒険者たちを知っているから、ルーシーの言っていることは十分に分かっているようだ。

 この意地悪い元吸血鬼。今は古の大魔導士の少女は、悪人に対して、とんでもない罰をたくらんでいそうだ。


「そうですね。ここにいる女の人たちを助けて、この屋敷にいる悪人どもを退治しましょう。アリナ様も僕たちの帰りを待っておられることでしょうし」


 そう軽くユートは答えた。相変わらず、空気を読むことをしない少年だ。

 この悪の巣窟。この国の人々が恐れおののくオーガヘッドの懐にいるのに軽くピクニックに来たみたいな言い方なのだ。

 勇者アリナとその一行は3つ首竜退治で盛大な祝賀パーティの連日招かれ、隣の国で足止めを受けている。

 ユートたちは次に通るこの国の内情を調べに立ち寄っただけだから、さっさと用事を済まして帰りたいというのが本音であろう。

 但し、尊敬し敬愛する勇者アリナのことを侮辱されて、ユートは非常に怒っていた。侮辱したバーモントの運命は決まっていそうだ。


「まずはこの牢屋から出ましょう。じめじめして気持ち悪いですし」


 そう言うとユートは扉に付けられた大きな南京錠に振れる。

 それだけでパチンと鍵が開いた。


「おいおい、無詠唱で『解錠』の魔法かよ!」


 ルーシーはそう言ったが、ユートは「牢番の人が鍵を閉め忘れていただけでしょ」とか言っている。


(そんなわけね~ってえの!)

「ついでに女の人たちも助けましょう。攫われてきたみたいですし」


 3つの牢屋に分かれて入れられていた女性たちを開放する。


「牢から出たのはいいけれど、この地下エリアからどうやって出るのだ?」


 そうルーシーは一応聞いてみた。

 存在自体がチートなユートとクラウディアのことだ。

 おそらく、片手以上の方法があるに違いない。


「そうですわね。この壁の向こうは下水道のトンネルがありそうですわ」


 クラウディアが壁に耳を当ててそう言った。

 ルーシーも耳を当てて見たが、何も聞こえない。


(どんなけ、耳がいいんだよ!)


 元吸血鬼、聴力も尋常じゃない。


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