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聖水の力

「どうしましょう、ルーシーさん」

「銀製の武器がいいと聞くぞ」

「持っていませんよ」

「銀がなければ、何か神聖なものでも……ああ、お前、聖水を持って来ただろう」


 ルーシーは思い出した。

 ユートが教会で神父様から清められた水を水筒に詰めていたことをだ。

 吸血鬼には、聖水が効果あると聞いて、ここへ来る前に手に入れてきたのだ。


「ああ、これですね」


 ユートはそういうと腰に付けた竹筒を手に取った。差し込んで栓代わりにしていた木片を取る。


「ぐあああああああっ……」


 2匹の狼男は大きな口を開けて威嚇する。

 この先の主人に会わせないように立ちはだかるつもりらしい。


「じゃあ、これをかけるから、逃げてください」


 ユートは竹筒を振る。

 中から聖水が飛び出して、四散する。

 狼男にもそれはかかる。


「ぐあああああああっ~」


 かかった瞬間に煙が立ち上る。聖水に焼かれて狼男たちは階段から転げ落ちた。床をごろごろと転がっている。


「聖水の効果すげえ!」


 思わずルーシーは叫んだ。ここまで効果があるとは想像していなかった。


「こんなに効果が高いのだったら、狼人間ワーウルフなんて怖くないよな」


 ルーシーはこの情報はギルドに売れるとほくそ笑んだ。ワーウルフ退治をする際に貴重な情報だ。


(いや、待て待て!)


 ルーシーは気づいた。

 そして聖水をもらったときのことを思い出した。


「ユート、ちょっと確認するけど」

「なんですか。ルーシーさん」

「お前、聖水は小さなガラス瓶に入れてもらったんじゃないのか?」


 ユートは考える。そして開いた右手に握った左手をポンと打ち付けた。


「ああ、そうでした!」


 そもそも教会で清められた聖水を竹筒なんかに入れない。

 腰に付けたのは別の聖水を入れたものだ。


「間違って貴重な聖水の方をかけてしまいました」

「別の聖水ってなんだよ。教会以外で手に入れたのかよ?」

「ええ……そうですけど……」


 ユートが説明しようと口を開いたが、今はそんなことを聞いている時間はないとルーシーは思った。

 ここは敵地の真ん中だ。早く移動しないとまた襲われる。


(いずれにしても聖水は、狼人間ワーウルフたちは転げまわるくらいの効果がある。教会の聖水には強力な祓い効果があるのだろう)


 竹筒の中身は謎であるが、聖水そのものがこの城のアンデッドには効果大なのは間違いがない。

 あの強力な狼人間ワーウルフも転げまわるどころか、ダメージ大で気を失ってしまっている。


(こいつの力だ。絶対にそうだ。こいつが念を込めて清められた水とか……そうなら。こいつ神様よりすげえじゃん!)

「今度は教会からいただいた方の聖水を使いましょう。犬は水が苦手ですから」

「そんなわけねえよ。それに犬じゃなくて狼人間だし!」

「似たようなものでしょ。苦しんで気絶したのは事実ですし」


 全く理由が分からないが、水をかけられた狼人間が戦闘不能になった事実は変えられない。


「じゃあ、僕にはこっちの聖水があるので、教会からいただいた聖水はルーシーさんが持っていてください」


 ユートはそう言って教会から授けられた聖水が入った小さなガラス瓶をルーシーに手渡した。吸血鬼に効果があるかもしれないアイテムだ。

2階から奥へ続く廊下の先には、この城のボスがいる。古の吸血鬼だ。


「じゃあ、行きますよ。吸血鬼さんがここで待っていますから」


 そう言うとユートは広間へ続く大きな扉を押す。何の躊躇もない。

 この古城に住むボスキャラがいるかもしれないのにだ。


「ははははっ……ここへやって来た人間は10年ぶりですわ」


 広間の奥。大きな椅子から立ち上がっている小さな影。

 ユートとルーシーが進むと小さな老婆が指をプルプルさせながら、こちらへ突き出していた。

 どうやらこの城に住むと言う吸血鬼らしい。

 見た目は100歳を越えるばあさんである。

 顔にはいくつものしわがあり、黒いシミがいくつもある。

 そして腰が曲がっている。150cmあるかないかの身長で腰が曲がっているから余計小さく見える。

 だが、一歩一歩近づくに連れて、ルーシーは足が震えてついには進めなくなった。ピンとした空気と老婆から発せられる得体のしれない空気が、ルーシーの背中に冷たい感覚を走らせるのだ。


(やばい、やばいよ、こいつは!)


 老婆であるが、弱弱しく思えない。


「なんだ、子供が2人だけじゃない。おかしいですわ。外にはブロンズゴーレム、城の中は骸骨戦士の軍団がいたはず、1階のワーウルフはなにをしていたのですわ?」


 そう老婆は首を傾げている。老婆らしくないしゃべり方も不気味である。そして頭も配置したガーディアンを覚えているところをみるとボケてはいないようだ。

 そして老婆はにやりと笑った。狡猾な笑みだ。


「ぐあああああっ……」


 正面奥のボスキャラに集中してしまい、周りの状況に目を配ばれなかった。

 ルーシーは気配を感じて左を見る。全身に不気味な光をまとわりつかせた人。 

 目は閉じて口からは舌が飛び出ている。明らかに死んでいる。

 死んでいるのに歩いてルーシーに掴みかかろうとしているのだ。

 このモンスターはゾンビではない。これはルーシーも知っている。

 ワイトである。

 人間の死体に邪悪なものが憑りつき、それが体を動かしている。

 動きは緩慢であるが、もともと死んでいるから倒すには、細切れに切り刻むか、魔法で燃やすか破壊する。

 神官によるターンアンデッドの奇跡が必要であった。


(もしくは……)


 ルーシーは先ほどユートからもらった聖水の瓶のふたを開けた。


「これでも喰らえ!」


 動きの緩慢なワイトに聖水がかかる。


「ぐあああああああああっ……」


 遺体は恐ろしい叫び声を上げて、そのまま床に倒れて動かなくなった。


(おお……この聖水も効果あるじゃん!)


 ここへ来て初めてモンスターを撃退したルーシー。ちょっとうれしくなった。


「すごいですね、ルーシーさん」

「へ、へへん……。武器さえあればこんなもんさ」


 ついルーシーは今の状況を忘れて自慢してしまった。そして思い出した。

 広間の奥に座っているボスキャラの存在を。その目は怒りに満ちている。


(し、しまった~っ)


 ルーシーは急に怖くなる。

 先ほどのワイトはどう考えてもあのボスキャラの家来。それを聖水でやっつけたのだ。老吸血鬼が自分に恨みをもってもおかしくない。


(や、やばい。殺される~)


 ルーシーは急に足がぶるぶる震えてその場から動けなくなる。


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