復活の勇者
「アリナ様。回復薬エリクサーを手に入れました」
城に帰るとユートはそうアリナに報告をした。
消耗しすぎてベッドから起き上がれないアリナは苦しい息遣いをしつつ、ユートから詳しい事情を聞く。
「……はあ、はあ……なるほど……。古城に住む吸血鬼からエリクサーを譲ってもらったと……」
「はい。どうか、飲んでください」
ユートはアリナにエリクサーを飲ませる。ユートのことを信頼しているアリナは大人しくエリクサーを飲んだ。
飲むと体から光が現れ、アリナの体を包み込む。10秒ほどで光は消えたが、アリナの体は完全に回復した。
「す、すごい……体が楽になったというか、元気いっぱいよ。すごい薬ね」
「はい。吸血鬼さんは古の大魔法使いで薬師でもあるのです」
「吸血鬼って、よくあなたは無事でいられたわね。普通なら血を吸われているわ」
「そこは勇者アリナ様の名を出したら、喜んで薬を分けてくださいました」
「なるほど……。わたしも有名になったようですわ。古の吸血鬼もわたしに協力するとは……ほーほほほっ……」
気を良くするアリナ。
そしてユートの後ろにルーシーと初めて見る少女に気が付いた。
「ユート、その子は?」
「はい。古の吸血鬼さんです」
「は?」
いぶかしげに問い返すアリナ。
「アリナ様に仕えたいと言うので連れてきました」
そうユートは答えた。慌ててルーシーが言い直す。
「実は吸血鬼のところへ行く途中で救出したんだ。名前は……」
「クラウディアですわ。クラウディア・マナウス、年は12歳ですわ」
そう言ってクラウディアは頭を下げた。
年端もいかない子供を装うのが上手いとルーシーは思った。
(この女、かまととぶりやがって。本当は300歳超えているだろ。そして呪いをかけられた当時はそれなりの大人年齢だったはず)
ルーシーは、クラウディアをにらみつけたが、知らぬふりをするクラウディア。
(ふふふ……。ユート様に近づくため、ここは勇者に媚びておくことは必要なのですわ)
クラウディアは、さらさらと口から出まかせストーリーを語り出す。
「お父さんもお母さんも魔物に殺されてしまい、一人ぼっちになってしまったのです。わたしはまだ幼いので、一人では生きていけないのですわ。その慈悲は聖母様と同じく広く気高いと噂される勇者アリナ様にお仕えしたいと思い、一緒についてまいりましたのですわ」
そう言ってスカートを軽くつまんで礼をした。
貴族階級の令嬢が行う礼である。上品な振る舞いにアリナも目を見張った。
「そう、可哀そうに。クラウディアちゃんはかなりいい家のお嬢様だったようね」
そうアリナは憐れんで自分の従者になることを承諾した。
黒いゴスロリファッションに身を包んだクラウディアはどこをどう見ても怪しい雰囲気はなく、身寄りをなくした貴族令嬢という風貌だったからだ。
「それではアリナ様。今晩の3つ首竜退治の準備に取りかかりましょう」
ユートはそう言ってアリナの戦闘準備をすることにした。
「そうね。あの3つ首竜も今日までの命。わたしが直々にとどめをさしてやるわ!」
アリナはそう言って胸を張った。
しかし、仲間の3人はまだ寝込んでいる。回復したのはアリナだけ。
攻撃力は前回よりもかなり落ちる。そして今日は晴れ間。
夜になれば3つ首竜は復活し、この王都へとたどり着くだろう。
今晩仕留めないと、この王国は滅びることは間違いがない。
幸いなことに空は雲が多く、満月の月は途切れ途切れに照らされる。
アリナとしては攻撃魔法を連発して3つ首竜のダメージを蓄積し、ある程度のところで、必殺魔法『炎王の裁き』でとどめをさす作戦を取るしかない。
すぐに王国軍と打ち合わせに入り、夜までに3つ首竜のところへと向かったのであった。