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炎王の裁き

 3つ首竜は王都から30kmの地点まで来ていた。

 人口3万人の衛星都市クエスを破壊し、その郊外の平原の地下に潜っている。

 3つ首竜が目を覚ますのは月夜の夜。

 それまでは地中で石化してあらゆる攻撃を受け付けない。


「これは厄介ですな」


 大魔法使いのユグノーは顔をしかめた。

 地中奥深くに眠る3つ首竜を掘り出そうと、爆発系の魔法で土をえぐり、体を露出させたのだがそれは固い岩と化していた。

 戦士ダンテやサラディンの攻撃も跳ね返すのみ。

 アリナも電撃魔法や氷結魔法を使ってみたものの、天然の岩よりも固い体を壊すことすらできなかった。


「これは実体化する月夜に攻撃するしかないわね」


 アリナもそう結論を下すしかない。


「しかし、アリナ。月光を浴びている竜の再生力は半端ないらしいぜ」


 そうダンテが懸念を示す。これまで王国軍が戦って敗れたのはこのすさまじい再生能力。

 月光の量でそのスピードは左右されるらしく、戦うなら三日月か雲の多い日がよい。そして厄介なことに新月や雨の日には地中から出てこない。

 そのせいもあってか、圧倒的な強さを誇るのに竜の侵攻は遅い。

 王都がまだ攻略されていない理由だ。


「一度、戦ってみましょう。それに試したいこともありますし」


 アリナはそう提案した。大神官のサラディンはアリナに確認する。


「アリナ、あれを使うのですか?」

「ええ……。一度、やってみます」


 どうやらアリナには秘策があるようだ。


「さすがアリナ様。すばらしい」


 少し離れたところでお茶の支度をしているユートはそう話した。話先は傍にいるルーシーだが、どちらかというと独り言のようだ。


「勇者には秘策がありそうだけど……そんな簡単にいくとは思えないね」


 一応、ルーシーはそう返した。しかしユートの反応は予想通りであった。


「全知全能の神様にも等しいアリナ様のお考え。まちがいなく成功しますよ」

(まあ、仮にうまくいかなくてもお前が何とかするだろうけど……無自覚でね)


 心の中でルーシーそう言ったが黙り込んだ。

 今回、ユートはアリナのことに全幅の信頼を置いて何もしていない。

 てっきり、現場に着いたら竜を岩ごと破壊して勇者の手柄にするかと思っていたのだが、そういう行動をしていない。

 後方の陣地でアリナの世話を黙々としているだけだ。


「そろそろ、時間です。今晩は雲一つない快晴。月は満月。3つ首竜には好条件です」


 そう守備隊隊長が報告した。

 なにやら地鳴りが響き始めた。それと振動。


「こりゃ、いきなり3つ首竜のターンかよ!」


 戦士ダンテが魔剣レーヴァティンを抜く。

 どんな巨獣の固い皮膚も切り裂く剣だ。


「まずは全力で戦ってみましょう。奴の再生能力をみたいですし」


 そういい、アリナも聖剣シャイニング・ブレードを抜く。

 遠くで巨大な3つ首竜のシルエットが見える。

 監視をしていた兵士や冒険者の悲鳴も聞こえる。


「爆炎!」


 呪文破棄でアリナの火炎魔法が炸裂する。

 同じくさらに強烈なユグノーの爆炎魔法も加わる。

 衝撃でのけぞる3つ首竜。アリナたちに向かってまずは中央の首が炎を吐く。


「兵士や冒険者たちを下がらせて……。攻撃に巻き込まれてしまうわ」


 アリナはそう隊長に命令する。

 隊長も慌てて伝令を飛ばす。

 目の前の戦いを見れば分かる。

 もはや、普通の人間が太刀打ちできるレベルではない。


「聖なる盾よ。邪悪な炎より、我らを守りたまえ」


 サラディンが唱えたのは炎を防ぐ魔法。

 2m四方の透明な盾だ。中央の竜が吐いた強烈な炎は魔法の盾に阻まれ、2つに分かれる。

 盾の後ろでアリナたちは炎の攻撃から逃れたが、次に左の首が吐く酸のブレスを避けるために四散する。

 酸のブレスは金属を腐食させる厄介な攻撃だ。

 まともに受けたら防具や武器が損傷を受ける。

 実際に逃げそこなった王国軍の兵士の鉄鎧腐食し、剣も溶けてしまっている。


「やはり、手強いわ」

「再生能力も半端ねえぜ」


 アリナとダンテは竜のブレス攻撃を避けながらも、剣による攻撃を続けている。

 サラディンの攻撃強化の魔法や守備系の魔法で支援され、ユグノーの強力な魔法攻撃も着実にダメージを与えているが、それも徐々に回復してしまう。

 ダメージゲージを見る言葉ができるのなら、削ったとたんに上昇していくのが分かるだろう。


「こうなったら、全魔力を消費して究極破壊魔法『炎王の裁き』で瞬時に体を消滅させるしかないわ!」


 炎王の裁きは勇者アリナと大魔法使いユグノーが使える、現時点での最強魔法だ。

 摂氏1万度の高熱火球を出現させ、それで焼き尽くす。対象物は蒸発して肉片も残らないはずだ。

『炎王の裁き』は第8位階に属する魔法だ。

 通常ベテラン魔法使いが使えるのは第5位階までの魔法。第8位階の魔法が使える者はこの世界に数えるほどしかいない。

 破壊力は軍隊を一瞬で壊滅させるほどである。


「ダンテ、詠唱を終えるまで30秒かかるわ。時間稼ぎをお願い」


 アリナはそうダンテに命令する。

 戦士ダンテは無茶言うなよと目で返したものの、魔剣レーヴァティンを振りかざし、竜の注意をそらす。

 3つ首竜はダンテの攻撃に怒りを爆発させて、これを仕留めようと攻撃を繰り出している。


「破壊の王、滅びの王、消滅の王、我は願う。その力を開放し、王に歯向かう邪悪を清浄化することを。ルメイ・デ・ブロイ・リィジェス……」


 アリナとユグノーが呪文を唱える。

 ユグノーはアリナよりも3秒ほど詠唱を遅らせる。発動時間に時間差をつけることで、畳みかけ。確実に葬るのだ。


「こうしてみると、あんたもすごいけど、勇者もすごいよね。人間離れしているわ」


 後方の山の岩場で戦いの様子を見物しているルーシー。

 戦いが始まり、巻き込まれない後方へとい下がっているのだが、この岩場はかなり離れた場所である。

 なぜ、ここにいるかというとユートがアリナ様の戦いの様子を見るのだと言って一緒に連れてこられたのだ。

 ここからは戦いの様子がよく見える。超人的な戦いをする勇者一行だが、3つ首竜は倒れる気配はない。

 だが、ここで進撃を食い止めていることは事実だ。


「さすがでしょ。アリナ様はすばらしい。見てください、アリナ様が第8位階魔法の炎王の裁きを放ちますよ」


 ユートが自慢げにルーシーの方を振り返った時、景色がオレンジ色に染まった。巨大な火球が大きな3つ首竜を包んでいる。


(すげえ……やっぱり、勇者は勇者だな)


 ルーシーもそう思う。

 神様に祝福され、チート能力を与えられた勇者は別格だ。

 同じ魔法を放つユグノーもその点では凄すぎるが、大魔法使いはその域に達するまでアリナの3倍の年月がかかっている。

 そう考えるだけでも勇者はすごい。


(けれど……ユート。修行も祝福もないのにその上をいくお前の方がすごい)


 さらに3秒後に今度はユグノーが放った同じ攻撃。

 アリナの放ったオレンジ色の火球がさらに包まれ、色が白に代わっていく。

 恐らく中の温度は1万度を超えるだろう。

 すべてのものが蒸発する熱量。さすがの3つ首竜も消滅するだろう。


「え……?」


 光が収まった時、ルーシーは信じられない光景を見る。

 3つ首竜は消滅するどころか、傷一つなく立っている。


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