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バーモント

 バーモントは、花が飾られた広い店内に3人の子供がいることに気が付いた。

 先客としてバーモントたちよりも早く店にいたようだ。


「なんだ、ガキ3匹か。おい、今は取り込み中だ。この店の花は全部買い占めた、売り切れだ」


 そうバーモントは怒鳴った。

 子どもならこれでビビって逃げるはずだ。

 勇ましい声を上げた少年は見たところ13,4歳。

 その後ろに少し年上の少女と12,3歳の少女である。

 2人の少女とも美少女であるが、まだ子供。さすがの鬼畜のバーモントも食指は動かない。


「売り切れなんてダメですよ。先に僕たちが買っていますから」


 少年は少しもビビらない。しかもこの修羅場に空気を読まない言動。

 バーモントはもう一度、その少年の頭から足先までじっくり観察する。


(身なりはいい。だが、貴族の令息や令嬢というわけではなさそうだ)


 貴族の子息なら付き人が一緒のはずである。せいぜい、裕福な商人か役人の子供であろう。


「ガキはさっさと帰ってへそ噛んで寝てろ!」


 そうバーモントは鬼の形相で怒鳴りつけた。

 子どもなどに構っていられるかという態度である。


(はあ……)


 ルーシーはため息をついた。

 ルーシーの両目は見る相手のステータスを数値化して見ることができる。

 隣で面白そうににやにやしている元吸血鬼。

 300年生きた大魔導士の少女クラウディアからもらった魔法のアイテム効果だ。


バーモント・グロー ギャング ランクC 42歳 攻撃力B 防御力C 体力B 俊敏力C 魔法力D 器用さD 耐性力B 知力C 運E カリスマC

魔法 石礫


(隣にいる手下の3倍は強いけれど……勇者の敵じゃないわ。ましてや、ユートやクラウディアの前じゃ虫けら同然……)


 一般人がそれぞれの職業で一人前だとランクD。そこからランクCにも上がらないうちに寿命がなくなる。それが普通である。

 このならず者のおっさんは、そういった意味では強い方であるが、あくまでも一般人の中での強さであり、勇者アリナやもうなんて表現していいか分からないユートとは別次元の低レベルである。


「おい、ガキを排除しろ!」


 バーモントはそう言うと手下にユートを痛めつけるように命じた。


「おら!」

 手下は3人。容赦なくユートに殴りかかる。


「やめてくださいよ!」


 ユートは左手で最初のパンチをはねのけた。

 手下Aは大きくバランスを崩す。すかさず手下Bのパンチが来るがこれは右手の甲で軽く弾く。


「このクソガキ!」


 手下Cはユートの頭を狙っての回し蹴り。これはまともに食らったら、脳震盪どころではない。

 が……。ユートはわざと頭で受けた。

 がツンと鈍い音がする。ユートは微動だにしない。蹴った手下Cの右足が鈍い音を出した。


「ぐぎゃああっ~、痛い、痛い……」


 完全に骨が折れている。花屋の床を転げまわる手下C。


「このガキ、なんて固い頭をしてやがる!」


 頭が固いせいではないとルーシーは思った。

 ユートの防御力は無限大の数値である。剣で斬ったとしても恐らく剣の方が折れるに違いない。

 なまくらの剣ではそうなる。当然、普通の人間が頭に回し蹴りをすれば足の骨が砕ける。

 鉄の柱に全開で回し蹴りしたと同じことである。


「このガキ!」

「くたばれや!」


 手下Aと手下Bがさらに殴り掛かる。2人とも必死だ。

 もし、ここで少年に負けたらボスのバーモントにどんなことをされるかと思うと恐怖で体がいつもより数倍も動く。

 今のユートの攻撃力は右の腕輪の魔力制御でレベルⅠとなっている。喧嘩自慢レベルである。それでも手下程度なら軽く倒せる。


 バン、バン、バン……。


 ユートの拳が3発唸った。

 1発で手下Aは倒れ、顔と腹に1発受けた手下Cは店の外まで吹っ飛んだ。


「ガキ……武術でも習っているようだな。しかし、我がオーガヘッドに逆らった罪は許し難し。いかに子供でもその罪は償ってもらおう」


 手下3人がユートにのされて、バーモントは不愉快になった。

 メンツ丸つぶれである。後で手下3人の処罰をすることにして、今は目の前の少年を倒すことに専念する。


「お前の保護者は誰だ?」


 そう静かにバーモントは聞いた。

 この不愉快さは目の前の少年を倒す以上のことをしないと収まらない。保護者、家族など全員を殺すしか収まらない。


「保護者ですか……お仕えしているのは勇者アリナ様ですが」


 ユートは平然と答える。

 アリナの名前を出せば、その武勇を聞いて普通の町のならず者は大抵逃げ出す。

 しかし、このオーガヘッドのバーモントは、アリナを侮辱する。

 魔族も出ず、人間の脅威といったら自分たちオーガヘッドしかない平穏なサウザント公国である。勇者に対しての関心も低かった。


「勇者だと……アリナ……ああ、聞いたことあるぜ。勇者とか抜かしたしょんべん臭い小娘だろうが。お前もその主人とかいう勇者も殺してやるぜ」

「今、なんて言いましたか?」

「しょんべん臭い勇者など、殺してやると言ったのさ!」

「アリナ様を殺すというのですか?」

「ああ、そうだ。その前に散々弄んでからな。ブスじゃないかぎりな。ああ、勇者とか言う時点で筋肉だるまのブス女だろうがな。その場合は遠慮しておく」

「アリナ様を弄ぶ……アリナ様がブスですと……」


 ユートの声のトーンが低くなる。視線は地面にある。

 ルーシーは心の中で(ヤバい)と叫んだ。ユートの前で勇者アリナの悪口を言った奴はとんでもない目に合っている。


「その前に、ガキのお前はここで死んでろ!」


 そうバーモントは叫んで突進する。身長2mもある大男である。ぶつかれば小柄なユートの体は吹っ飛ぶだろう。


「な!」


 バーモントはぶつかった瞬間に違和感を覚えた。

 大きな岩に当たったような感触。小柄な少年の体がびくともしない。


(そりゃそうだろ。攻撃力は一般人並みに制御しているけど、防御力は無限大だぞ。そんな突進で1ミリも下がるわけない。巨獣の突進でもたぶん同じだし)


 そうルーシーは戦いの様子を見ている。傍らにいるクラウディアはそんなユートの姿をハートの目で追っている。


ドカッ、バキ、ドスン……。


 腹に一発、分厚い胸に一発、顎に1発とユートのパンチが炸裂する。


「アリナ様への侮辱、許しません!」

「くくく……。いいパンチだぜ、小僧。しかし、俺には効かないな」


 そうバーモントは不敵な笑いを浮かべた。今のユートは魔法の腕輪で力が制御されている。

 一般人の強いレベルである。もし、制御がなかったら吹き飛ぶどころか、体が分子レベルまで粉々になっていただろう。


「あれ、全然、効果ありませんね?」


 ユートはユートで間抜けなことを言っている。

 バーモントは気持ち悪いと本能で感じた。この子どもは侮ってはいけないという本能だ。


「おい!」


 バーモントは目で合図した。不意に後ろから小さなものが飛んでくる。


「うっ」


 それがユートの首に刺さる。刺さったとたん、ユートは前に倒れた。

 後ろに隠れていた暗殺者がマヒ毒のついた毒針を吹き矢で打ち込んだのだ。

 これはバーモントの常とう手段。

 どんな強い冒険者や強力な魔法を使う術士もみんなこの策で倒してきた。

 マヒ毒で体の自由を奪えば、どんなに強い奴でも倒せる。


「このクソガキが!」


 倒れたユートをガシガシと踏みつける。

 ここで殺してもいいが、それでは腹の虫が収まらない。

 あとで家族や雇い主だという勇者に落とし前をつけさせてやるために、バーモントは部下に命じてユートを縛り上げて荷馬車へ放り込んだ。

 仲間のクラウディアとルーシーも同様だ。

 このメスガキ2人はビビったのか、大人しく縄をかけられて荷馬車へと乗せられた。

 バーモントは花屋のリリアンも拉致して意気揚々と本部の屋敷へと戻った。


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