表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/80

策略

敵ながら小者感が漂って、憎めない奴。


「ロキ様、今、なんとおっしゃいましたか」

「くどい……。吾輩は打って出る!」


 語気を荒くして魔獣は叫んだ。

 ロキに仕える雪霊の魔女は、畏怖する主人に射すくめられるような視線を向けられ、黙り込むしかなかった。


「ロキ様、どうか我ら愚鈍な手下にその真意をお聞かせ願います」 


 雪霊の魔女の様子を見た氷の騎士が主人の真意を聞く。

 これにロキも自分の片腕として信頼している忠実な部下たちに納得させるべきだと思い直したようであった。


「よいか……。現在の勇者の力は吾輩よりも下だと思われる。しかし、仲間の力を合わせれば吾輩を超えるかもしれない」


 ロキのこの言葉は聞きようによっては弱気のように思える。

 しかし、部下は主人の慎重な思考の持ち主であることを知っている。

 それは好ましいものであった。


「だからこそ、このゾモラの洞窟には、ロキ様を守るために多数の魔物が放されております。不肖、我ら親衛隊もロキ様をお守りします」

「そうです、ロキ様。今の陣容なら負けるはずがありません」


 そう雪霊の魔女と氷の騎士が言葉をはさむが、ロキは首をゆっくりと振った。


「例え、吾輩らが優位でも勇者は成長する。この洞窟の魔物を倒し、経験を積むと奴らは強くなる。それは吾輩をも越えてしまうかもしれぬ」

「……それでもロキ様。魔物が勇者を弱らせ、疲労のピークに達した時に我らが襲い掛かれば、きっと倒せることでしょう」

「吾輩も最初はそう考えた……。しかし、それは確実な方法ではない」


 そうロキは断言する。

 そしてこの洞窟から出て戦う意味を説明した。


「吾輩は聞いたことがある。勇者はこの洞窟を一挙に攻略することはない。奴らは洞窟を探索しつつ、適当なところで必ず地上に戻る。戻って待機してある基地で休み、魔力を回復させた後に、また洞窟へと進むのだ」

「確かに、これまでの勇者どもの戦いはそのように進められていると聞きますが」

「吾輩はここを突く」


 ロキは自分の作戦の肝に触れた。

 勇者たちが洞窟攻略のために築く、攻略拠点を襲い、これを破壊すれば洞窟攻略ができなくなるというわけだ。


「す、すばらしいです、ロキ様」

「ロキ様、天才です。さすがは大魔王猊下の知将と称えられるお方です」


 氷の騎士と雪霊の魔女が絶賛する。

 その誉め言葉に気を良くするロキ。


「拠点を失えば、勇者は回復することができず、疲労がたまってやがて吾輩らの力に圧倒されるに違いない。補給路を断つと言うのは戦略的にも有効な手段である」

「さすがロキ様」


 褒める雪霊の魔女。


「天才ウルフ」


 称える氷の騎士。


「勇猛ウルフ」


 追従する氷の操り人形その1。


「無敵ウルフ」


 少々褒めすぎる氷の操り人形その2。


「ダンディウルフ」


 脱線する氷の操り人形その2。


「策略家ウルフ」


 心にも思ってないことを言う氷の操り人形その3


「かっこいいウルフ」


 無難に合わせた氷の操り人形その4


 その他の氷の操り人形共がぎこちなく機械のような音でロキを称える。

 それでも氷の騎士はすぐに冷静になり、自分がこの魔獣の参謀であることを忘れなかった。


「ロキ様、ただ一つ心配があるのですが……」

「なんだ?」

「勇者も攻略基地に守りの人間を置くかもしれません。それなりに強い人間が守っているとなると、我らも無傷ではいられないかもしれません」


(くくく……)


 ロキはそう歯を剥きだして笑った。

 そしてその心配はないと断言した。

 なぜなら、これまでの戦いの情報を統合すると、勇者パーティは4人で冒険している。

 洞窟や塔の探索に進むときは必ず4人で行く。

 その時、外で待機している攻略基地となる馬車はまだ少年の付き人が1人で管理しているのだ。


「なるほど。それなら攻略基地を蹂躙するのは赤子の手をひねるよりも楽ですね。それでは、ここはロキ様が出撃する必要もありません。私が一人で行ってきましょう」


 そう氷の騎士が申し出たが、魔獣ロキは首を横に振った。

 その意見は愚の骨頂であると魔獣は考えていたのだ。


「戦う時は全戦力で戦う。それが必勝の策である。今回は魔界へのカギである余を討伐するために勇者も慎重になるかもしれない。攻略ベースの守りに仲間の1人を留め置くかもしれない。そうなると貴様一人では返り討ちに合うかもしれないだろう」


 勇者と共に冒険している戦士、魔法使い、僧侶はそれぞれが人間界で最強と言われる能力を持っている。

 自分ならともかく、部下たちでは太刀打ちできないだろうと魔獣は考えていた。

 こういう考えができるところが、ただの獣でない証拠である。

 ロキは巨大な銀狼で知恵もあり、大魔王に仕える次期7魔王の一人になると噂されているのだ。これくらいは当然である。


「さ、さすが、ロキ様。その思慮深さは魔界随一でございます」


 雪霊の魔女はそう主人を持ち上げる。

 魔獣はその追従にさらに気をよくしたのか、のそりと立ち上がると声高らかに命令をした。


「よし、吾輩とその親衛隊は、勇者の攻略基地たる馬車を破壊する。者ども、我に続け」


 ゾモラの洞窟を守る中ボスの銀狼のロキは、こうして秘密の抜け道を使って地上に出た。目指すは勇者一行の補給拠点たる馬車クエストベースである。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ