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コーラン王国の危機

 コーラン王国は危機に瀕していた。

 王国の北の森林に突如現れた3つ首の竜。体長20mもある巨大な竜だ

 それがゆっくりと途中にある町や村を焼き払いつつ、王都ロッカへと侵攻しているのだ。

 3つ首竜は右の竜は冷気、真ん中の竜は炎、左の竜は酸を吐く。

 その鱗は鉄の鎧よりも硬く、弓矢や投げやりでは貫けない。

 王都から派遣された3千の兵はなすすべなく全滅。

 魔法戦士団を中心に再度編成された討伐軍も、激しい戦いの後にほぼ壊滅。

 残された残存戦力で少しでも王都への侵攻を遅らせているのが精一杯であった。

 この3つ首竜は太陽が出ている時は地面に潜り、石化している。

 この時はどんな攻撃も受け付けない。

 夜になると動き出すが、それは月が出ている時だけ。分厚い雲で月が隠れている時と新月の時は地面から出てこない。

 なぜなら、月の出ている時はすさまじい再生力を発揮するのだ。月夜の中での戦いは無敵なのだ。

 王国の魔法兵が力を合わせて、強大なウィンドカッターの魔法で右の竜の首を落としたことがあったが、たちまち再生した。

 たくさんの兵士の犠牲のもと、竜にかなりの傷を負わせても月の光ですぐに再生される。

 なぜ月の光が関係するのかは、多くの兵士の命によって明らかになったことがあり、成果であるとも言えた。

 それは満月の時の再生力は強大であるともあること。

 例えば切り落とした首もすぐに生える。爆炎魔法で吹き飛ばした肉片もすぐにふさがる。

 そして三日月の時はその再生力が鈍いということが分かっている。

 よって、王国兵と王国に雇われた冒険者たちは、三日月の時や雲が多く月が隠れる時に攻撃をするのだが、未だ倒す目処すらなかった。


「勇者アリナとその一党の者たちよ。どうか、どうか、このコーラン王国を救ってください。奴はあと1週間でこの王都へと到達します」


 国王アーラン2世はそう懇願する。

 城にいるものは大臣から小間使いまでみんな疲労で疲れ切った顔をしている。

 王都は滅ぼされた町や村からの住人であふれていた。

 元々10万人が住む都に20万人もの避難民がやって来ている。

 その人々に配給する食料も不足がちで、腹をすかした人々が王宮に押し寄せている。

 王都に竜が来るのは確実。あと1週間でこの都は阿鼻叫喚地獄に陥るだろう。

 そしてこの王都が落ちれば、人々が逃れるところはない。


「分かりました。人々を助けるのが勇者の務め。このアリナ・ロディン。名誉にかけてその3つ首竜を退治してご覧に入れます」


 そうアリナは国王に約束した。

 彼女に従う戦士ダンテ・ロスチャイルド。大魔法使いユグノー・ロックフェラー。そして大賢者サラディン・ベゾフも頷く。

 勇者アリナに従う3人も人間界最強と言われる仲間たちである。

 国王は安堵した。3つ首竜の災厄を聞きつけた勇者一行が来てくれて助かったと心から思った。


(本当に助かったのは、ここにこいつがいることだけどな)


 ルーシーは隣に立っているユートを見てそう思った。

 2人は謁見している勇者たちを離れたところから見ている人々の中にいる。

 城で働く官僚、警備にあたる兵士、雑用をしている女中、貴族の令嬢、いろんな役回りの人間が期待の目で勇者を見ている。

 ユートはその中でも目の輝きが違う。いつものことだが勇者アリナを崇拝する目。信者の目だ。


「勇者様ならあの3つ首竜を倒せるのだろうか?」

「月の出ている時しか攻撃は受け付けないと言うぞ」

「再生能力がすさまじいらしい……」


 これまでの経過はみんな知っている。

 それは勇者でも簡単に倒せないという思いにつながる。

 誰もが不安そうだ。これまでも勇壮な討伐軍に期待をもって送り出し、ことごとく失敗。滅ぼされる町や村は後を絶たない。

 みんな不安なのだ。不安に押しつぶされてしまいそうな気持でいっぱいなのだ。


「大丈夫ですよ、みなさん」


 ユートは明るく微笑んでそう言った。

 もう信じて疑わない態度が100%伝わって来る。


「しかし、いくら勇者様でも……」

「アリナ様は神様、女神様なのです。そんなドラゴンもどき、あっという間に倒すでしょう」


 そう言って胸を叩く。あまりに自信たっぷりなので、この13歳の少年の言葉に聞いている者は勇気が湧いてくる。


「そうだな、勇者様は神の力を与えられている」

「ここの勇者様が来たことは、神の思し召し。わたしたちは救われる」


 心配する声はかき消され、やがてそれは勇者アリナへの声援に変わる。国王に謁見しているアリナたちに声を合わせた。


「アリナ様、お願いします!」

「この国を救ってください!」


 その声援にアリナも答える。立ち上がって国王に礼をすると振り返って右手を上げた。大きな拍手が広い謁見の間を包み込んだ。

 ユートもひと際大きな拍手を送っている。

 ルーシーは既に決まった結論を頭の中で反芻する。


(勇者アリナたちが退治するのは確定……この付き人がいる限り……)


 午後にはアリナたちは雇われた傭兵、冒険者、残った守備隊と共に3つ首竜がいる戦場へ進んで行った。


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