当たらない富くじ
「さすが勇者殿。どこまでも運が強いですな。その運の強さをどうでしょう。富くじに投入されては?」
そうクロードはアリナに次のギャンブルに誘った。例の富くじである。
「へえ……面白そうね」
アリナはクロードの話に乗り気になった。
もちろん、ユートはその後ろでニコニコ立っている。ルーシーはこのうさん臭い話に顔をしかめているのと対照的である。
「アリナ様、金貨3600枚程度では、この町の民衆を救うことはできません。この富くじで1等を当てて、ダブルアップすれば莫大なお金になります。そうすれば、アリナ様の思い通りになるでしょう」
クロードはそう言葉巧みにアリナを誘う。
くじの売り出し数は10万枚。1口銀貨3枚だから、おおよそ金貨3万枚で買い占められる。
ということは、アリナが3600枚投入すれば1万枚ほどのクジを買える。
これなら、10分の1以上で当たる可能性があるということだ。
先ほどの38分の1を当てまくったアリナなら、あり得ると思わせる勝負である。
「ユート、どうしましょう?」
「アリナ様の御心のままに……」
ユートはそう答えるだけである。アリナもそれを期待しての確認である。
「わかりました。それではクロードさん、全部をそのクジに代えてください」
アリナはそうクロードに答える。さっそく、数字の書かれた紙が運ばれてくる。
全部で1万枚である。
「抽選は本日、この場で行われます。クジはアリナ様がたくさん買われたので、すでに売り切れです。買われた誰かが1等の幸運に輝くでしょう」
そうクロードは言ったが真っ赤な嘘である。2等までは出たとしても、絶対に1等は出ない。これは確証がある。
(なぜなら、最後の1桁の数字、0しか出ないんだよ)
一桁の数字が0が出ることは間違いがない。そして、くじの最後の数字が0の番号はあらかじめ除外しているのだ。これなら絶対に当たらない。
(2等は当たるかもしれないが、それでも金貨100枚。大幅に回収できる)
クロードは勝ったと思った。アリナに1%の勝ち目もないのだ。
笑いを堪えるのが大変ですぐにアリナの元から去り、抽選の準備に取りかかる。
富くじの抽選方法はこうだ。
壷の中に数字の書かれたカボチャを入れる。それを選ばれた人間が槍で突くのだ。
もちろん、壷は密閉されているので槍を使う人間は全く見えない。
クロードは抽選結果を見に来た人間の前で、壷の中を確認させ、そしてカボチャを一つ一つ入れていく。
「それでは抽選を行います。まずは槍でカボチャを突く役をやっていただく方をご紹介しましょう。この町の歌姫エリーズ嬢であります」
そうクロードは紹介をすると、町では有名な歌手が現れた。かなり人気があるようで、観客からは拍手喝さいを浴びている。
無論、このエリーズ嬢はクロードの愛人で、今回の不正な抽選については知らされていた。
彼女に教えたことは、最後の1桁の壷で違和感があってもそれを口外せず、カボチャを刺せというものであった。
(くくく……最後の壷のカボチャは0以外刺さらないよ。何しろ、0以外は鋼鉄のカボチャなんだよ。エリーズの力じゃ貫けない。槍も鋼鉄は貫けない……)
クロードはエリーズに合図を送った。まずは最初の5桁の数字を決める。
「はい、見事に突きました。貫いたカボチャの数字は……8」
「おおおおっ……」
どよめく。まだ最初の数字だからこれはまだ早い反応だが、最初の数字が8でない人間はもう落胆している。
そして最初の数字が8になっているくじが光る。これはあらかじめ魔法がかけられており、数字が確定するたびに光が消えていくのだ。最後に光り続けたくじが一番くじとなる。
「次は……3」
先ほどまで輝いていたくじで「83」になっていないものは、ここで輝きを失う。ちなみにアリナの持っているくじの山は光り続けている。
「3つ目は同じく3」
3つが確定して、光がだいぶ消えていく。アリナのくじの山も最初に比べると光の度合いが少なくなる。
「4つめ行きましょう!」
クロードに促されて、エリーズは思い切って突き刺した。
「数字は9……これで8339……最後の数字は……」
司会をしているクロードはここで進行を止める。
なぜなら、この時点で勇者アリナの買った3枚のクジが光り続けているのだ。
「おおおおおっ……勇者様のくじが3枚も光っている!」
「ということは、壷に入っているカボチャは10個だろ」
「確率は10分の3じゃないか~っ」
周りは大興奮状態。だが、クロードは落ち着いている。
ここまでは計算のうちなのである。ちなみに「83390」のくじはクロードが確保している。
もちろん、クロードがこのくじを持っていることは秘密である。
(勇者の勝ちはないね……勇者のリーチくじは……「83397」と「83396」と「83392」ね……まあ、どこかで興奮している奴もあと6人いるが、そいつらも含めて全員撃沈ってね)
心の中では大笑いをしているクロード。結果が分かっているのに興奮している観客は滑稽な存在でしかない。




