付き人、石を投げる
「ば、馬鹿な……ありえん」
ユグノーは片膝をついた。
老いた体でレベルの高い攻撃魔法を連発。
そして最大級奥義の発動。もう魔力は空である。
意識を失いそうな疲労感を味わう。
「月が出ているときは……魔法も無効化するの……?」
アリナも相当の疲労で両ひざを着いた。アリナ以外の仲間も激しい疲労で一歩も動けない。
(まずい……。第8位階以上の魔法を使うと魔力が枯渇し、体が動かない)
3つ首竜は魔法無効化をしたのだ。第8位階の魔法を放ち、魔力を枯渇したアリナとユグノーは動くことができない。
「ぐああああああああっ……」
3つ首竜は勝利の雄たけびを上げる。
3つの首の鼻から真っ黒なガスを噴出した。
避けきれなかったアリナたち勇者一行は、それを吸ってしまった。その場で崩れ落ちる。
『ドレインブレス』
これを受けると疲労度が最大限に達し、魔力をもつものは完全に0となる。
回復するのに相当な時間を要する。
いわゆる生命力や能力を吸いとる極悪の攻撃である。
さらに今度は炎と氷と酸のブレスでとどめをさすつもりなのか、大きく3つの口を開けた。
絶体絶命のピンチである。
「あ、危ない……勇者たちが……」
後方の岩場で見物していたルーシーが思わず叫んだ。
このままでは、いくら勇者でも死んでしまうだろう。
最強の魔法すら無効化する巨獣に絶望感しか湧いてこない。
「ダメだなあ……」
ポツンとそう言ったのはユート。
あまりにも緊迫感ないのでルーシーはぽかんと口を開けてユートを見た。
「アリナ様の攻撃を受けたら、ちゃんと倒れないといけないでしょ!」
「お前、何をするんだ?」
ユートは握りこぶし大の石を持っている。それを右手でポンポンしている。
ルーシーは勇者たちの危機的な状況に慌てていないユートの様子が信じられない。
「ちょっと、アリナ様のお手伝いをします」
そう言うと、ユートは振りかぶって石を投げた。
普通は岩場の下へと落下するだけだ。
しかし、ルーシーは見た。
石はまるで一直線に地面へ落雷するカミナリのように3つ首竜のところへ飛んでいく。
おそらく距離は2キロ以上ある。
ドゴーン!
今にも3種類のブレスを吐こうとした3つ首竜の胴体に石が命中。
すさまじい衝撃波が起きて3つ首竜は白目をむいた。
6個の目玉が上を向いて動かない。そのまま後ろへ倒れ込んだ。
倒れた振動が遠く離れたこの岩場まで伝わってくる。
(ば、化け物かよ……やっぱり、こいつ、人間じゃねえよ)
ルーシーは違う意味で心臓がどきどきしている。
「こ、これはどういうことだ?」
魔剣を地面に突き立て、ようやく立ち上がったダンテは、気を失っている3つ首竜を眺めた。
石化が始まっており、追撃をすることができないが、それは勇者一行も同じこと。ドレインブレスで体力も魔力もほとんど尽きている。
「どうやら、アリナたちの魔法が全然効果がなかったわけではなかったようだ」
神官のサラディンもそういってほっと息を吐いた。
支援魔法と防御魔法の連発でサラディン自身もかなりの疲労を感じていたところへドレインブレス。
立っているのが精いっぱいである。
年寄りのユグノーに至っては、気を失ってしまいピクリとも動けない状態だ。
「ふん……これが勇者の力よ」
アリナはようやくそう言ったが、彼女も力尽き、そのまま気を失ってしまった。