ガーディアン
やがて古城が見えてきた。
古城はぐるりと幅20mほどの堀に囲まれている。
濁った水で満たされ、水草も多い。深さはかなりありそうで、底には泥もかなり溜まっていそうだ。
城に入るには正面の跳ね橋しかなく、今は引き上げられているので渡ることができない。
そしてその跳ね橋が設置されるところの両側に2体の青銅の像が立っている。
鎧を付けた兵士の像だ。高さは10mもある巨大な像だ。大きな刀を手に持っている。
「ごめんくださーい」
ユートは大きな声でそう叫んだ。
ルーシーはビクッと首をすくめた。
そう言うとは予想していたが、古城の塔に声がこだましていくのを見るとなんだか恐ろしくなる。
「あれ、聞こえないのかな。ごめんくださーい。跳ね橋を下ろしてくださいませんか?」
2回目の叫び声。さすがにルーシーはユートのシャツを引っ張った。
「ユート、この城は吸血鬼の城。あたいたちは奴から魔法の薬を奪いに来たんだろう。そんなに堂々と伝える必要があるかよ」
「いや、吸血鬼さんと言っても、ちゃんと話せばくれるかもしれませんよ」
「そんなわけあるかい!」
そうルーシーは突っ込んだが、すぐに息を飲んだ。
ユートの後ろの青銅の像が動き始めたのだ。
ユートは城を背にしてルーシーの方を見ているから、気づいていない。
2体の青銅の像は剣を振り上げてユートの頭上に落とそうとしている。
「わわわっ……ユート、後ろ、後ろ!」
恐ろしくて腰を抜かしそうだが、何とかそうルーシーは叫んだ。
青銅の像はブロンズゴーレム。この城を守るガーディアンだったのだ。
「え?」
ユートは手にした樫の棒を頭上に挙げて、その巨大な剣を受け止めた。
いや、弾いた。
ぐあ~んと鈍い音がして、1体目のブロンズゴーレムの攻撃は弾かれた。
すかさず、2体目のブロンズゴーレムの攻撃がユートの頭上に来るが、それも受け止める。
どういう原理で樫の棒きれで青銅製の大剣を弾けるのか理解できない。
「お客さんに失礼ですね!」
ユートは2体目の大剣を弾くと樫の棒で横へ薙ぎ払った。
ちょうど足首に樫の棒が当たる。
ボキっ……。鈍い音でヒビが生える。
そして割れる。右足首が割れて左足も割れる。
バランスを崩してブロンズゴーレムが手を着く。
ユートはその頭を棒で叩く。
叩いた瞬間に粉々に砕け散った。
陶器の壺を鉄製のハンマーで叩いた爽快さだ。
1体目のブロンズゴーレムが再度の攻撃をする。
しかし、ユートは余裕で避ける。地面に突き刺さった剣に飛び乗る。
「あらよっと……」
大剣の細い刃の部分にバランスを取って立つユート。
そのまま、持ち上げられるとそこからジャンプして、1体目のブロンズゴーレムの脳天を樫の棒で叩いた。
パン!
弾ける音がして粉々になる。
(マジかよ……)
いくらユートが化け物級の強さと言っても、こんな一方的とは思わなかった。
ここまで10秒とかかっていない。
巨大なブロンズゴーレムは破片となって転がっている。
すると跳ね橋が轟音を上げて落ちてきた。
どうやら、このガーディアンを倒すと橋が設置されるようになっていたらしい。
「どうやら、歓迎されているようですね」
橋を渡りながらユートがそんなことを言った。ルーシーはその意味が分かる。
橋を渡り終えた中庭には、骸骨戦士の1個中隊が陣取っていたのだ。
数は100体。刀身が反り返ったシミターとバックラーを持っている。
「うわわわっ……」
いくら何でも数が多すぎる。
しかし、ユートは全然驚く様子もない。
樫の棒を横一線に振った。
それだけで半円状の『風刃』の魔法が発動する。
真っ二つになって地面に転がる骸骨戦士。カタカタと顎が動き、乾いた音を立てる。
その上を踏んで歩いて行く。骨がポキポキと折れる音を聞きながら、ルーシーは恐る恐るユートの後を付いて行く。
骸骨戦士1個中隊を殲滅したユートは、そのまま正面扉を開ける。
中はホール。中央階段には赤いじゅうたんが敷かれ、2階は奥へと続いている。
「2階へ行けということですかね」
ユートはそう言ったのはわけがある。
階段に2本脚の獣が2体、ユートたちを見下ろしていたのだ。
(お、狼人間だわ……)
ルーシーは怖気つく。狼人間はかなり強いモンスターだ。
人間をはるかに凌駕するスピードとパワーを誇る。
そして銀製の武器でないと傷をつけることはできないと言われる。
普通の武器では斬ったとしてもすさまじい再生能力で治ってしまうのだ。
「普通の狼さんではないようですね」
そんな呑気なことを言っているユート。ルーシーは気が気ではない。
「2歩足で立っているから普通じゃないだろ。あれは狼人間だぞ」
そうルーシーはユートに警告する。
「普通の武器では倒せない。ましてや、お前の樫の棒じゃ無理だ」
いくらユートが不思議なパワーで破壊しても、狼男の再生能力の前では苦戦しそうだ。




