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ダブルアップ

「それでは、ファイナルです。エリーズ嬢、決めましょう!」

「はあああああああああっ~」


 クロードに命じられたエリーズは頭上で槍をぶん回す。

 見事にそれは回転し、見ている者を惹きつけた。


「せいの!」

 クロードは一瞬だけ、エリーズの腕が太くなったような錯覚を覚えた。

 さらに槍も輝きを増したように見えた。ラストの演出でそのようなことをしろと命令した覚えがないので、少し違和感を覚えた。

 エリーズがゆっくりと引き上げた槍。それは天高く突き出された。


「おおおおおおおっ……」

「な、なんと……」

「すげええええっ……当たった瞬間を始めてみた~」


 アリナは自分の持っているくじの山から1つだけ光るくじを取り出した。そこには「83392」と書いてあった。

「や、やったわ~」

「アリナ様、おめでとうございます」


 アリナはうれしさに後ろにいたユートに抱き付いた。


「ば、バカな……0以外は鋼鉄製だぞ、槍なんかで突き通せるわけがない」


 訳が分からないクロード。

 観客はさらにヒートアップする。ダブルアップの時間である。


「ダブルアップだ、さあ、勇者様、行け~っ」

「ちょ、ちょっと、待て!」


 慌ててエリーズを止めようとするクロード。

 クロードに命じられたガードマンが3人、エリーズを止めようとする。


「きえええええええっ~」


 ものすごい掛け声とともに雄たけびを上げるエリーズ。

 そして掴まれた腕を振りほどいた。驚いたことにそれで屈強のガードマンが転げ落ちた。


「あ、ありえない!」


 クロードは驚いて一歩も動けない。

 観客はこれがあらかじめ仕組まれたショーだと思って拍手喝采である。

 ダブルアップの壷もクロードは念のために2倍以上のカボチャは鋼鉄製にしてある。

 しかし、今、なぜか、その鋼鉄製のカボチャを突き刺すことのできるエリーズの前では、そんな姑息な仕掛けは意味をなさない。


「や、やめるんだ、エリーズ、頼むからやめてくれ!」


 クロードの命令に全く耳を貸さないエリーズ。

 思えば、先ほどからエリーズの様子は変であった。


「うりゃあああああっ……」


 美女らしくないエリーズの雄叫び。

 さらに言えば、美女の細腕とは思えない筋肉の腕。


「うああああああっ……」

「おいおい、まさかの……」


 エリーズが片手で突き刺した槍を天高く突き上げた。そのカボチャには1000倍というありえない数字が刻まれている。


「おいおい、金貨1万枚の1000倍って……」

「1千万枚?」

「マジかよ!」


 観客も驚く。このカジノで最高額の賞金であろう。そんな莫大な大金を払えるのかも疑問だ。


「そ、そんな……馬鹿な」


 へなへなと腰を落とすクロード。

 そのクロードに槍先にカボチャをつけたまま、エリーズは槍を差し出した。


「うっ……」


 思わず手を出して受け取ろうとしたが、ずっしりと重く、また槍の穂先からカボチャは簡単には抜けない。

 それもそのはず。槍は鉄のカボチャを見事に貫いていたからだ。


「ば、ばかな……」


 エリーズが槍を2,3回振る。ギシギシと音を立てて穂先が抜かれ、鉄のカボチャがクロードの両手に落ちる。あまりの重さにクロードはそのカボチャを地面に落とした。

 鈍い音を立てて、カボチャは地面を転がった。

 慌てて取り繕うクロード。カボチャが鉄製などと知れたら、大騒ぎになる。


(な、何とか、この結果を覆さねば……)


 クロードはそう思い、のバカげた賞金を何とか無効にする方法を考えようとした手遅れなことを知ることとなった。


「いやあ、アリナ様。莫大なお金を稼ぎましたな」


 アリナに話しかけて来たのはギルドマスター。

 アリナはこのギャンブルで勝ったら、全ての賞金を冒険者ギルドに供託して、この町の貧しい人々への炊き出しに使うと約束していたのだ。

 アリナ一人であったなら、クロードもあらゆる手を使って、この結果をうやむやにすることができたが、冒険者ギルドが間に入るとなると話は変わる。

この町の行政組織よりも冒険者ギルドは力を持っている。

 互いに干渉しない不文律はあるが、利害が関わるとなると別の話だ。

 冒険者ギルドがアリナから賞金を受け取る権利を得れば、その取り立てはギルドがクロードに行うことになる。


「アリナ様、手数料はもらいますが、契約の通り、この町の貧しい人々に対して使わせてもらいますよ」


 そうギルド長はアリナに向かって目を閉じた。


「ユート、お前、なにかしただろう?」


 ことの成り行きを見ていたルーシーは、ニコニコしながらアリナを見守っているユートにそう尋ねる。

 クロードはなんとかごまかしたが、そのカボチャは金属製であった。

 その重さは力地面の男性がやっと持ち上げられる程である。

 固い金属製で槍など突き刺せるはずがない。

 ましてや、エリーズはか弱い女性である。しかも槍なんか使ったことのない素人である。

 そんな彼女がいとも簡単に突き刺した。

 か弱い感じもない。

 まるで狂戦士かのような表情で行ったのだ。


(これは絶対にユートの奴が何かしたに違いない……)


 ルーシーの予想は当たった。ユートがさらりと言ったことは、その予想をはるかに上回るものであった。


「あの女の人に魔法をかけました。クロードさんは事もあろうにアリナ様をだまそうとしていましたからね」

「そうだよな。そうあたしは思ったぜ。で、ユートは何をしたんだ?」

「賢者ユグノー様がくださった魔法書にあった魔法を使っただけですよ」

「どんな?」

「筋肉倍化魔法に、武器強化の魔法に、狂戦士になる魔法かな……初歩の初歩だよ……所詮、付き人に使える魔法だからねえ……」

(いやいやいや……!)


 ルーシーは首を振った。そんなの素人が使えるはずがない。

 使えたとしても効果は限られている。

 しかし、ユートに魔法をかけられたエリーズの様子は尋常じゃない。止めようとしたクロードの部下も全部振りほどいての一撃である。

 見事に当たりカボチャを突き刺した。金属製の固い固いカボチャをだ。


(おや……)


 ルーシーは考え直した。

 確かにユートはエリーズに密かに魔法をかけたのであるが、エリーズが当たりを引いたのは偶然である。

 金属製のカボチャではなくて、本物のカボチャを突き刺すことだってあったかもしれないからだ。


「ああ、それですか。それは偶然ですよ。元々、これはギャンブルですからねえ。不正が行われたので、それを公正にするために魔法を使っただけで、それ以上はかえってこちらが不正になってしまいます。それでは勇者たるアリナ様がお喜びになりませんから」


 ユートはそうすまして答えた。

 ルーシーはもう心の中で(はいはい……)とつぶやくしかない。この少年はきっと幸運のステータスも最高値なのであろう。


「お、お前……お前だ。お前に会ってから何かおかしい。お前は何なんだ!」


 髪を見出し、シャツを出し、放心状態のクロードがユートを見てそうぼやいた。

 この少年に会ってから計画が狂った。

 しかも一瞬ですべてを失ったのだ。

 ユートはにっこりとほほ笑んだ。


「僕はユートと言います。勇者アリナ様に仕えるただのしがない付き人です」

「ただの……しがない……つ・き・び・と!?」


 クロードは口を開き、両手を顔に当てて固まった。

 いつの間にかゴージャスな金髪は老人のような白髪になっている。

 この莫大な賞金により、クロードが経営する公益法人は倒産。クロードも全財産を失った。

 それだけではない。後ろ盾をしていたザイチェフ伯爵も連帯保証をしていたから、彼も破産の憂き目にあった。

 それで副市長も辞任となったのは後日の話。

 その間も勇者の付き人ユートは淡々と仕事をこなしていた。彼にとって、アリナの世話が一番なのだ。


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