魔法のアイテム
「ユート様。出会えた記念にプレゼントを差し上げるのですわ」
そういうとクラウディアはごそごそと宝の山から小さな箱を2つ見つけ出した。
この山の中からよく見つけられたものだとルーシーは感心する。
しかもこの女。鑑定知識もある。
「はい、これですわ」
箱を開けると2つとも腕輪であった。
(わっ、おも……。最初のプレゼントがアクセサリーかよ)
ルーシーは重い奴だとクラウディアを見たが、本人は全く気にしていない。
腕輪自体1つは金、もう1つは銀製のように見えた。
(売れば金の方は高値で売れそうだ。装飾の見事さからすれば金貨100枚は固いぞ。銀の方はせいぜい金貨1枚だろうけど)
そうルーシーは値踏みした。銀の腕輪は金属の価値からすればそんなにないが、美術品としての価値が高そうだ。
しかし、この腕輪は美術品としての価値もあるが、その秘められた能力の方に価値があった。
「金の方は制御の魔法がかかっています。回せるようになっていますでしょ」
そうクラウディアが説明する。
確かによく見ると表面が外側と内側に分かれ、内側がカチカチと回せる。
「回すと数字のあるところで止まるのですわ」
確かに「Ⅰ」「Ⅱ」「Ⅲ」「∞」のマークがある。
「これは攻撃力を調整する魔法具ですわ。Ⅰにすると腕っぷしの強い喧嘩自慢の大人レベルの強さ。Ⅱだとよく訓練された兵士や熟練冒険者レベルの強さ。Ⅲは超人的な強さ。そして∞はリミット解除となるのですわ。普段はⅠにしておくとよいと思うのですわ」
そうクラウは説明した。これは今のユートにはとても役立つアイテムだとルーシーは思った。
ユートが仮に何気なしに人をぶん殴ったら、間違いなく殴られた奴は死んでしまうからだ。
「へええ……これはいいアイテムですね。弱い僕でもⅠにすれば大人並みの強さになれるということですね」
さすがユート。力が倍増するアイテムだと勘違いしている。
これは制御するアイテムだから、仮に弱い奴が付けても強くはならない。
とんでもなく強いユートだからこそ意味のあるマジックアイテムなのだ。
「そしてこっちの銀の腕輪は変身ができるアイテムなのですわ」
そう言ってクラウはユートの左手首に着けたブレスレットをカチッと回す。
これも右手首の金の腕輪と同じ構造である。
「おっ!」
一瞬でユートの服装が変わった。
着ぐるみである。真っ白の毛でもこもこ。
頭からずっぽりと被るお面はウサギである。
「これを被るとウサギの着ぐるみを着て、姿を偽ることができるのですわ」
「へえ、かわいいですね」
ユートは広間の姿見で自分の姿を見る。
この姿ならアリナを陰でサポートできる。
冒険中はクエストベースで待機を命じられているので、ユートはついて行くことができない。
この姿なら自分だとばれないだろう。
(これじゃ、無敵のウサギ仮面の完成だろうが。これから人助けする謎のウサギ仮面の噂が国中に広がるでしょ!)
ルーシーはそう心の中で突っ込んだ。
しかし、クラウがユートにこんなアイテムを見繕ったのはなぜかと考えた。
(この女、だてに300年生きちゃいないな……。ユートの立場と性格を完全に把握している……)
ユートが無自覚最強だと見抜いたのであろう。
なぜ、そうなっているのかということが疑問に感じるのが普通だが、それはスルーしている。
(だけど……何か引っかかるんだよな)
「はい、あなたにもこれをあげるのですわ」
不意にクラウがルーシーに青い水晶玉を放り投げて来た。慌てて受け止めるルーシー。
まるで引き込まれるような不気味な青い水晶玉だ。
(なんだ……目が離せない……うっ)
両方の瞳が焼けるような痛みを感じてルーシーは思わず目を閉じた。
(熱い……なんなの……なんか焼き付けられるような痛さ……)
「それはステータス・アイを刻む青水晶なのですわ。その力であなたの目は敵のステータスを見ることができるですわ」
「なんですって!」
ルーシーは目を開いた。
目の前にクラウディアがいる。
クラウディア・マナウス ?歳 大魔導士&薬師 ランクSS
攻撃力S 防御力SS 体力B 俊敏力A 魔法力SS 器用さA 耐性力B 知力SS 運A カリスマA
300年前の大魔導士。****** ******
なんとステータスが見える。
能力のランクと職業、名前などが羅列されている。
「これはすごいぜ……。前に手に入れたステータスが分かる眼鏡と同じじゃないか……」
ランクSSというのも人間をはるかに超える数字である。
ただ、ルーシーは違和感を覚えていた。このランク付けの信ぴょう性をだ。
そもそも12歳と自称しているのにステータスは『?』と表示されている。
年齢詐称疑惑が濃くなった。
(やはり、年齢は偽りか……いや……このアイテムすら引っかけということもありえる)
ステータス全部が分からないと見越してとはいえ、一部でも自分の秘密がわかってしまう危険を冒して、ルーシーにこのアイテムを差し出したのはおかしなことだ。
(何か裏があるのかも……)
クラウディアはルーシーの方を見てにやにやしている。
やっぱり、この女は何か企んでいるとルーシーは思った。
「ルーシーさん、僕の能力も見えるのですか?」
ユートがそう言ったので、ルーシーはユートを見る。
かつて、同じくステータスが見える魔法の眼鏡はユートを見て壊れた。
(私の目が爆発するなんてことはないよな……)
どきどきしながら、ルーシーはユートのステータスを確認する。
ユート 勇者の付き人 ランクZ 13歳
攻撃力Z 防御力Z 体力Z 俊敏力Z 魔法力Z 器用さZ 耐性力Z 知力Z 運Z カリスマZ
魔法の眼鏡はユートを見た途端に壊れた。ルーシーの目もどうにかなってしまうかと思ったが、それはなかった。但し、全く意味のない画面だ。
「そもそもランクZってなんだよ!?」
「さあ……。先の大魔王を倒した勇者はSSSでしたわ。Zなんて知らないですわ。その魔法の目は
あなたの成長によって性能が上がりますから、そのうち、ユート様のことが分かるのではなないのですか」
「……そういうことにしておくよ。なんだか、知ってしまったら恐ろしいことになりそうな気がする」
「あなたにそれを渡したのはあくまでもユート様のため。敵の能力を調べてユート様のサポートをするのですわ」
そうクラウディアは言った。
どうやら彼女はユートのためにルーシーにこのマジック効果のあるアイテムを渡したようだ。
確かに敵の能力を看破できれば、戦いは有利になる。
(というか、相手の力量が分かれば、ユートを止めることができる)
「それじゃあ、エリクサーも手に入ったことだし、急いで王都へ戻ってアリナ様に差し上げましょう」
そう言ってユートとルーシー。そして新たに仲間になったクラウディアは王都ロッカへ戻った。
もちろん、ユートのとんでもないダッシュで、ルーシーの顔の皮がたるんたるんになてしまったことは言ううまでもない。




