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ロキの決断

早速のブクマありがとうございます。

「……実につまらん」

 

 銀狼のロキは巨体を横たえた。たった今、自分の力もわきまえない馬鹿な人間どもが自分の領域へと侵入してきた。

 無論、彼らがここへ来ることは分かっていたが、それはこの洞窟で長い時間、無為な時を過ごしたロキにはちょっとした遊びであった。


「できることなら、もう少し、吾輩を楽しませて欲しかった」


 そうロキは大きな尻尾を振った。

 それによって起きた風で1つの氷の柱が粉々に砕ける。

 よく見るとロキの周りにはそんな柱が30本も立っていた。

 そしてその柱はただの柱ではない。

 すべて人が凍り付いてできた人の柱であった。

 粉々に砕けた柱は人の体でもあったのだ。

 彼らは突入してきた王国の騎士たち。

 銀狼ロキの前に敗れ、凍り漬けにされたのだ。


「ぐふ……驕るでないぞ、この狼野郎」


 氷の柱と化した騎士たちの中で、まだ全身が凍っていないものがいた。

 騎士団長である。

 彼は下半身が凍ったが、上半身は首から上が辛うじて魔力抵抗に成功し、無事であった。

 しかし、ほぼ全身が完全に凍っているので動くことができない。

 凍傷によるダメージは彼に激痛を与え、そして徐々に意識も奪っていく。


「ロキ様、この者、目障りです。わたくしめが始末いたしましょう……」


 そう銀狼のロキの右腕の一人である雪霊の魔女が、右手を騎士団長の首に向けて伸ばした。

 白いローブに血のような赤い帯。漆黒の髪と紅の瞳を持つ美女である。

 その驚くほどに白い手から、赤い爪がまるで剣のように伸びて、騎士団長の首に当てられる。


「待て」


 ロキは魔女の行為を止める。

 主人の言葉は絶対である。

 雪霊の魔女は伸ばした赤い爪の剣を引っ込めて頭を垂れる。


「こ、殺せ、どうせ俺は助からぬ……だが、ロキよ……我ら人間の力を侮るなよ!」


 騎士団長はそう最後の言葉を絞り出すように口に出した。

 その様子に銀狼は少しだけ興味を示した。

 何しろ、この数十年、暇を持て余していたからだ。


「人間よ、軟弱なお前らがどうあがこうと、我ら魔族には勝てない。貴様ら人間が知らぬうちに踏みつぶす虫けらと同じ……」

「光の勇者……」


 そう騎士団長は薄れる意識の中、希望をつなぐ言葉を放った。


「光の勇者だと……」

「そうだ、光の勇者……その力の前では、お前はこそが虫けらのように……」

「光の勇者がどうした?」

「我らがここへたどり着くまで、モンスターはほとんど狩りつくされていた。お前よりも強い人間がいるのだ!」

「ふん!」 


 ロキは丸太のような右足で騎士団長を薙ぎ払った。騎士団長の上半身は吹き飛び、氷の壁につぶれたトマトのように形を変えた。


「そのような戯言を口にするでない!」


 ロキはそう言ったが、内心は揺れていた。かつて魔界を支配していた大魔王より光の勇者のことは聞いている。

 神から授かったその力は魔族を凌駕するという。既に大魔王配下の下級幹部が何人か退治されているという。

 そして、先代大魔王は先代の光の勇者によって滅ぼされているのだ。


「ロキ様……よろしいですか。あの虫けらの妄言に関してですが、お耳に入れたきことが」

「……申して見よ」


 ロキはもう一人の片腕、氷の騎士に発言を許した。

 氷の騎士は氷でできた鎧を身にまとい、頭部を覆われたフルフェイスの兜から赤く光る眼を不気味に光らせて、恐るべき報告を主人にした。


「実は偵察部隊から報告がありまして、その光の勇者と名乗る女がこのゾモラの洞窟を目指して旅をしているとのことです」

「な、なんだと……」

「しかも手前にあるニンフの森に住む森の巨人が、光の勇者とその一行の前に殺されたとのことです」

「も、森の巨人ウラヌスが殺されただと……」


 ロキは考え込んだ。森の巨人の戦闘力は自分よりも僅かに劣るが、大魔王軍の中で弱い部類ではない。


 今は隠居しているとはいえ、元将軍なのである。

 今もパワーだけなら自分に匹敵する戦闘力だ。大魔王軍の中でも強い魔物であった。

 戦えば自分ロキの方が強いだろうが、無傷で勝てるとは思わない。

 それだけの実力者である。それを倒すということは、人間といえども、油断をするわけにはいかないと考えたのだ。


(光の勇者が来る……吾輩の守るこの洞窟に)


 ロキは震えた。

 それは恐怖からではない。それはチャンスが来たと考える歓喜から来るものであった。

 この世界を滅ぼすために復活するという大魔王を倒すために、神に遣わされた光の勇者とその一行は、大魔王軍にとっては、最重要ターゲットである。


 倒せば、大魔王軍の中で有名になりさらに出世することができることは間違いがない。

この洞窟を守る銀狼の魔獣ロキは、大魔王の率いる軍団の幹部7魔王に仕える一人であった。

 序列は最下位であるが、いずれ7魔王に登りつける実力ありと魔物たちからは言われていた。


(吾輩が光の勇者を倒せば、こんな地方の洞窟の守備の任務ではなく、大魔王様のそばで働けるというもの……よし!)


 ロキは決心した。

 魔獣ロキは銀の毛をもつ巨大な狼。

 兵士100人を一瞬で凍り付かせる『絶対零度の息吹』という攻撃ができる。

 先ほどの騎士たちは、この能力で全員の戦闘力を一瞬で奪ったのだ。

 そして力も強く、その前足の一振りで重戦士の鎧は凹み、大岩も砕け散る。

 それだけではない。銀狼ロキには付き従う部下がいる。


 冷気の魔法をまとった魔剣を持つ氷の騎士。

 冷気系魔法を自由自在に使う雪霊の魔女。

 そして、前衛には恐れを知らず、粛々と戦い続ける氷の操り人形(マリオネット)が10体。

 これが銀狼の魔獣ロキとその直属の手下の陣容である。

 本来ならば、この地下の奥底で勇者がやって来るのを待つのであるが、どうやら、この魔獣は違う選択をしたのであった。


(吾輩は打って出る!)


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